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特集 ファッションロー

「パクリ」の境界線や「文化の盗用」とは? 読者の質問にファッションロー弁護士が回答【ファッションロー特集】

「WWDJAPAN」2023年6月19日号では、3年半ぶりにファッションロー特集を掲載した。“ファッションロー”とは、「ファッション産業やファッション業界に関わるさまざまな法律問題を取り扱う法分野」(経済産業省「ファッションローガイドブック2023」)のことだ。特集ではここ数年にわたるファションロー関連のニュースの“トレンド”を振り返りつつ、法改正から最近話題の生成AIまで、実務の面から今知っておくべきトピックを紹介している。さらに連動企画として5月11~22日の期間でウェブアンケートを実施したところ、289もの回答が集まった。アンケートで募った「ファッションロー弁護士に聞きたいこと」の中から特に多かった質問に海老澤美幸弁護士が回答する。(この特集は「WWDJAPAN」2023年6月19日号からの抜粋に加筆したものです)

海老澤美幸/三村小松法律事務所 弁護士兼ファッションエディター

海老澤美幸/三村小松法律事務所 弁護士兼ファッションエディター プロフィール

えびさわ・みゆき 1998年自治省(現:総務省)入省。99年、宝島社に入社しファッション雑誌の編集業務に携わる。2003年に渡英しスタイリストのアシスタントを経験。帰国後は「エル・ジャポン」のコントリビューティング・エディターなどを務める。17年に弁護士登録、第二東京弁護士会所属。19年から現職。専門はファッションロー。知財戦略から契約交渉、労働問題まで幅広く取り組む。22~23年には経済産業省 ファッション未来研究会 ファッションローWG副座長として日本初のファッションローガイドブック作成に携わる PHOTO : SHUHEI SHINE

判断が複雑 模倣品・コピーについて

Q1 : ファッションは、なぜ模倣品が多いのでしょうか?

海老澤美幸弁護士(以下、海老澤):あくまで個人的な見解ですが、ファッションというのはそもそも、模倣を繰り返して発展してきたというファッションそのものの歴史的経緯や特性の点と、ファッション産業においては大量の商品が投下され、そのライフサイクルが短いという点の2つが大きな要因だと考えています。

1点目について、まさに「トレンド」というのはデザインや色、柄などが似たものの集合体といっても過言ではなく、トレンドを取り入れようとするとどうしても似たようなデザインになってしまいますよね。

2点目については、皆さんご存知のとおり、ファッション産業では、主に春夏と秋冬の年2回、新たな商品を発表します。これに加え、ブランドによっては、さらにクルーズやホリデー、プレコレクションなどの商品を出すこともあります。つまり、年に2~4回、あるいはそれ以上、新しい商品を次々に発表しなければならないわけです。特にトレンドを追うマス向けのブランドは、常に新しいものを大量に投下していかなければなりません。そうすると、デザインは当然枯渇していきます。時間や労働力、お金をかけずに新しいものを生み出そうとすると、最終的には誰かのデザインを真似するのが一番手っ取り早いのでは……? という思考になることもあるでしょう。こうした点が、ファッション分野で模倣や似たようなデザインが出てきやすい要因なのではないかと考えています。

Q2 : 「パロディ」「オマージュ」「リスペクト」などと「パクリ」の境界線は?

海老澤:よく「パロディならパクリにならない」「リスペクトをもっていればパクリとは言われない」などと言われることがありますが、いずれも都市伝説です。「パロディ」や「オマージュ」であろうと、リスペクトがあろうとなかろうと、法律上の違反や侵害に当たる場合にはすべて「パクリ」や「模倣」ということになります。では法律上の違反や侵害に当たるかどうかはどう見極めればいいかという点が気になるところですが、この判断は専門家でないとなかなか難しいのが実情です。というのも、個別のケースによって、著作権法や商標法、意匠法など関係する法律が異なり、それぞれ判断基準も異なります。また、判断の際には具体的な内容や事情などを考慮して検討する必要があり、専門家によって判断が異なることも少なくありません。まずは、どういった場合にどのような法律が関わってくるかといった概要だけでも正しく知ることから始めるとよいと思います。

Q3 : 模倣品をお土産でもらってしまったことがあります。そのまま持っていても大丈夫ですか?

海老澤:あくまで自分で使うというだけであれば特に問題ないでしょう。なお、自分が使わないからといって転売したりすると、ブランドから商標権侵害などで警告されたり、損害賠償を請求される可能性もありますので注意が必要です。なお、ご質問からは離れますが、昨年から模倣品の水際での取締りが強化されており、自分で使うために海外のサイトで模倣品を購入した場合でも、税関による没収の対象となりますので注意しましょう。

Q4 : リセール市場には模倣品がたくさん流通していますが、リセールなら模倣品の販売はOK?

海老澤:リセール市場だからといって模倣品を販売することはできません!ブランド側は、こうしたプラットフォームに流通している模倣品の監視を強めており、さまざまな対応や対策がなされています。

クリエイターの権利について

Q5 : SNSなどに投稿したイラストが盗用されてプロダクトを作られてしまった場合、盗用されたクリエイターはどのような対策がとれますか?

