「日本で一番足りないのはアントレプレナーシップ、起業家精神だと思う」と語る柳井正ファーストリテイリング会長兼社長
「ユニクロ」や「GU」を手掛けるファーストリテイリング(FR)の柳井正・会長兼社長が1月19日、母校・早稲田大学の井深大(まさる)ホールで、学生や若手経営者との対話形式による“勉強会”を行った。これはFRの社員だけに配布されてきた“秘伝のノート”を「経営者になるためのノート」としてPHP研究所から発売したのを記念したもの。ファシリテーターは、“人と組織のマネジメント研究所”道(タオ)の代表で、FRのリーダー教育や「経営者になるためのノート」を使った人材育成などに20年以上携わり、現在は早大商学研究科MBAコースで講義も担当する河合太介・代表が務めた。ここでは、柳井社長と学生・若手経営者との対話を前後編でレポートする。
人間の能力のピークは25歳
河合太介・道代表(以下、河合):柳井さんは年に2回、「店長会」で世界中の店長5000人と幹部を集めて、対話をしている。それ以外にも、「店長30人塾」と称して、人生の悩みや働くうえでの課題などに向き合いながら、対話をして問題を解決している。今回はなぜこういう若手経営者や早稲田学生を集めて対話・勉強会をしようと思ったのか?
柳井正・会長兼社長(以下、柳井):人間の能力は3%しか発揮していない。97%しか発揮していないのではなく、3%しかできていないのが事実だ。チャンスを与えられればできる。でも、そのチャンスは自分から求めていかなければいけない。ほとんどの人は口だけ。求めていかない。今は世界中にチャンスが溢れている。それと、今ここにきている人の半分以下が25歳だが、人間の能力のピークは25歳だと思っている。僕はもうすぐ67歳で、ピークアウト3回ぐらいやっている(笑)。でもそのためには、勉強しなければならない。
それと、会社は何百万社、世界では何億社もあるが、いい経営者と悪い経営者との差はすごくある。われわれ世界中に17カ国・子会社で何十社あるが、そこの経営成績はそこの経営者の能力による。経営者の能力が高ければ経営成績は上がる。低ければ上がらない。それと日本で一番足りないのはアントレプレナーシップ、起業家精神だと思う。何か日本を変えてやろう、世界を変えてやろう、単純に自分の事業だけでなく、世界をこの方向に変えていこう、もっといい方向に変えていこうということが必要だと思うし、それをまずリーダーシップを持っていこう。
あとは、自分の事業に対する執念が必要だと思う。先日もソフトバンクの孫さんや日本電産の永森さんと3人で話をしていたが、最終的に僕らは執念深いのではないかという結論になった。最後まであきらめないこと。それと、できるところまでやる。ということが必要だと思う。それは考え方一つなんです。そういう考え方が一生継続できれば、ある一定の線まで皆さん行けると思うし、われわれの社員に私を超えていくような人たちができてもらいたいなと。これを公開したというのは、社員以外にも私を超えていってすごくいい経営者になってもらって、すごくいい会社を作ってもらって、日本と世界をいい方向に変えていってほしいと本気で思っている。どういう質問でも結構なので、それに向かい合って真摯に受け答えしますので、ぜひ真正面から質問してほしい。ぜひ厳しい応答、激しい応答をしていきたい。
河合:今の日本の経営者に対して、感じている思いや発信したいメッセージは?
