ファッション

デジタル・コレクション賛否両論 「ボッター」「コシェ」などデザイナー4組が踏み出す新たな一歩

 2021年春夏シーズンのコレクションサーキットが開催されている中、参加するデザイナーたちはデジタルでの表現についてどう考えているのだろうか。またパンデミックを機に、ファッション業界のサプライチェーンと販売スケジュールを持続可能なものに見直すべきという声も上がっており、ファッションビジネスを取り巻く環境が劇的に変化しようとしている。しかし、大きな変化には予算とリスクが付き物でもある。「ボッター(BOTTER)」「ロク(ROKH)」「セシル バンセン(CECILIE BAHNSEN)」「コシェ(KOCHE)」のデザイナー4組に、理想と現実を聞いた。

BOTTER
「リアルかデジタルかではなく時代に適応すること」

Q.6月のパリ・メンズに映像で参加していたが、デジタルでの発表をどう感じた?

ルシェミー・ボッター(Rushmey Botter以下、ルシュミー):新しい挑戦にはいつだって前向きだし、柔軟に対応していきたいとは思っている。けれど、やっぱりリアルのショーのパワーには及ばないと個人的には感じた。

リジ―・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh以下、リジー):リアルかデジタルかという選択肢ではなく、時代に適応していくことが必要。バーチャルでのプレゼンテーション形式やこれから始めるデジタルショールームなどすべてが新しいことばかりで今は不安よりも期待の方が大きい。業界全体の新しいチャプターの始まりである時代を体験していることはとても貴重な経験だ。

Q.ロックダウン(都市封鎖)期間中に2人に変化は?

ルシェミー:ブランドをスタートさせてからの2年は、2人でシャボン玉の中にいるような感じだった。外の世界との交流が少なく、ファッションという枠の中でデザインに集中し、緊張感が張りつめていた。それは決して悪いことはないけれど、ロックダウン中の2カ月はそのシャボン玉を割って、もとの自分に復元できたように思う。実家のあるオランダに帰省し、お互いの家族と約2カ月間一緒にいた。たくさんスケッチを描き、これからの未来についてゲームプランを立てるようにワクワクしながら過ごせた。

Q.新しいファッションカレンダーには適応できる?

リジー:効率的でとても理に適っている。もし実現するならとてもポジティブな変化だし、過剰生産を抑える点については共感できる。私たちも適応できるだろう。制作チームや工場と密にコミュニケーションをとって構造を組み立て直す必要はあるが、私たちは大きいブランドではないからこそ柔軟に対応できる。約1年間は調整期間としてかつて以上の労力を要するだろうし、資金面でも苦しくなる可能性はあるけれど、世の中に求められるブランドであり続ければ生き残れる。逆にそうでなければ、どんなブランドも業界の変化に関係なく消えていくだけだ。ただ顧客がどのように受け入れるのはまだわからない。本気で実現するためには業界全体が一気に足並みをそろえないとだめだ。

ルシェミー:以前から在庫品を残すことには違和感を感じていた。「ボッター」は以前から過剰生産を回避するためにシーズンレスなデザインを進めたいと思っていたし、パンデミックを機にその思いは強くなった。環境問題を考慮して一着ずつの価値を上げるためにも、各商品の生産数は制限している。例えばコートなら32着しか生産せず、それぞれにシリアルナンバーを振っている。僕たちが提供したいのは“ワードローブになじむアートな服”であり、生産した服が在庫として眠るのではなく、誰かにとってかけがえのない一着になってほしいと願っている。

ROKH
「デジタルで新しい視点が生まれるはず」

Q.デジタルでの発表方法に可能性を見出している?

ロク・ファン(Rok Hwang以下、ロク):バーチャルのショーをリアルでの体験と完全に置き換えることはできない。それぐらいリアルでの体験は特別なものだから。会場や音、光、聴衆、動き、そしてモデルはとても素晴らしい体験を与えてくれる。ただ一方で、デジタルのプレゼンテーションも今後は非常にクリエイティブになっていくとも思う。そう遠くない未来に、多くのアイデアとテクノロジーによって私たちに新しい視点が生まれるはずだ。

Q.デジタルショールームではどのような施策を取った?

ロク:多くの準備が必要だったが、ブランドとして明確な視覚的情報を可能な限り取引先と共有したかった。バーチャルミーティングとショールームで予約のスケジュールを組み、ルックブックとともに360°のアングル写真、着用時の詳細写真、全身の動きをビデオで撮影した。服のフィット感を伝えるために、モデルとのバーチャルミーティングも毎日行った。リクエストに応じて、クライアントには生地と柄のサンプルをまとめて郵送もしている。とにかく関わる相手とのコミュニケーションを密にとり、つながりを維持することが大事だ。デジタルでもリアルでも、結局は人間同士のやりとりなのだから。

Q.新しいファッションカレンダーについてはどう思う?

