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特集 CEO2025 ファッション編

【アダストリア 木村治社長】東南アジアで種まき加速 プラットフォーマーへ進化する

PROFILE: 木村治/社長

木村治/社長
PROFILE: (きむら・おさむ)1969年生まれ、茨城県出身。90年に福田屋洋服店(現アダストリア)に入社し、店長などを経験。2001年に独立してワークデザイン設立。同社は07年にドロップ(トリニティアーツの前身)と経営統合し、11年にトリニティアーツ社長に就任。16年にアダストリア常務、18年副社長を経て21年取締役社長、22年から代表取締役社長 PHOTO:SHUHEI SHINE

中長期的な目標として、アパレル小売業からプラットフォーマーへの転換を掲げているアダストリア。国内外約1500の実店舗と公式ウェブストア「アンドエスティ」の両輪での成長や、30ブランドを超すマルチブランド戦略が独自性を生んでいる。

25年春、銀座に
「グローバルワーク」旗艦店出店

WWD:2024年2月期は過去最高業績を記録。原料高が続き、暖冬も厳しかったが、この1年をどう評価するか。

木村治社長(以下、木村):掲げてきたマルチブランド・マルチカテゴリー戦略が好調につながっている。「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」「ニコアンド(NIKO AND…)」「スタディオクリップ(STUDIO CLIP)」「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」という基幹4ブランドで、売上高約1300億円を計上していることが当社の事業全体の基盤になっている。特に「グローバルワーク」は30周年を迎え、テレビCMの効果もあって、マス層での認知が非常に高まってきた。30年までにブランド単独売上高1000億円(24年2月期実績は516億円)を目指し、25年は春に銀座に旗艦店を出店する。同時に「グローバルワーク」で、進出済みの台湾、香港に加え、東南アジアへの出店も進める。そのためにも、銀座の旗艦店で知名度を上げる必要がある。

WWD:24年は公式ウェブストア運営を子会社に移管し、名称も「ドットエスティ(.st)」から「アンドエスティ(and ST)」に変更。30年に流通総額1000億円を目指すと発表した。

木村:24年は「小売業からプラットフォーマーに変わるための準備の年」と位置付けていたが、子会社アンドエスティにEC運営を移管したことで、ひとまず24年の目標は達成した。ありがたいことに、「アンドエスティ」への出店を希望する他社ブランドは徐々に増えている。出店ブランドの数を追求すると、他ECモールとの差別化が難しくなる。「アンドエスティ」とシナジーが出せるブランドに出店いただきたい。例えば、「アンドエスティ」購入商品を実店舗で受け取るといったOMO戦略が一緒に取れるブランドだ。「アンドエスティ」は、今後5〜6年は積極投資で越境ECも拡大する。単にモノを売るだけではなく、さまざまなサービスを開発し、外部とのポイント連携も進め、出店ブランドやスタッフ、お客さまとの濃いつながりを作っていく。OMO型ストアの「アンドエスティストア」で、25年春には原宿駅前に出店も予定する。

WWD:海外事業では、中国本土の景気減速が目立つ。

木村:中国本土は24年は我慢の年だった。恐らく25年も同様だろう。ただし、24年末に蘇州に「ニコアンド」の新店をオープンしたし、上海に「アンドエスティ」と連動したOMO型店舗も出店した。中国本土の商売をやめる気は全くなく、今後も市場状況を分かっている場所では、スローダウンはしても出店を続けていく。一方で、台湾と香港事業は引き続き絶好調だ。台湾は出店開始から20年が経ち、日本と同じくマルチブランド戦略が奏功している。売上高は約70億円に育った。香港はコロナ禍で一時は退店もあったが、再出店で成長している。また、12月にはフィリピン・マニラに「ニコアンド」の1号店を出店し、タイ・バンコクには24年に「ニコアンド」2号店をオープンした。両国では今後さらに出店を重ねる。中国本土が厳しい分、東南アジアにシフトしているが、1国に集中することなく各国でデータを取り、検証を重ねていく。

WWD:海外出店などキーワードが既にいくつか出たが、改めて25年の注力ポイントは何か。

木村:軸は変わらない。マルチブランド・マルチカテゴリー戦略のもと、主力ブランドを成長させていくという面では、前述の「グローバルワーク」銀座出店にかなり力を入れる。また、「グローバルワーク」に次ぐ規模の「ニコアンド」は、雑貨や家具を扱い、野外イベントも行うなど、ライフスタイルを全般的に提案できており、好調な他社の雑貨業態に対しても差別化ができている。「ニコアンド」と「スタディオクリップ」、急成長中の「ラコレ(LAKOLE)」、24年にウェルカムから買収した「トゥデイズスペシャル(TODAY'S SPECIAL)」「ジョージズ(GEORGE'S)」を合わせれば、アダストリア単体では雑貨・服飾雑貨の売上構成比は4分の1ほどにまで高まっている。24年は10月の高気温に悩まされたが、雑貨は気温変化に関係なく売れる。雑貨業態は引き続き出店を強化していく。

WWD:今後の自社の可能性をどう考えているか。

木村:日本の少子高齢化は、アパレル業界や世の中が考えている以上に急速に進んでいる。例えば物流は、人手不足で滞るようになってきた。ここに対してもう少し迅速に対処しないと取り返しがつかなくなる。また、あらゆるコストが上がり、われわれのような企業規模でも利益を出すのが難しくなっている。このように日本市場の成熟が進む中では、海外、特に成長性の大きい東南アジアで種まきを行っていることは、当社の可能性の一つだ。新卒採用は当社は業界内では恵まれており、中途でもすばらしい人材が入ってきてくれている。それもわれわれの大きな可能性だ。福田(三千男会長)の時代から現場スタッフ第一を掲げ、23、24年は2年続けて平均6%の賃上げも行った。経営幹部が現場スタッフの声を直接聞くタウンミーティングも毎年続けている。社員みなにとって働きやすい環境作りを、今後もたゆまず追求していく。

実現の可能性はゼロじゃない私の夢

『1カ月バカンス』

まとまった休みが取りづらいので、何もしない休みを堪能したい。スマホも見ず、ホテルにこもる。普段は海外出張のフライトが比較的ゆっくりできる時間で、そこで浮かぶアイデアも多い。1カ月休んだらいいアイデアが浮かぶはず!

COMPANY DATA
アダストリア

1953年に茨城・水戸で福田屋洋服店として創業。93年にポイントに商号変更。2013年にアダストリアホールディングスとしてトリニティアーツなどをグループ化。15年にアダストリアホールディングス、ポイント、トリニティアーツを統合し、アダストリアに社名変更。主要ブランドは「グローバルワーク」「ニコアンド」など。24年2月期は売上高が前期比13.6%増の2755億円、営業利益が同56.4%増の180億円だった


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