ファッション

ライブコマースがコロナ禍のファッション業界を救う? 市場規模約13兆円の中国に学ぶ

 ライブコマースは中国を中心にすでに大きな支持を得ているが、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響でアメリカにおいてもその人気が高まっている。インフルエンサー・マーケティングやそのマネジメントを行うプラットフォームのトラッカー(TRAACKR)によると、この4〜5月のライブコマースのエンゲージメント率が389.6%も急上昇したといい、いくつかの専門企業はファッション業界の回復につながる可能性を示唆している。

 中国では過去数年間でライブストリーミングを活用する動きが広まっており、アリババ(ALIBABA)が中国の「独身の日(シングルデー)」に合わせて11月11日に実施する大規模なセールは、ライブコマースにおいても注目すべき成功例だ。19年度はアリババの「Tモール(Tmall)」に出店しているブランドの半数以上がライブストリーミングを活用して商品を販売し、売り上げは開始後9時間足らずで14億3000万ドル(約1516億円)に達した。広州のメディア監視会社のアイメディア リサーチ(IIMEDIA RESEARCH)の統計によると、中国におけるライブストリーミングの市場規模は2020年に1285億ドル(約13兆円)に到達し、グローバル市場は27年までに1843億ドル(約19兆円)に成長する見込みだという。

 新型コロナの影響で業績に打撃を受けた企業でライブストリーミングを活用し業績が好転した企業もある。中国のファストファッション販売業者のファスト フィッシュ(FAST FISH)は2400店舗以上が閉鎖に追い込まれたが、4月には売上減の約80%を回復し、さらに新しく20店舗をオープンした。業績回復の背景には、実店舗に代わる新たな販売方法として、10億人のアクティブユーザーを抱えるウィーチャット(微信、WeChat)でのライブコマースを可能にしたことがある。

 その施策は、最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者なども含む全従業員に対してウィーチャット上で各自のストアを開設し商品を販促するように働きかけたことだ。そしてライブストリーミングでの売り上げを従業員のウィーチャットのアカウントにひも付けることで、従業員に手当が支給される仕組みを構築した。これにより商品の販売や在庫の余剰、店舗休業の影響で仕事がなくなった従業員の収入に関する問題も解消され、ライブストリーミングは同社の基盤的事業となった。

eコマースにおけるライブストリーミングの役割とは?

 ライブストリーミングでは、消費者が動画を配信するホストに向けてメッセージを送信することも可能で、より双方向型のコミュニケーションが取れる仕組みになっている。ファッション・ライブストリーミングのプラットフォーム、アンド・リュクス(AND LUXE)によると、eコマースと違って商品を映像で確認することのできるライブコマースは、アパレルに非常に適しているという。特にドレスなどはサイズ感に不安を覚える人が多いため、購入を避ける傾向にあるが、ライブストリーミングでは、気になる箇所のサイズ感について、ライブ中に質問でき、ブランドはその服のサイズが適切かどうかを判断し、直接アドバイスすることができる。これがライブコマースの最大の特徴とした。

 マーク・ユアン(Mark Yuan)共同創設者兼CEOは、「欧米ファッションブランドの多くは“ライブストリーミング”という言葉を表面的にはわかっているが、本来の意味やその仕組みをきちんと理解していない。フェイスブック(FACEBOOK)のライブと、テレビ放送のショッピングチャンネルのホーム・ショッピング・ネットワーク(Home Shopping Network)、そしてECサイトを一体化したものだと考えればいい。消費者はライブショーを視聴することで、ブランド側は商品をリアルタイムに、3次元の方法で紹介し、販売できる」とコメントした。米国のリテーラーがライブストリーミングを活用するためには、プラットフォーム側のサポートとともに、ライブショーのアプローチ方法などの理解を深める必要もある。

 さらに、ライブストリーミングのプラットフォームであり、フェイスブック ライブ(FACEBOOK LIVE)のソフトウエア・パートナーでもあるビーライブ(BELIVE)のダニエル・メイヤー(Daniel Mayer)創設者兼CEOは、「リテーラーは広告予算を確認し、現状で広告にどれだけの資金を費やしているかを知る必要がある」とアドバイスする。「ライブショーを行う際にかかるコストはゼロかもしれないし、相応の予算が必要になるかもしれないが、どちらにしても現在の広告費を下回ることは確かだ。ファッションはビーライブのプラットフォームにおいても最も需要のあるカテゴリーだ。新型コロナの影響により、リテーラーは販売の機会をすぐにでも得たい状況にある。私たちにとってはユーザー獲得のチャンスだ。厳しい状況の中で収益を増やすためには、新しくユニークな解決策が必要だ」。
 

理想のライブ配信時間は5〜7時間

 ライブストリーミングで収益を得るためには、顧客に対するエンゲージメントが欠かせない。米ロサンゼルスを拠点に日本のポップカルチャーを扱うジャパンLA(JAPAN LA)も、新型コロナの影響で実店舗を閉鎖したリテーラーの一つだ。オーナーのジェイミー・リバデネイラ(Jamie Rivadeneira)は、ライブコマースのプラットフォーム、ポップショップ ライブ(POPSHOP LIVE)で顧客の質問に答えながら5時間のライブ配信を行ったところ、売り上げがコロナ禍以前の実店舗および既存のオンライン販売を上回る結果となった。ダニエル・リー(Danielle Li)=ポップショップ ライブ創設者兼CEOは、「5〜7時間におよぶライブ配信が理想的だ。実店舗で同じ時間営業を行うよりも、ライブストリーミングで一度に多くの顧客と話をする方が効率的だ。また、ライブストリーミングで成功しているリテーラーは、少なくとも週に1回はライブショーを開催している」とコメントした。

 なおポップショップ ライブは、7月に300万ドル(約3億1800万円)の資金調達を発表し、合計450万ドル(約4億7700万円)を新規採用、設備投資、ライブコンテンツの拡充や、新規参入の売り手にオリエンテーションを行うなどの目的に投資している。

ゲームや音楽のライブストリーミングにも注目

 現在、ライブストリーミングにおいて存在感を放っているのがゲームコミュニティーだ。デジタル決済サービスなどを手がけるぺイオニア(PAYONEER)のデータによると、アマゾン(AMAZON)が運営するゲームに特化したライブ配信サービスを提供するツイッチ(TWITCH)でのライブストリーミング動画の視聴時間は、マーケット全体の73%にも上る。

 また7月31日には、ミュージックビデオに登場するアイテムをリアルタイムでクリックして購入できる、新たな形式のライブコマースを提供する「ドロップTV(DROPPTV)」がサービスを開始した。「ドロップTV」のプラットフォームは、独自の人工知能や機械学習、コンピュータービジョンのアルゴリズムを利用しており、ビデオコンテンツ内の商品を認識し、リアルタイムでタグ付けする。

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