ロク:賛成だ。顧客や消費者にとっても、季節や気候に合わせて商品を手に入るため理にかなっている。現実的だし、ファッションがより感情的に顧客に寄り添えるのではないか。セール期間を縮めることも、広い視野で見れば業界全体がもっとサステナブルになれる可能性を秘めている。ただし、ファッションのシステムやカレンダーが分断されてしまうことも考えられる。

Q.メリットとデメリットは何だと思う?

ロク:メリットの方が多いとは思う。アイテムの自由度は高まり、ブランドにとっては気候に合わせたデザインのアプローチができるようになる。欠点は、新たなスケジュールに変更になった場合に生産時期とバカンスシーズンが重複してしまう可能性がある点だ。ただ、事前に工場と連係して計画すればクリアできるとも確信している。パンデミックが起こった際もそうやって乗り越えてきたのだから。

CECILIE BAHNSEN
「ファッションは時代に合わせて発展し続けるから美しい」

Q.デジタルでの発表方法に可能性を見出している?

セシル・バンセン(Cecilie Bahnsen以下、セシル):デジタルとリアルの体験が同等になることは決してないが、デジタルは音と視覚を通してブランドの感情を示すことができる方法だ。デジタルでの発表は、私たち自身の解釈を通して時代に発信することができるので素晴らしいこと。受け取り手の想像力を膨らませて新しい価値観を生み出せそうな可能性を感じた。
 
Q.新しいファッションカレンダーが実行されたら、適応できる?

セシル:仕事のやり方を変えることは難しい部分もあるが、ファッションとは常に進化し、時代に合わせて発展し続けるもの。それがファッションの美しさの一つでもある。その過程で問題が生じても、サステナブルに機能するよりいい方法であれば、私たちは乗り越えないといけない。

Q.工場との連係などで懸念している点は?

セシル:懸念点はない。なぜならパンデミックの前から常に過剰生産の問題を意識してきたからだ。無駄のない生産方法を考えているし、工場とともに進化できるように常に研究と努力を重ねている。製品とファブリックの全てが廃棄されることなく利用されるために、これからも続けていきたい。

KOCHE
「リアルでのショーはお金で買えない貴重な財産」

Q.デジタルでの発表方法に可能性を見出している?

クリステル・コシェール(Christelle Kocher以下、クリステル):ファッションは全てが実現可能だ!今後は多くの人を引きつけるデジタルフォーマットが出てくると確信している。でも正直なところ、6月のデジタル・ファッションウイークでは、本当に魅力的なプレゼンテーションは見つけられなかった。私にとってリアルのショーは、個人のビジョンを共有して感情をかき立て、異なるコミュニティーに招待する方法である。ブランド立ち上げ当初からショーはブランドの基盤になってきた。東京のファッション・ウイークでも2回ショーを行い、日本の人々とも関係を築くことができた。これはお金で買うことのできない貴重な財産である。私にとってコレクションを発表する最良の方法は間違いなくリアルであり、現時点ではテクノロジーに置き換えることはできない。リアルな衣服、リアルなモデル、リアルな職人によって成り立っているファッションは、“リアル”なのだから!

Q.デジタルショールームではどのような施策を取った?

クリステル:OTBグループと、初めてのデジタルショールーム「ハイパー リアル ルーム(HYPER REAL ROOM)」を開発した。これはバイヤーと私たちにとって全く新しい体験だった。重視したのは、デジタルツールに私のインスピレーションとコレクションの雰囲気を投影すること。これがかなり大変だった。デジタルショールは2つのフェーズに分かれている。ひとつは映像や音楽、芸術性に重きを置いた“感情面”。もうひとつは、価格やラインシートなどの必要事項を表示するもので、ビジネス的な使いやすさを重視している。生地に触れてサンプルの試着ができるリアルなショールームと同じとは言えないものの、結果にはとても満足している。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

最新号紹介

WWD JAPAN

デジタルコマース特集2020 コロナで変わったもの/残すべきもの

「WWDジャパン」10月26日号は、デジタルコマース特集です。コロナ禍でデジタルシフトが加速し、多くの企業やブランドがさまざまなデジタル施策に注力していますが、帰るべきものと残すべきものの選別など、課題が多いのが現状です。今年はそんな各社の課題解決の糸口を探りました。巻頭では、デジタルストアをオープンしたことで話題の「シロ(SHIRO)」の福永敬弘=専務取締役やメディアECの先駆け的存在「北欧、暮…

詳細/購入はこちら