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モンベル、被災地支援に「アウトドアの知恵」 約30年の積み重ねを生かす

能登半島地震が発生して1カ月。企業による物資の支援や義援金が活発になる前、いち早く動いたのがアウトドア用品メーカーのモンベルだった。ボランティア集団「アウトドア義援隊」を発足させ、現在までに延べ120人が現地で活動した。同社が扱うアウトドア用品は防災や災害時に役立つものが多い。行政の手が届きにくい初期段階から迅速に動けるのは、1995年の阪神大震災以来、国内外で積み重ねてきた支援経験があるからだ。

正月休み明けの4日。モンベルの大阪本社では、寝袋、ダウンジャケット、下着などを2台のハイエースに積み込むスタッフたちの姿があった。第1陣の6人が石川県羽咋(はくい)市にある同社流通センター「北陸モンベル」の前線基地に向けて出発した。

羽咋市は能登半島の南部に位置し、元日の揺れは大きかった。「流通センター内のソーター(自動仕分け機)が壊れたり、壁が落ちたりと被災したが、ハンドピッキングに切り替えて出荷作業を行なっている。ここを拠点に、とくに被害が大きかった珠洲市と輪島市を中心に、小規模な避難所や個人宅、車中泊の被災者などに支援物資や水、灯油を配達して回った」(同社広報部の大塚孝頼課長代理)

登山用の携帯トイレが活躍

現地入りした義援隊は、きめ細かいヒアリングをした上で、必要とされる物を届ける。長引く断水など被害状況が厳しい被災地でとくに需要が高かったのが、軽量コンパクトな使い捨て携帯トイレだった。約2000個を配布し、携帯便座となるトイレシートとポップアップ型テントを併用し、簡易トイレを設営した。防寒着となるダウンジャケットやフリースウエア、アンダーウエアのほか、避難所で寝るための寝袋、断熱効果の高い登山用スリーピングパッドも配布した。「着の身着のまま避難されていてお風呂にも入れないので、防臭効果を備えたアンダーウエアも非常に喜ばれた」(大塚氏)という。

アウトドア義援隊が速やかに動けるのは約30年の積み重ねがあるからだ。誕生のきっかけは1995年の阪神淡路大震災。モンベル創業者の辰野勇社長(現会長)がアウトドア関連の企業や団体に呼びかけて組織した。試行錯誤の連続だったが、アウトドアで培った経験や知識、機能的な道具がいざというとき非常に役立つことが分かった。以来、新潟中越地震(2004年)、東日本大震災(11年)、ネパール大地震(15年)、熊本地震(16年)など国内外の自然災害の被災者支援のための現地活動を継続的に行なってきた。

能登半島地震においても自社製品だけでなく、さまざまな企業の協力を得た。新富士バーナーのアウトドア用ガスバーナー、永谷園フーズの食品、味覚糖の菓子など支援物資の提供を受け、被災地に届けている。

ただ、災害によって被災状況が異なるため、予定通りにいかないことも多い。能登半島の独特の地形が支援の手を阻み、いまだ救済、復旧作業が遅れている。発災直後は羽咋市の前線からでも被災地の珠洲市まで片道約6時間、輪島市まで約4時間かかった。「私たちは緊急車両扱いで入ることはできたが、道路状況がかなり悪く、混んでいたので活動時間のロスはあった。現在は仮設トイレが設置されたり、2次避難所に移動したり支援の体制が整ってきているが、発災直後に行政の支援が行き届いていないときにスピーディーに確実に困っている方に物資を届けるのが、アウトドア義援隊の目的」と、大塚氏は話す。

野外活動の経験がいざというとき役立つ

能登半島は、同社が推進協議会を立ち上げて全国の自治体と取り組むジャパンエコトラックに賛同し、ルート設定したエリアのひとつ。豊かな自然の中を自転車やトレッキング、カヤックなど人力による移動手段で楽しみながら旅しようというもので、道標を立てたりして思い入れがある土地だ。「棚田や見附島など地震や津波のせいで情緒ある景色が変わってしまったのが残念」と大塚氏。アウトドア義援隊の現地での活動は4次隊で一旦終了するが、今後は提携する自治体に災害援助金を贈るなど復興支援へと移行する。

同社は、公式ホームページ内で「暮らしの中の防災」をテーマに、防災に関する知識と災害時に役立つアイテムを紹介している。水害時にライフジャケットになるクッションやフリーズドライ製法の非常食などは、地震発生時から注文が増えているという。

大塚氏は「キャンプや山登りなどで日常生活とは異なる環境に慣れておけば、災害が起きたときに対応できる。低い山でもいいし、野外活動を体験しておくだけで全然違う」と、普段からアウトドアを楽しむことの大切さを呼びかけている。

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