柳井:経営者が経営していない人が非常に多い。コーディネートや調整みたいなことは非常にやられているが、世の中がどんどん変わっている中で、会社自体を変えていかないといけない。そう思ったら自分自身がエンジンにならないといけない。あるいはリーダーにならないといけない。それと、会社の方向性、将来こちらの方に向かう、その具体策、今年はこれをやる、今月はこれをやる、今期はこれをする、今日はこういうことをしようという方針が見えていない会社、支持しない会社(が多い)。リーダーが指示しない限りうまくいかない。そういったビジネスリーダーシップが圧倒的に足りないと思う。それが私の率直な感想だ。
次ページ:「安心」「安全」「安定」が一番の弱点?▶
柳井正ファーストリテイリング会長兼社長に会場の学生・若手経営者から多くの質問が寄せられた
自分の金儲けをするなら、それは経営者として最悪
河合:気になる傾向は、米のシリコンバレーの経営者は、自分の金儲けの前に、社会を変えたい、社会に貢献したいとか、未来を創りたいということがあるような感じがする。日本の経営者がちょっと成功してちょっともうかったらハワイで引退するみたいな傾向もある。未来を創るという志向性が弱いと思う。
柳井:その通り。自分でこういう事業をしたい。それを一生通じてやりたい、という人以外は経営者になっちゃいけないと思う。単純に自分の金儲けをするなら、それは経営者として最悪だ。わりと日本の経営者は上場してお金を得る、みたいなことは僕は引退興行と言っているが、引退興行をする人が多い。それ以降、成長しない。マスコミのせいもすごく大きい。持ち上げる。有頂天になる。実際には事業に集中しない。で、事業に集中しない限り事業は絶対うまくいかない。最後までどうやって自分の会社をどうするのか、自分の会社が社会の中の一員だ、あるいは、自分が社会の中の一員だという観点が足りない。自分の事業のことしか考えない。
それに、世の中をいい方向に変えるために、会社の組織と自分がいると思わないと生きている意味がないと私自身は思う。学生のみなさんにお願いしたいのは、一生は1回。2回はない。あなた方は確実に100%亡くなる。何十年か後に。その時までになにができるのか、ということをぜひ考えてもらいたい。自分が未来に対して何ができるかを考えた人が、やっぱり、起業家として成功すると思う。その時、人と違った方向でやりたいなと思わないといけない。
経営者は満足したらそこでおしまい
河合:「経営者になるためのノート」にも「変革する力」が出てくる。経営者にとって変える力は大切だ。柳井さんは20年を超える付き合いの中で、何回も何回も自分のやってきたことを自己否定してきた。自分でやってきたことを自分の手で壊して創造することができる経営者はめったにいない。だけど、口では「変革」「変えなきゃ」といいながら、実際は実行していない経営者が多いと思う。経営者にとっての「変える」「変革をする」ことへのみなさんへ激励、メッセージをいただきたい。
柳井:経営者は満足したらそこでおしまいだ。世界中にはもっといい会社があって、もっといい方法がある。世界中の誰かが自分よりももっといい方法を発見していて、実際にそういう事業をやっているんじゃないかと思わないと。世の中がどんどん変わってきている。今は世界最大の変革期にいる。私は今の世界の2大トレンドは、「グローバル化」と「デジタル化」だと思う。これは人と人との距離を、圧倒的に縮める。もう、距離も時間も、過去の歴史から今の現状から、将来多分こういうふうになるんだろうということまで予測までできるようになった。スーパーコンピューターがスマートフォンの形になり、みなさんの手のひらにある。しかも、海外で行けないところはない。特に日本はアジアとアメリカ、ヨーロッパから離れているので、客観的に見て、世界中の技術を手に入れて世界中でビジネスができるという、非常に優れた環境にある。それなのに、残念ながら、変えるということに対して、非常におびえているのか、あるいは自信がないのか。
学生や経営者に捨ててもらいたいことがある。日本人の一番の長所かもしれないが、一番の弱点は、「安心」「安全」「安定」。でも自分の人生に、今いった「安心」「安全」「安定」はない。事業経営には全くない。事業経営でいま言った3つの案をいうということは、満足しているということですよね、これ。でも、事業経営は危機の連続。満足したらそのときには終わる。ああ、自分はけっこうできたなと思ったら事業はおしまいだ。ですから、変化を自分で作っていく。最近よく言うが、「明日の仕事を今日やれ」と言っている。大をなした人は、明日みんなが考えることを今日やったから大をなした。明日の仕事を今日やる。そういう経営者になってもらいたい。ということは、明日のバラ色の世の中はどうなっているのか、皆さんで予想して、それに対してリーダーシップを発揮してください。
もう一つ、会社という組織なので、全社員の力を結集しなければならない。そのための結集することに関して、自分がリーダーシップをとらないといけない。人は命令されたことはその通りにしない。その人が納得して、ああ、これだったらみんなのためになるな、と思った瞬間に会社が変わる。ぜひそういった経営者になってほしい。
次ページ:経営者の“二つ”の責任▶
業績責任と教育責任
河合:柳井さんは経営者は二つの責任があると。一つが業績責任で、もう一つが教育責任だと。特に教育責任はどのようなものであるか?
