サステナビリティ

環境にいいデザインとは何か 循環型デザインを推進するティンバーランドに聞く(後編)

 サステナビリティ先進企業のティンバーランド(TIMBERLAND)は、2030年までに全ての製品作りにおいて自然から消費したもの以上に自然に還元する“ネット・ポジティブ”な製品作りを目指す。そのために鍵となるのが“循環型”のデザインだ。具体的にどのように推進していくのか。同社で環境に配慮した素材調達や製品作りの改革に取り組むザック・アンジェリーニ(Zack Angelini)環境スチュワードシップ マネジャーに聞く。

WWD:2030年までに全ての商品で“ネット・ポジティブ”になるという目標はとても意欲的だ。すでに取り組んでいる循環型デザインについて教えてほしい。

ザック・アンジェリーニ環境スチュワードシップ マネジャー(以下、アンジェリーニ):当社は長きにわたって再生材料を使ってきた歴史があり、循環型デザインに関するビジョンもそれに基づいている。今日に至るまで、「ティンバーランド」は3億8000万本相当のペットボトルをリサイクルし、アパレルやフットウエアとして生まれ変わらせた。今秋には初めてリサイクルレザーのブーツを発売するほか、再生コットンや再生ウールの使用もさらに拡大していく。完全な循環性を目指して、再生材料の使用を引き続き増やしていく予定だ。将来的には、当社の商品について完全な循環性を実現したいと考えており、そのために革新的な実験をしたり試作品作りを行ったりしている。

WWD:再生素材を用いることが循環型のデザインの一歩とすると、その先にあるのは?完全な循環性とは?

アンジェリーニ:再生材料を使うだけではなく、それらの循環性が維持されるように、商品にうまく組み込まれるようにデザインすることが重要だ。つまり再生材料+リサイクル可能=循環性、ということだ。そのためには、商品が長く愛用されてその役割を終えた後、分解できるように作られていなければならない。これは“分解可能なデザイン(Design for Disassembly以下、DFD)”と呼ばれている。

WWD:機能性を求められるアウトドア商品では難易度が高そうだ。

アンジェリーニ:荒天に耐えられるフットウエアという複雑な構造をした物を、強度や耐用性、機能性を維持しつつ、分解可能であるように作るのは難しい面もあったが実現できている。10年には「ティンバーランド」初となるDFDブーツ、“アースキーパーズ 2.0(Earthkeepers 2.0)”を発表した。当時は時代にやや先んじていた商品だったが、次世代の循環型商品を開発するに当たり、このブーツからは多くのことを学んでいる。

WWD:循環性を実現するときのデザインのポイントは?

アンジェリーニ:商品として長く使われた後にその材料を再びリサイクルできるように、容易に分解できるシンプルな素材を使うこと。そうすれば、ライフサイクルを終えた商品を分解し、それぞれリサイクルして再利用するべくサプライヤーに送り返すことができる。

今秋、「ティンバーランド」は初めてリサイクルレザーを使用した商品を発売するが、これは当ブランドと業界の両方にとって記念すべきマイルストーンだ。一般に、天然素材よりも合成素材のほうがリサイクルしやすい。しかし主に天然素材(レザー、コットン、天然ゴムなど)を使用するブランドとして、それらを大規模かつ効率的にリサイクルできるようにするのは非常に重要なことだった。

WWD:天然素材のリサイクルは耐久性が落ちるなどの問題点も多いと聞く。

アンジェリーニ:当社が手掛けたこの新たなリサイクルレザーは、当社が定める機能性や耐用性の高い基準を満たす、初めてのリサイクルレザー素材だ。「ティンバーランド」は多くの皮革製品を販売しているので、将来に向けて循環性のある商品をデザインするに当たってレザーがリサイクル可能であることは不可欠であり、この革新的な新リサイクルレザーのおかげでそれが可能となった。

「ティンバーランド」のアパレルで最も多く使用している素材はコットンなので、コットンをリサイクルする技術もさらに向上させたい。来春には、レンチング・グループ(LENZING GROUP)が提案する“リフィブラ(Refibra)”という持続可能なように管理された森林から供給された木材パルプと再生コットンを混ぜ合わせた素材を使用した、初めての商品を発表する。

また混紡素材(コットンとポリエステルの混紡など)はリサイクルが難しいのだが、それを可能にする開発初期段階の技術についても調査を進めている。

WWD:アウトドアのための機能素材は石油由来の合成繊維が多く、撥水などの加工も化学物質の使用は避けられない。環境負荷は高いといえるのではないか。ネット・ポジティブのために、現在開発している素材や加工は?

アンジェリーニ:「ティンバーランド」の全商品カテゴリーにおいて、最も多く使用されているのは天然素材(レザー、コットン、天然ゴムなど)だ。これらを環境再生型農業を通じて調達することで、環境にポジティブな影響を与えたいと考えている。

環境再生型農業には、輪換放牧、被覆栽培、間作、不耕起栽培などが含まれる。こうした手法は、CO2を大気中(CO2がないほうがよい場所)から吸収し、土壌(CO2があるべき場所)に蓄積するように設計されている。CO2が増加した土壌はより健康的なものとなるので、生物の多様性や水の循環性が向上し、結果として作物の収穫量も増加する。

「ティンバーランド」でも多少の合成素材を使っているが、できる限りリサイクルされたものを使用することで、石油への依存度を下げている。今日にいたるまで、「ティンバーランド」は3億8000万本相当のペットボトルをリサイクルしており、石油ベースのバージンプラスチック(再生されたものではない未使用のプラスチック)の代替として使っている。

耐久性のある撥水剤(Durable water repellants以下、DWR)について、当社は数年前からポリフッ素化合物(PFC)ベースのものを段階的に廃止している。19年には、アパレル製品の99%およびアクセサリー製品の100%がPFCベースではないDWRの使用に切り替わった。フットウエアも、17年(当社にある最新の資料)の段階ですでに91%が最終仕上げにPFSベースのDWRを使用していない。

まだPFCベースのDWRを使用している製品もあるが、それは特定の機能性(ワークウエア素材における撥油性など)が必要なもので、現在のところPFCベースの薬品でしかその効果を得られないからだ。同様の効果があり、そうした製品の機能性を損なわないPFCベースではない薬品を見つけるため、化学薬品のサプライヤーと提携して積極的に調査を行っている。

WWD:ネット・ポジティブを実現に向けて注目している素材やテクノロジーは?

