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突撃洋服店・安田美仁子のアフターコロナを生き抜くヒント 初の著書出版

 老舗古着店「突撃洋服店」の創業者であり、古着表現作家の安田美仁子さんによる初の書籍「古着は、対話する。」(ギャンビット)が4月3日に出版された。フリーマーケットで商売の面白さにとりつかれたのを機に創業して35年。本書には、古着一枚一枚と向き合い、古着で表現することの可能性を広げてきた安田さんならではのシャープで深遠な言葉の数々と、撮りためた写真200点以上が収録されている。店名通り常に攻めの姿勢を貫き、個人のシンプルな思いや違和感、疎外感をビジネスの原動力にしてきた安田さん。古着を通して自身と対話してきた彼女の言葉には、未曽有の危機に直面した今を生き抜くヒントが隠れている。

――本書は安田さんがSNSで発信されたインパクトのある言葉と個性的な古着の写真で構成されていて、強いメッセージ性を感じました。本のタイトルや一つひとつの言葉に込めた思いは?

安田美仁子・突撃洋服店代表(以下、安田):私は昔から古着を擬人化して見てしまうところがあり、アメカジとか、ロンドンの音楽シーンとかにカテゴリー分けされた古着はとても不自由に見えてしまうんです。人間が一つのカテゴリーでくくれないのと同じです。ところが、商業的には人間や洋服をカテゴリー分けして語る方が便利なわけです。その結果、他人と同じような洋服を着ている人が多くなり、それは何か違うんじゃないかって、ずっと違和感を持っていました。

服と向き合うというのは服のことを考えるのではなく、服を通して自分の個性と向き合うことです。「古着は、対話する。」という言葉には服を知ることで自分を知る――そんな意味も込められています。

――古着一枚一枚と真剣に向き合ってきた中からあふれ出た思いや人生観が短い言葉で表現されていて、ストレートに心が動かされます。生き方や自己を考えるきっかけになったり、迷ったときにそっと背中を押してくれたりする言葉も多い。

安田:本を作るきっかけは、店のお客さまで本の編集者でもある方からの提案でした。今の時代、疲弊している人が多いので、若者のマインドを育てる本を作ってほしい、いい意味で無責任で、読み手に委ねる本を作りませんかと。

本作りにあたって最初に取り掛かったのは言葉を選ぶ作業でした。SNSから拾った言葉がA4コピー用紙にして800枚に及びました。そこから厳選した言葉を1冊にまとめたのですが、一番伝えたかったことは「物事はいろんな方向から見られるよ」ということです。

店には、世の中で疎外感を感じている人も多く来店されます。そういう人には、思っているより仲間はたくさんいるよと。ファッション好きでない人にも読んでもらっていて、ちょっとした安心感を持ってもらったり、気づきになればいいですね。

――「ファッションの同質化は思想の同質化につながる」とか「提供する側も常に季節によるマーケティングを意識する。そこを飛び越えたらもっと自由なのに」など、ファッション業界に対する違和感もつづられています。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)によってファッション業界はどう変わると思いますか?

安田:まずビジネスのペースをスローダウンしなければならなくなった。これまでは春夏、秋冬といったシーズンに縛られていて、しかもスピードが求められてきましたが、その価値観が崩れてしまったわけです。スピード重視の枠組みでモノを作ることを考え直すきっかけになったと思います。そうなると、シーズンやスピードに関係なく求められるものは何かを考えないといけない。洋服に対する要求がより明確になっていくでしょう。

――5月14日、渋谷店は予約営業という形で再開されました(インタビューは5月中旬)。立地や家賃によっては店舗運営を見直さざるをえない企業も出てきています。

安田:もともと商業施設が多過ぎると思っています。これまでは大型の商業施設に入るメリットがあったわけですが、今回、商業施設の休業に伴い、多くのテナントが休業を余儀なくされました。そこから言えるのは、路面店のように自分のやり方で営業継続できる方がメリットが大きいということです。

突撃洋服店は都心の中でもあえて駅から離れた場所に出店しています。ただ、神戸店は新型コロナのあおりを受け、入居していたビルから撤退しました。今後はポップアップを展開するのかどうか、継続することを前提にいま考えているところです。

アフターコロナは人の流れが大きく変わります。例えばリモートワークが定着すれば、ムダに家賃の高いオフィスは必要なくなり、不動産に対する価値観も正常化されるでしょう。

――ECを強化する企業が増えています。

安田:ECに移行できる業種であれば、そこに重きを置けばいいのですが、突撃洋服店のオンラインショップはあくまで実店舗の補完的な位置付けです。人が接客をして商品の良さを伝える必要がある業種においては、本当に伝えたいことがあるのかどうか、誰が何を伝えるのかが大切になってきます。だから店のスタッフの気持ちが継続するような環境作りや教育がいっそう重要になってくるでしょう。

――アメリカでの買い付けも難しい状況ですが、品そろえをどのように維持していきますか?

安田:とりあえず、商品量を減らして厳選したものだけを仕入れていきます。そして、今まであったものとの組み合わせ方や見せ方に工夫を加えて編集するのですが、自分の中の発想を広げて新しさを見出すことを大事にしていきたいですね。

――どのように発想を広げればいいですか?

安田:アート的発想で見れば、脳って刺激されますよね。洋服に対しても、売れなくてもいい、見るだけで楽しくなるという発想を持てばいい。店の中にある商品は、季節や性別で区切らなくてもいいし、着られなくてもいいと考えれば、発想がもっと豊かになります。突撃洋服店では売れないかもしれないけど、店にあったらおもしろいという視点でときどき仕入れます。最終的には売れるのですが、そのムダがすごく大事だと思っています。

――最後に、今後の目標は?

安田:6月からオンラインでのライブイベントを計画しています。本の中に登場する一つひとつの言葉の背景を話すことで、顧客以外の方にも共感してもらえると思うのでそこから広げていきたい。もともと古着から考えを拡張して表現することが好きなので、ジャンルを限定せず、いろんなことについて話すことにも挑戦していきたいですね。

橋長初代(はしなが・はつよ)/流通ライター:同志社女子大学卒。ファッション専門誌の編集を経てフリーランスのライターに。関西を拠点に商業施設、百貨店、専門店、アパレル、消費トレンド、ホテル、海外進出などの動向を「WWD JAPAN.com」「日経クロストレンド」などに寄稿。取材では現場での直感と消費者目線を大事にしている。最近の関心事は“台湾”と“野菜づくり”と“コロナ後のファッションビジネス”。「リモート取材が浸透すれば、もっと取材先を広げていきたい」