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「アッシュ」吉原会長がコロナ禍の美容室業界を総括 “アフターコロナ”で最も大切なこととは

 東京では4度目の緊急事態宣言が発令され、“ウィズコロナ”の生活がまだまだ続くことが示された。しかし、新型コロナウイルスワクチンの接種が進むなど、新たな局面を迎えていることも確かで、そろそろアフターコロナの生活の輪郭も描かなければいけない。緊急事態宣言により振り回された業種の1つ、美容室も予約制限などのオペレーションを確立させ、ニューノーマル時代のあるべき姿を模索し始めた。そこで、「アッシュ(ASH)」など300店舗超の多様な美容サロンを国内外に展開するアルテ サロン ホールディングスの創業会長で、“業界のご意見番”こと吉原直樹氏に話を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):同じコロナ禍でも、昨年と今年で違うところは?

吉原直樹会長(以下、吉原):昨年の“コロナ初期”は未知のものに対する防御本能が働き、手術室でオペをするような格好で施術をするヘアサロンも現れるなど、今思えば過剰な取り組みも行われました。しかし実態が分かってからは、闇雲に恐れるのではなく、押さえるべきポイントが分かってきましたね。

WWD:そのポイントとは?

吉原:国立感染症研究所による濃厚接触者認定の定義です。明確な基準ができて、われわれは助かりました。スタッフから感染者が出たとき、濃厚接触者がいるかどうかが重要で、われわれは濃厚接触者を出さないことを第一に考えるべきなんです。

WWD:感染者を出さないことと同様に、濃厚接触者を出さないことも大事ということ?

吉原:そうです。というのも、当グループのように社員が約3000人いるような企業では、感染者が出ない方がおかしい。今のところ日本の総人口に占める感染者数の割合は0.5~1%くらいで、人口密集地なら1%を超えているでしょう。当社のように20代の社員が過半数を占めるような会社は、なおさらリスクが大きいので、30人が感染してもおかしくない状況にあるんです。

WWD:確かに、どんなに対策を徹底しても感染者は出てしまう。

吉原:当社でも昨年、感染者を出してしまいました。感染経路を追及すると、休日の活動の際に感染したことが分かりました。そこまで完全に防ぐことは、非常に難しいですね。でも濃厚接触者を出して1週間くらい閉めなければいけなくなったのは、「アッシュ」約128店舗の中で1店舗だけ。プライベートの管理には限界がありますが、店舗で濃厚接触者を出さない対策を徹底していたことで、最小限の影響に留めることができました。ちなみに、40代後半から50代の顧客が多い「チョキペタ」は、400人ほどの従業員がいて去年1年間で1人も感染者を出していません。プライベートでも会社の方針を守ってくれれば、感染者を出さない体制はできあがっていると思います。

有効な戦略を打てる店長の存在が明暗を分けたポイント

WWD:ヘアサロン業界の昨年の業績は?

吉原:緊急事態宣言が出た昨年の4~5月に休業したサロンは、年間の来店客数が10~15%減っています。例えばコロナ前に年間1万2000人の来店があった店舗だと、1000人減った計算になります。ほかの11カ月が毎月10%減くらいだったので、年間の客数が9900人ということになります。もちろん、店舗が首都圏にあるか郊外にあるかなど、諸条件によって異なりますが、おしなべるとこれが数字的な事実でしょう。

WWD:立地条件以外に、サロンの明暗を分けた要因は?

吉原:危機を乗り切れたサロンは、客単価が10%くらいアップしています。例えば、年間10回来店していたお客さまが、9回に減ってしまったけれど、1回の客単価が10%アップしたイメージです。以前の普段の施術に、トリートメントが加わった感じでしょうか。これは、顧客側に余裕のあるサロンで可能なことで、低価格を売りにしたお店では難しかったと思います。あと、そうした戦略を打てる店長やオーナーがいたかどうかも、明暗を分けたポイントだと思います。

WWD:乗り越えようという意志と発想が大事。

吉原:そうですね。あと小池百合子都知事の発言1つで大きく変わりました。マイナスの発言の後は顕著に売り上げが落ち、プラスの発言の後は上がりました。「行政の発言の影響力は大きい」と改めて感じました。

WWD:そのほかの要因は

吉原:ステイホームを強く意識しない、若年層の顧客が多い店舗の売り上げはあまり落ちていない傾向があります。イメージでいうと、ベテランスタッフの顧客が50人減った一方で、若手スタッフのお客さまが100人増え、客単価は低くなったものの、客数で補填できた感じです。当グループでも、ベテランが売り上げを落とした反面、主にインスタグラムで集客している若手スタッフは売り上げを落とさず、むしろ「セット面が空いたのでチャンス!」とばかりに頑張って、指名売り上げを伸ばしたスタッフもいました。

WWD:SNSで集客しているスタッフは多い?

吉原:コロナ禍で会社としてSNSを強化したこともあり、増えましたね。ただプラスの側面だけでなく、SNSで集客できるようになったスタッフがサロンを辞め、業務委託サロンに行ってしまう、という問題が業界で起きています。そうした働き方を否定する気はありませんが、彼らに一言アドバイスしておきたいのは、「瞬間的な集客力に頼ってはいけない」ということです。SNS集客のスターは次から次へと現れるので、今の状態がずっと続くとは限りません。“フォロワー=顧客”ではないことを理解しておく必要があると思います。

美容学校の勢力図にも変化

WWD:アフターコロナの美容師の働き方・美容業界はどうなるのか。

吉原:まず、マスクはしばらく外せないと思います。マスク生活が始まったことで、インフルエンザの感染率が顕著に下がったニュースが広まったことで、コロナ関係なしにマスクの必要性が明らかになりました。美容室はこの1年、改めて“衛生産業”としての側面を強調して運営してきたので、コロナ禍で生まれたマスクや消毒などの衛生基準はサロンの中で残ると思います。当グループでは、エントランスで顔認証と体温計測が同時にでき、それだけで受付けが済んでしまう機器の導入をテスト的に進めているのですが、そうした設備投資も重要ですね。

WWD:美容業界に関しては?

吉原;コロナ禍で美容学生の内定取り消しを行ったサロンもありましたが、そうしたサロンは企業としての姿勢が問われてきています。昨年4月に採用したのに、4~5月は給料を払わずに、「6月から来て」などとしたサロンも同様ですね。あと、美容学校の勢力図も変わっていくと思います。断捨離ができない老舗の美容学校は、生徒集めに苦労するようになっています。逆に“SNSフォロワー数の増やし方”など、時流に合った授業を柔軟に取り入れている新興の美容学校は人気が高まっています。

WWD:教育に関しては?

吉原:当グループでは、動画で予習と復習をし、リアルで技術チェックをするという“サンドイッチ方式”を取り入れています。どのサロンも、オンラインとオフラインの“いいとこ取り”を追求していくと思います。あとチェーンサロンは特に、幹部にデジタル専門職をおくことが重要になってきます。以前は“技術に長けたトップ”をおくことが重要だったのですが、今は違いますね。当社では役員にCMO(チーフマーケティングオフィサー)をおいているのですが、CMOの存在の有無で会社の格が変わってくると思います。

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