アンジェリーニ:当社では循環性に関するイノベーションを通じて環境に対するマイナスの影響を削減し、最終的には影響ゼロ・廃棄物ゼロを目指している。この目標を達成することをサポートしてくれる素材や技術には、再生された天然素材(レザー、コットン、天然ゴム)、再生された合成素材(ポリエステルやナイロン)、混紡素材(コットンとポリエステルの混紡など)のリサイクルを可能にする画期的な技術、「ティンバーランド」の製品として役割を終えた後に素材としてリサイクルできるように分解が容易なデザインなどがある。

また、天然素材を環境再生型農業を通じて調達することも、ゼロ影響のさらに先、つまり環境に対してプラスの効果を生む“ネット・ポジティブ”につながるのではないか。

現在、地球環境は非常に悪化しているので、今日のまま維持するのではなく、改善する必要がある。当社は、環境再生型農業や循環性にはマイナスの影響を削減するだけでなく、実際に自然を癒やして回復させていく大きな機会があると確信している。自然とファッションが手を取り合い、ともに前進している感じだ。

WWD:生分解性素材が改めて注目を集めているが、素材の未来を見据えたときに、どうなっていくと思うか?

アンジェリーニ:現在、生分解性に関する技術については、研究不足だったり、その効果を測定する試験やその手順の基準が設けられていなかったりという問題がある。基本的に、当社としては廃棄すること(生分解性があるものを含む)より、製品や素材をできる限り長く使用することを優先すべきだと考えている。全ての製品や素材にはエネルギーがあるが、再利用やリサイクルされないとそれが失われてしまうからだ。

生分解性については今後も技術の進化を注視して、再利用、修理、リサイクルが可能ではない部分にのみ採用することを検討したい。もちろん、生分解性のない素材が埋め立て地に送られるよりはいいが、リサイクルすることでそもそも埋め立て地やごみ処理場に送られるものを減らすことが最良の選択肢だと思う。

WWD:環境再生型農業の推進を掲げているが、実現のために足かせになっていることは?

アンジェリーニ:当社が最も多く使用する天然素材のサプライチェーン内で、新たな環境再生型農業のサプライチェーンを実験的に行っている。小規模なものではあるが、いろいろと試して学ぶ機会にするという戦略だ。こうすることで、どうやってスケール化するかのカギを見つけ、将来的には主要な商品ラインに組み込んでいくことができる。

現在のところ、環境再生型農業によるサプライチェーンは、レザーについてはアメリカとオーストラリアで、天然ゴムはタイで、コットンはインドとハイチで、そしてサトウキビはブラジルで行っている。

新しく革新的なものが全てそうであるように、この新たなサプライチェーンにも多くの課題がある。そもそも、こうした環境再生型農業によるサプライチェーンはこれまでファッション業界にはなかったものなので、一から構築していかなければならない。例えば、アメリカでの環境再生型農業によるレザーについては、パートナー企業と共にこの手法をいち早く導入した牧場を探し集め、当社と提携している大規模なタナリーに紹介している。再生可能な農業を行っているサプライヤーの多くは小規模なので、彼らをまとめる方法を見つけ、スケール化することで効率性を高めることがカギとなる。

WWD:ネット・ポジティブを目指すと、さらなる投資が必要になるのではないか。商品の価格は高くなる可能性はあるか?

アンジェリーニ:新しく革新的なものや技術に伴うコストについては、当社が負担することが多い。そうした新たな素材や技術で作られた商品は製造コストがかかるので利益率に影響するが、環境保護を意識した商品の需要が高まるにつれて、より多くの商品にそうした素材や技術を使うなどスケール化できるようになり、コストは下がっていく。再生PETがそうだったように、いずれは従来の素材と同レベルのコストとなったり、再生ゴムのように従来よりもコストが低くなったりする。
環境再生型農業によって、農家はより利益を上げられるようになって逆境に強くなるが、それだけでなく素材の価格を下げられるようになる可能性がある。当初はコストがかかるかもしれないけれども、イノベーションのため、そして目標を達成するため、「ティンバーランド」はリーダーとしての役割を喜んで引き受ける。当社は、何かを始めるときにかかるコストを埋没費用(回収できないコスト)ではなく、未来への投資だと考えているからだ。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

東京デザイナーがさらけだす“ありのまま”【WWDJAPAN BEAUTY付録:「第7回 WWDBEAUTY ヘアデザイナーズコンテスト」結果発表】

3月25日発売号の「WWDJAPAN」は、2024-25年秋冬シーズンの「楽天ファッション・ウィーク東京(RAKUTEN FASHION WEEK TOKYO以下、東コレ)」特集です。3月11日〜16日の6日間で、全43ブランドが参加しました。今季のハイライトの1つは、今まで以上にウィメンズブランドが、ジェンダーの固定観念を吹っ切ったことでした。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。