PROFILE: 川部将士/社長

商社出身の川部将士氏が社長に就任して2年。ファンドとの二人三脚のもと、トップダウン型のオーナー企業といったかつての姿から脱皮し、社員一人ひとりが主体的に考えて実行する組織のあり方を構築中だ。その成果がじわじわと表れ始めている。
ベトナム子会社の基盤強化
現地で2ブランド約180店を運営

WWD:社長就任から2年。2024年をどう振り返るか。
川部将士社長(以下、川部):22年からティーキャピタルと組んで再建を進めており、当初から3〜5年以内の株式上場を掲げてきた。上場を目指す中でグループ経営の意識が強まり、私自身もストライプインターナショナル社長としてよりも、持株会社ストライプホールディングス社長としての役割が増している。従来は傘下企業がそれぞれに頑張る組織のあり方だったが、この1年で傘下企業がお互いにサポートしつつ、グループ全体として成長していくという考えが浸透してきた。当社は本業からスピンアウトする形で子会社ができたわけではなく、成り立ちも強みも異なる企業が加わってグループができている。だからこそ、多様な可能性があると実感している。
WWD:グループ全体としての成長を目指す中で、特に注力しているのは。
川部:海外の事業会社は私が直接ビジネスを見ている。「ネム」「バスカラ」の2ブランドで180店前後を出店するベトナムには、月1回出張して経営基盤を整えているところだ。両ブランドとも、オフィスで働く女性が対象だ。人口増加著しい東南アジアは勢いがあるが、一言で東南アジアと言っても文化や宗教は国ごとに違う。例えばイスラム系住民も多いインドネシアなどは、肌を露出する韓国系ファッションよりも、日本のかわいらしいファッションが支持される可能性がある。国内のことで言えば、ストライプインターナショナルとキャンの間で経営基盤の連携を強めている。外部から優秀なリーダーの登用も進み、両社の幹部同士が意見交換しながら、グループに横ぐしを通す形に変わってきた。一例として、従来は事業部ごとに行っていたサプライチェーン管理は、全社一括の部門を23年に新設。(取引先工場を指す)スコープ3まで含めたCO2排出量の把握が25年の早期に可能になる。かつてのオーナー企業体質に代えて、各々が自分で考え実行する姿勢が、まず幹部から浸透してきた。
WWD:24年9月には、グループ全体としての提供価値を「グッドサプライズ創造業」と定めた。
川部:社内でワークショップを行うと共に、お客さまの声も聞き、当社がやってきたこと、今やっていること、今後やるべきことを考えて決めた。グッドサプライズ創造とは、日々の暮らしの中で「今日この服を着ていてよかったな」と感じられるような、ちょっとしたプラスを生み出すこと。アパレルビジネスは、従来は価格の上げ下げや発注量の増減、セール時期をいつにするかといった要素で語られることが多かった。しかし、気候も考え方も従来とは変わっている時代に、果たしてお客さまはそこに価値を求めているのか。何が価値なのかをもう一度考えないといけない。生活衣料を扱う企業として、お客さまが日々抱えている悩みに対する解決策となるような、より良い商品、より良いサービスを追求する。例えば、忙しい暮らしの中で時短が叶う商品などもそれに当たる。
WWD:個別のブランドの状況に目を向けると、「アース ミュージック&エコロジー(EARTH MUSIC&ECOLOGY)」が復調し、好調だ。
川部:リブランディングが奏功している。当社も暖冬で苦労したが、24-25年秋冬も前年比2ケタ増に近い数字で推移し、デベロッパーからの注目度も上がってきている。みなが自分で考えて実行する組織に変わってきた結果であり、これを根気強く継続していく。最大規模の「グリーンパークス(GREEN PARKS)」は前年に引き続き、高い収益性で全社を押し上げている。事業部の若返りが進み、経験が人を大きくしていく。課題もしっかり見えているので、さらに伸びる。「アメリカンホリック(AMERICAN HOLIC)」は24年、非常に好調で利益がしっかり残せるようになった。従来は一律で全商品をセールするといった荒っぽいことをしていた。商品の魅力を店頭POPやSNSで伝えるなど、より良い商品、より良い購買体験への取り組みが進行中。企業全体としてかつてのタイムセールのイメージが強いかもしれないが、売り上げを稼ぐためだけのセールはしないと、既に社内に浸透している。
WWD:改めて、25年の注力ポイントは。
川部:社長就任1年目の23年は利益重視で黒字転換を果たし、営業利益率4%台後半を達成した。2年目の24年は、将来の成長を見据えて積極的に投資を行った。それゆえ、収益性は1年目に比べて若干落ちたが、想定内だ。3年目となる25年は、見出した可能性を実行に移していく。グループ経営を強めることで、収益性はもっと高められる。国内でも、お客さまの毎日をグッドサプライズにあふれたものにしていくことで当社の可能性は広がるし、マーケット自体が成長している海外の可能性は言うまでもない。経営基盤を固める中で、社員みなが成長していこうと思えるあり方にすべく、25年から人事評価制度も変更した。グループ全体の環境整備が自分の仕事だ。
実現の可能性はゼロじゃない私の夢
歴史や哲学が好きで、会議でもついつい歴史上の出来事や教訓を話しがち。特に、近隣の有力者を束ねて力をつけていった戦国武将・毛利元就の、周囲への細やかな気遣いに共感。歴史や人間について考える視点を生かし、何か文章を残したい。
1994年に岡山県でセレクトショップとして開業。95年にクロスカンパニー設立、99年に「アース ミュージック&エコロジー」を立ち上げてSPA企業に転換。2012年キャンをグループ化、16年ストライプインターナショナルに社名変更。22年持株会社ストライプホールディングスを設立し、ストライプインターナショナル、キャン、海外子会社などを傘下に持つ。ストライプインターナショナルの24年1月期は売上高が前期比0.4%増の609億円、純損益が22億円の黒字(前期は15億円の赤字)
ストライプホールディングス
03-6773-7064