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ファッション業界が知っておくべきアート作品とのかかわり方 著作権編【ファッションロー特集】

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「WWDJAPAN」2023年6月19日号では、3年半ぶりにファッションロー特集を掲載した。“ファッションロー”とは、「ファッション産業やファッション業界に関わるさまざまな法律問題を取り扱う法分野」(経済産業省「ファッションローガイドブック2023」)のことだ。特集ではここ数年にわたるファションロー関連のニュースの“トレンド”を振り返りつつ、法改正から最近話題の生成AIまで、実務面から今知っておくべき5つのトピックを紹介している。

5つ目のトピックとして、「アートと著作権」という切り口からファッション業界が知っておくべきアート作品との付き合い方を聞いた。近年、ファッションブランドが作家の意思に反してアート作品を広告などに使用してトラブルになったり、商業施設の運営会社が作家の意向を確認せず作品を無断で改変した事件が相次いで報道された。報道されていない事情もあるだろうが、「他者の作品に対して敬意を払う」という意識が欠如しているケースもあるように感じる。「他者への配慮」だけではトラブルがなくならないため、「法律」というルールが存在する。今回は著作権の観点から、木村剛大弁護士にアート作品を利用する際の留意点を取材した。(この記事は「WWDJAPAN」2023年6月19日号からの抜粋に加筆しています)

木村剛大(きむら・こうだい)/小林・弓削田法律事務所 弁護士

2007年弁護士登録、第一東京弁護士会所属。ライフワークとしてアートロー分野に取り組み、アーティスト、アートギャラリー、アート系スタートアップ、美術館、キュレーター、アートコンサルタント、コレクター、パブリックアート・コンサルタント会社、アートメディア、アートプロジェクトに関わる各種企業にアドバイスを提供する。また、ウェブ版美術手帖、Tokyo Art Beatなどのメディアに記事を寄稿し、「Art Lawを日本へ」を掲げて活動している 【最近気になるファッションロートピック】「メゾン マルジェラ」のカレンダータグの商標登録出願が欧州連合知的財産庁で拒絶されたニュース

WWD:2022年12月、長野県立美術館所蔵の中谷芙二子氏の作品「霧の彫刻#47610-Dynamic Earth Series I-」の前でファッションブランドが撮影した映像が、作家本人から許可を得ずに撮影され、また、作品が改変されていたとして問題となった。また、今年2月には「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON以下、LV)」がフォンダシオン ルイ・ヴィトンに展示されたジョアン・ミッチェル氏の作品の前で作家の許可を得ず広告を撮影したとしてトラブルになった。さらに同時期に、また、今年に入ってミヤシタパークに設置されていた吉田朗の「渋谷猫張り子」のデザインが無断で改変され、吉田側が所有者である三井不動産に対して著作権侵害および著作者人格権の侵害に当たると抗議し、作品の原状回復と再設置を求めて交渉を重ねていたが決裂したと報じられた。こうしたトラブルが起きてしまう根本的な理由はどこにある?

木村剛大弁護士(以下、木村):一概には言えませんが、①著作権や著作者人格権について理解がないパターン、②法律に対する理解がある程度あっても、許諾の手続きが不十分なパターン、③全て理解してなお断行する、リスペクトがないパターンの3つに分けられます。報道の内容だけで判断すると、ミヤシタパークは①のパターンかと思います。自分たちに所有権があるから自由に改変して良いだろうと考えて、著作権や著作者人格権と所有権は別物だということを理解できていなかったのではないでしょうか。また、「霧の彫刻」の件は②のパターンでしょう。長野県立美術館が公開した第三者委員会調査報告書によると、作家の許諾が必要だという認識はあったようですが、中谷氏が利用を許諾したと受け取れるような連絡が美術館からあったことから、ファッションブランド側としては中谷氏の許諾が取れたと思っていたのに実際は取れておらず、トラブルになりました。報道されていない背景ももちろんあると思いますので報道ベースでの判断になりますが、③に当てはまるのは「LV」の件でしょうか。ジョアン・ミッチェル財団のステートメントによれば、「LV」から広告使用の許諾を求められたときに財団は一貫して断っていたにもかかわらず、「LV」は広告掲載を断行してしまいました。

WWD:そもそも著作権や著作者人格権が何かということや、そうした権利と所有権が別の権利だということを理解している業界関係者は少ないと思う。所有権さえあれば自分たちにすべての権利があると思ってしまっているのでは。

木村:著作権というのは、著作物の一定の利用をコントロールする権利を指します。著作権の中に色々な権利が含まれるのですが、大きく分けると2つの権利があって、一つはコピーする権利で、もう一つは著作物を公に伝える権利です。著作者人格権は、著作者だけが持つことができる権利で、公表権(未公表の作品を公表するか、いつ、どのように公表するかを決める権利)、氏名表示権(著作者名を表示するか、表示する場合にどのように表示するかを決める権利)、同一性保持権(著作物を著作者の意に反して改変されない権利)、名誉声望保持権(著作者の名誉や声望を害するような方法で利用されない権利)が含まれます。所有権は、あくまで形のある「物」としての作品に対する権利にすぎないので、著作権や著作者人格権が及ぶ範囲と所有権が及ぶ範囲は異なります。

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