ファッション

ファッションデザイナーのお気に入りの椅子9選 リック・オウエンス、トム・ブラウン、ジョナサン・アンダーソンまで

 多くのファッションデザイナーは、椅子に対してうるさいくらいに情熱的だ。生活感が少ないこだわりの家に住むリック・オウエンス(Rick Owens)は、椅子について、「空間にふさわしく、詩的で伝説的な歴史を持ちながら、非常に慎み深くなくてはいけない」と2014年発行のライフスタイル雑誌 「ハウトゥースペンドイット(How to Spend It)」 で語った。「私は椅子に多くのことを求めていると思う」と、その文章は締めくくられている。

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」を率いていた時代のニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は、あるシーズンにはウォーレン・プラットナー(Warren Platner)のワイヤースツールを何百脚も用意し、またあるシーズンには特別な仕上げを施した光沢のある木製ベンチを手配した。トム・フォード(Tom Ford)は「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」時代にぜいたくなソファを愛用し、リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)は「バーバリー(BURBERRY)」のデビューコレクションの際、アールデコのアームチェアで観客を出迎えた。「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)=クリエイティブ・ディレクターは2023-24年秋冬コレクションで、ジオ・ポンティ(Gio Ponti)が1957年にデザインしたウッドチェア“スーパーレジェーラ(Superleggera)”を並べた。

 ここでは、オウエンスが長旅の末に出合った理想の一脚をはじめ、さまざまなファッションデザイナーのお気に入りの椅子を紹介する。

リック・オウエンス 
お気に入りの椅子:エリエル・サーリネンのダイニングチェア

 「この椅子はエリエル・サーリネン(Eliel Saarinen)が1902年にフィンランドで家族のために特注したダイニングセットから来ている。私はアームレストが付いた椅子は二つしか持っていないが、付いていないものも6つ持っている。エリエル・サーリネンは好きな建築家の一人。これまで良いオフィスチェアを探していたが、キャスター付きのものには耐えられなかった。“Jugendstil(ユーゲント・シュティール )”とグーグルで検索していて、ついにこのダイニングセットを扱うディーラーを見つけた。椅子の上部には、頭蓋骨の丸い部分の真下に当たるような小さな細工が施されており、背中のクッションも正しい場所にフィットするので本当に座り心地がよい。(イタリア・コンコルディアにある)工場の隣のマンションに数脚、リド島のマンションにも残りのものを置いている。これは私が持っている唯一の椅子で、他にはベンチかソファだけだ」。

トリー・バーチ「トリー・バーチ」デザイナー 
お気に入りの椅子:ポール・ポワレ

 「お気に入りの椅子のひとつは、両親からのプレゼント。ポール・ポワレ(Paul Poiret)がデザインしたもので、洗練されたデザインと、自然からインスピレーションを得た珍しい色彩が絶妙に調和しているところが気に入っている」。

ヴェロニク・ニシャニアン「エルメス」メンズ・アーティスティック・ディレクター 
お気に入りの椅子:ピエール・ジャンヌレ

 「25年ほど前にインドを旅行したときに、(この椅子に)一目惚れした。運良く、インドのチャンディーガルでル・コルビュジェ(Le Corbusier)が設計した家に滞在しており、ピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)のラウンジチェアが置いてあった。実際に椅子が作られた街で出合えたことが面白く、また、当時としては革新的な地元の素材を使ったサステナブルなアプローチも私にとって特別に感じる。チーク材の重厚な構造と、座面や背もたれのラタンの透明感のあるコントラストも楽しい。コンパスのような形の脚やアームレストのライン、背もたれの傾きなど、均衡がこのタイムレスなデザインに独自性を与えている。このデザインは、線の美しさを通して力強さと詩情を表現している」。

ピーター・ミュリエ「アライア」クリエイティブ・ディレクター 
お気に入りの椅子:“アルナッジョ”

 「私が初めて買った椅子で、何年も前から夢見ていた。アキッレ・カスティリオーニ(Achille Castiglioni) とピエル・ジャコモ・カスティリオーニ(Pier Giacomo Castiglioni)によるアウトドア用に作られたコンセプチュアルな名作で、長細い脚で空間を取り囲み、座るということを改めて定義した。革新的でありながら美しい仕事をするカスティリオーニ兄弟は、私の大好きなデザイナーだ」。

トム・ブラウン「トム ブラウン」デザイナー 
お気に入りの椅子:ゲインズバラの椅子

 ゲインズバラ(Gainsborough)の椅子は「時代を超えて魅力的だ。私が毎晩アンドリュー(キュレーターのアンドリュー・ボルトン)と座る椅子でもある。そして、愛犬のヘクターも気に入っている」。

ガブリエラ・ハースト「ガブリエラ ハースト」デザイナー兼「クロエ」クリエイティブ・ディレクター 
お気に入りの椅子:「ガブロン デュマ スタジオ」の椅子

 「ガブロン デュマ スタジオ(Gavron Dumas Studio)」がガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)のためにデザインした“ノマド(Nomad)”コレクションから、韓国産のケヤキ材にレザーをあしらったアームチェア。「このコレクションは、ベンジー・ガブロン(Benji Gavron)とアントワーヌ・デュマ(Antoine Dumas)の手作りの品と伝統工芸への愛から生まれた。レザーの装飾は、(インテリアデザイナーの)レナ・デュマ(Rena Dumas)の作品に由来する。生産された6脚のうち、4脚は韓国の、2脚はアメリカの『ガブリエラ ハースト』の店舗に置いている」。

ジュリアン・ドッセーナ
「パコ ラバンヌ」クリエイティブ・ディレクター 
お気に入りの椅子:ガエターノ・ペッシェ

 ガエターノ・ぺッシェ(Gaetano Pesce)のコレクション“ノーバディーズ パーフェクト(Nobody’s Perfect)”から。「透明感や色、ペッシェの非常に純粋な表現、そして独自でハンドメイドであるというところが気に入っている」。

ヤン・リー「シャンシア」クリエイティブ・ディレクター 
お気に入りの椅子:倉俣史朗の“硝子の椅子”

 「倉俣は私にとってデザインの神様だ。1976年に発表された“硝子の椅子”は、当時の最先端を行くものだった。椅子を透明にするために特殊な方法でガラスを接着し、高度な職人技術を必要とした。そのためわずか40脚しか作られなかったという。この上に人が座ることができるなんて、魔法のようだ」。

ジョナサン・アンダーソン「ジェイ ダブリュー アンダーソン」創設者兼「ロエベ」クリエイティブ・ディレクター 
お気に入りの椅子:マック・コリンズの“イクルワ”

 デザイナーのマック・コリンズ(Mac Collins)のラウンジチェア“イクルワ(Iklwa)”。「この椅子には制作を通じたクラフツマンシップの要素があり、まるで機能的な芸術作品のようだという意味において彫刻的だ」。

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