柳井:これは経営者だけでなく、あらゆる人はあらゆることを経験していると思う。今の世の中よりも、本当は将来のほうが良くならないといけない。そのためには今自分が知っていることを教育して後世に伝えないといけないと思う。それも、自分がやったこと、繰り返しを伝えても意味がない。今の会社を見ていると、自分の繰り返しを伝えるのが教育だと思っている人が非常に多い。そうではなく、企業としての正しい姿、経営として、あるいは、人間としての正しい姿を、基本的な考え方を、正しく伝える。そういう場合はこういう判断をしてこうするんだよ、あなたのやっていることは違うよ、ここはすごくいいからこういった方法で伸ばしていったらいいんじゃないですか、ということをやってもらったら、次の世の中はすごくいい世の中になっていくと思う。日本の20年間、あるいはもうすぐ25年間の停滞は、バックミラーを見て同じことの繰り返しを経営者がやったからだと思う。同じことの繰り返しではなしに、もしひょっとしたら、すっごくうまくいったら、われわれの人生はこういうふうになるのではないか。そのためにできることはどういうことなのか、考えて、その基本的な考え方と行動様式を教えてあげたら、成長する人はすごく多くなるんじゃないかなと思う。
河合:ファーストリテイリングは社員数もハンパない数だが、それでも柳井さんは相当の年間の時間数を直接の教育に割いている。一方、私がコンサルで手伝う会社の中には、そういったことを人事部や教育などに任せっぱなし報告だけ受ける人も少なからずいる。なぜ、これだけの会社になっても、自分がその場に出て行って教育をしようとされるのか?
事業は実行だ、お勉強じゃない
柳井:GM(ゼネラル・モーターズ)を創ったアルフレッド・スローンでも、ウォルマートを創ったサム・ウォルトンでも、本田宗一郎でも松下幸之助でも、自分の時間の大半は教育に使ったと思う。こうやって直接話をしない限り、教育はマンツーマン、テーラーメイド、人から人に伝わる、そういったことだと思う。教育関係の人が、もしその人が事業や経営のことを知っていれば、その人が事業やっていると思うんですよね。考え方の基本を教えることと同時に、事業は実行だ、お勉強じゃない。実行して初めて答えが出る。だから、「僕はこうやって実行しました。あなたはどうやって実行しているんですか、教えてください」ということ。それを聞いて「だったらこういう考えでやった方がいいんじゃないですか」「その考え方は違うんじゃないですか」「ここをこうしたほうがいいんじゃないですか」と。
もう一つ、やったことがない人がほとんどなので、やってみないと始まらない。まずやる。やってみる。考えてからやる。死ぬほど考えてから死ぬほどやる。みたいなことをやりたい人が経営者になってほしい。経営者というのは自由なんですね。自由というのは責任がある。たぶん、会社の全責任を追っている。社員に対する全責任を追っている。ある意味では経営者は責任を負っている分、自由だ。何でもできる。違っているかもしれないけれど、多分、僕の考え方で、一番楽しくて苦しい仕事は経営という仕事だと思う。ぜひ皆さんがそういう意識で経営してくれれば、すごくいい世の中になる。
(学生・経営者との対話は次回に続く)