海老澤:そのイラストの完全なコピーを使われてしまっているという場合は著作権侵害に当たる可能性が高いと考えられ、商品の販売差止めや損害賠償を求めることができると考えられます。イラストを盗用した商品をネット上で見つけたら、URLが分かる形で、その商品の販売ページや販売者・ブランドの名前や連絡先などが掲載されたページなどを保存しておきましょう。インスタグラムなどのSNSに投稿されている場合は、こちらもできればURLが分かる形で、その投稿やアカウント情報などを保存しておきます。また、可能であれば、その商品を購入しておけるといいですね。その上で、販売者やブランドの連絡先が分かる場合は、直接、商品の販売をやめるよう連絡します。また、楽天やヤフー、メルカリなどのプラットフォーム上で販売されている場合は、プラットフォームに対応窓口が設置されていることが多いので、その窓口に申請して対応を求める方法もあります。なお、完全なコピーであれば著作権侵害の可能性が高いとは考えられるものの、創作者が「パクリだ」「似ている」と思った場合でも、著作権侵害とまでいえるか判断が難しいケースや、著作権侵害とまではいえないケースもあります。著作権侵害で販売者などと交渉する際も、慣れないとなかなか難しいと思います。そのため、早めに専門家にご相談いただくのがベストだと思います。

Q6 : 「作風」「タッチ」「アイデア」「世界観」に著作権がないというのは本当ですか?

海老澤:「作風」「タッチ」「アイデア」「世界観」そのものは、著作権の保護の対象にはならないとされています。クリエイションは、意識的か無意識的かはさておき、先人の作品を見て、学んで、参考にして、そこに新たな創作を加えることで生み出されますよね。もし先人の作品を一切使えないとしたら、新たな創作は生まれなくなってしまいます。著作権法は、文化の発展という大きな目的のため、創作者の権利を保護し、公正な利用にも留意して適切な線引きをしているんですね。

最近も、内閣府がたなかみさきさんの作風に似たタッチのポスターを出したことで炎上し、謝罪して取り下げた事例がありました。ネットで調べた限りですが、具体的な構図や表現そのものまで似ているイラストはなさそうではあり、法的には、「作風」や「タッチ」が似ているだけで、著作権侵害とまでいうのは難しいケースだったのではないかと思います。公的機関である内閣府が、多くの人が「たなかみさきさんの作品では?」と感じてしまうほど作風やタッチが似たイラストを出してしまったのは不適切と言わざるを得ず、取り下げた判断は正しかったと思います。ただ、このケースにより、もし「誰かの作品を参考にすることもNG」という誤った認識が広がり創作意欲が萎縮してしまうとすれば、それは残念だなと思います。

リメイクにご注意!

Q7 : リメイク作品を制作後、個人使用時と、それを販売した時に起こり得る問題点を教えてください。

海老澤:サステナビリティの文脈で、リメイクやアップサイクルに関するご相談がとても増えています。たとえば、有名ブランドの商品をリメイクした場合でも、あくまで自分で使うだけであれば特に問題はありません。もっとも、その作品を販売した場合は商標権侵害になります。ロゴやタグなどを取り外し、どこのブランドのものかわからない形で生地だけをリメイクに使用する場合は販売しても問題ないケースも多いですが、例えば「バーバリー(BURBERRY)」のチェック柄は商標登録されているので、テキスタイルを使用したリメイク品を販売すると商標権侵害となります。また、「リーバイス(LEVI’S)」もバックポケットのステッチのデザインを商標登録しています。商標権以外にも、たとえばキャラクターなどがプリントされていれば著作権侵害の可能性もあるなどその他の法律も関わってきますので、注意が必要です。

「文化の盗用」とは?

Q8 : どこからが文化の盗用なのか教えてください。

海老澤:「ここからが文化の盗用である」といった明確なルールはなく、非常に難しい問題だと思います。「文化の盗用」の定義についても統一した見解があるわけではありませんが、個人的には、マジョリティーが、マイノリティー(民族やコミュニティーなど)の文化を、利益を得るために利用することをいうと考えています。「文化の盗用」といわれないためには、どのようなケースが「文化の盗用」として問題となっているかを知ることが重要でしょう。近年、文化の盗用に関するニュースがたくさん報道されていますので、そのニュースから傾向を探ることが第一歩だと思います。もう少し具体的なポイントとしては、少数民族特有のモチーフやデザインを使う場合には、そのモチーフやデザインの成り立ちや歴史的背景をしっかりと調べて理解しましょう。こうした背景を理解した上で使うと決めた場合は、その文化のことや成り立ち、歴史的背景などを消費者に説明するなど敬意を示すことも重要です。また、なぜそのデザインなのか、どういう思いで作ったのかなどをストーリーとして説明できるように準備しておくことも大切です。メキシコをはじめ、各国で文化を保護する法律が作られたり取り組みがなされていますので、各国の法制度や取り組みを調べることも、この問題を理解する上のヒントになるかもしれません。

スタッフコーデの写真の権利

Q9 : スタッフコーディネート写真に出ているスタッフが退社した場合、会社はいつまでその写真を使用してもいいですか?

海老澤:その写真を撮影した人の著作権と、スタッフの肖像権の2つについて考える必要があります。たとえば、会社の指示を受けて、ウェブサイトに掲載するために別の従業員が撮影したといったケースであれば、一般的には写真の著作権は会社に帰属していると考えられます。他方、スタッフの肖像権については、撮影される際にウェブサイトに写真が掲載されることは理解していると思いますので、少なくとも在職中の使用については同意しているといえそうです。他方、退職後も自分の写った写真が使われることまで同意しているといえるかというと、具体的な事情により判断がわかれるように思われます。スタッフが退社した後も引き続きその写真を使いたいということであれば、明確に同意を得ておけると確実です。現時点ではこうした対応をできていないブランドも多いと思いますので、今後のためにも同意書の様式を準備するなど、フローを整備しておくことをおすすめします。なお、書面で同意を得るのはハードルが高いという場合は、メールやLINEなどの文面でOKをもらっておくだけでも有効です。

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