ビューティ

「シャネル」がパンタンの化粧品開発研究所を初公開 ココ・シャネルの哲学を体現する“統合美”戦略とは?

シャネル(CHANEL)」はこのほど、仏パリ郊外のパンタンに構える化粧品開発研究所の一部を初公開し、フレグランス・ビューティ部門における “インテグレイティブ・ビューティ(統合美)”戦略の舞台裏を明らかにした。

「シャネル・ビューティ」発祥の地をはじめ
世界5カ所に研究拠点を構える

基礎研究から商品開発の中枢を担う同研究所は、最近解説した中国・上海の拠点に加え、米ニュージャージー州ピスカタウェイ、韓国・ソウル、日本・船橋の5カ所に拠点を持つ。これらのローカル市場を常にモニタリングすることで、イノベーションの可能性を見いだすことができるという。こうした世界中のネットワークの中心地となっているのがパンタンだ。同地はセーヌ川と鉄道が近く、19世紀にはフランスの石けん、化粧品、スキンケア産業が集中していた。ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)創業者は1924年、パンタンにフレグランスや化粧品の製造販売を担う会社ソシエテ・デ・パルファン・シャネルを創設し、メゾンを代表するフレグランス“ No. 5”やメイクアップラインを発表。27年にはスキンケアラインが誕生した「シャネル・ビューティ」発祥の地でもある。

シャネル・フレグランス・アンド・ビューティ部門のブランディーヌ・ヴェラン(Blandine Velin)=インターナショナル・ヘッド・オブ・インフルエンス・アンド・ブランドエンゲージメントは、原料調達から試験、処方、パッケージングに至るまで脈々と息づくメゾンの“インテグレイティブ・ビューティ”の哲学とアプローチについて「メゾンの創造の根幹であり、ガブリエル・シャネルが直感的に思い描いたホリスティックなビジョンの延長線上にあるもの。ミニマリズムが象徴するように、女性の欲望を真に満たすには余分なものを削ぎ落とす必要があるというブランドの哲学でもある。『シャネル』のインテグレイティブ・ビューティの哲学は、自社研究所だけでなく外部機関や才能ある専門家らとの連携によって導かれている」と説明する。

研究所には約300人の科学者が在籍する。ナタリー・ヴォルペ(Nathalie Volpe)=インターナショナル・イノベーション研究開発副社長は「彼らは美の多様性を実現するため科学とイノベーションを駆使して安全性、性能、卓越した効果を兼ね備えた商品を開発するという使命に日々取り組んでいる」と語る。

オープンイノベーションを推進し
スタートアップ企業と連携

近年、同社はオープンリサーチとオープンイノベーションを融合し、最先端の分野で研究を行うスタートアップ企業や大学、原材料サプライヤーとの協業にも積極的だ。皮膚や脂肪組織の高度な3Dエンジニアリングを手掛けるラボスキン・クリエーションズ(LABSKIN CREATIONS)と協業し、3Dバイオプリントによる人工皮膚の開発に成功した。また、皮膚の内部構造を高解像度で見ることができるイメージング装置を提供するダマエ・メディカル(DAMAE MEDICAL)や、菌根菌(菌根を作って植物と共生する菌類)に着目し効果的な生物学的ソリューションを開発するバイオ企業マイコフィト(MYCOPHYTO)などとも協業している。ネットワークを拡大しながら、製薬や食品、テクノロジー、生物医学の分野に加えて、最先端の塗料や自動車、光学、印刷、セラミックといった産業からもインスピレーションを得ているという。

植物研究においては、原料供給の拠点となる自社農園、オープンスカイラボラトリーの存在が欠かせない。同ラボラトリーは、コスタリカ、仏南西部のゴジャック、仏南アルプス、マダガスカル、ブータンと世界の異なる気候地帯の5カ所に展開する。マダガスカルのラボラトリーでは、「シャネル」のエイジングケアライン“サブリマージュ レクストレ”に主成分であるヴァニラ プラニフォリアを採取している。同ラボラトリーでは植物の栽培だけでなく、社会的・環境的イノベーションの実験的取り組みも行う。基本理念には、生産者と共にフェアトレードのサプライチェーンを構築し、生物の多様性や土壌を保護すること、「シャネル」が使用する植物に関連する無形文化遺産を保護することなどが含まれている。

最先端の老化研究が導く
真の統合美のビジョン

「シャネル」は1991年から大規模な肌の研究に取り組んでいる。世界9カ国から6万枚以上の顔写真を集め、独自の方法論で評価を行い、その結果やアンケートから400万件のデータを収集した。93年には商品の手触りや見た目に対する反応に焦点を当てた官能評価研究所を統合。感情と幸福に焦点を当てた同研究所では、人の頭部に神経センサーを取り付けてスキンケア商品を試し、脳波の動きで興奮、驚き、緊張、退屈、疲れ、悲しみ、失望などの感情的な反応を読み取る研究を行っている。マリー=エロイーズ・バルデル(Marie-Heloise Bardel)=神経科学部門責任者は「『シャネル』はあらゆる美の形は気分の良さから始まると信じている」と言い、高いレベルの喜びと感動を与える商品開発を目指し、日々研究に余念がない。

2014年にはゲノム研究を開始し老化に関する遺伝子要因を特定するなど、老化研究にも力を入れている。老化は医療分野と同様、化粧品メーカーにとっても注目度の高いトピックスだ。パンタンの研究所内では、生物学と臨床、ベネフィット(便益)とパフォーマンス、神経科学の3つのハブに分かれている。アルメル・スロー(Armelle Souraud)=国際科学コミュニケーション・ディレクターは、「われわれの老化研究は前例がない視点を持ち合わせたもので、活力に満ちた健康的な肌を手にするための非常に有望な研究だ」と説明する。長期間にわたって得られた肌研究のデータやこうした最先端の老化研究の成果が、 “サブリマージュ レクストレ”を中心としたブランドのエイジングケア商品に反映されているという。

「シャネル」はまた、人の筋肉や臓器、脳を取り囲む結合組織である筋膜など、体と心の関連性にも注目している。筋膜療法士のエレーヌ・ブルヒ=ボワ(Helene Bourhis-Bois)と共に独自のトリートメント技術「ラ・ファシア・ドゥ・シャネル」も開発した。同メソッドはホリスティックなアプローチで顔の筋膜をゆっくりと大きくストレッチすることで、深いレベルまで心と体を解きほぐしながら輝くような引き締まった肌へへと導く。ヴァレリー・ミッシェル・ビノット(Valerie Michel Binotto)=化粧品・研究所・スパ開発研修ディレクターは、「10年前、私たちはガブリエル・シャネルの美に対する総合的なビジョンを体現できる革新的なマッサージ技術を探していた。『ラ・ファシア』の技術は肌の美しさとウェルビーイングの実現を兼ね備えたものだ。これは心と体への真のアプローチであり、美に対する真の統合的なビジョンだ」と語った。

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