PROFILE: 島崎純子/ドンナ社長

大手モデル事務所のドンナ(DONNA)は7月25、26日、地方オーディションを福岡で開催する。1995年に設立して以来、東京を中心にオーディションを実施してきたが、地方での開催は初めての試みだ。ドンナは昨年創立30周年を迎え、国内外で活躍するモデルを多く輩出し、最近では、岡本多緒をはじめ、DAISUKEやCHIHARU、萬波ユカ、高橋らら、KAYAKO、HANAKA、TSUGUMI、AKITO、源大らが今のファッションシーンを盛り上げる実力派モデルが名を連ねる。
大舞台とされるファッションショーや一つのステータスとして位置付けられる広告キャンペーンの起用など、海外での実績が大きな転機となるモデルの仕事は、小柄で細身の日本人にとっては大きな壁があった。しかし近年はラグジュアリーブランドのアジアビジネス強化も後押しし、トップメゾンやキャスティングディレクターがこれまで以上に日本人やアジア人のニューフェイスを探している。そんな中、ドンナはどのように才能を見つけ、育てているのか。40年にわたり、この業界を見てきたドンナの島崎純子社長に岡本(当時TAO名義)との出会いから、世界で求められるモデル像の変化、そして地方発掘に乗り出す理由までを聞いた。
岡本多緒と切り開いた日本人モデルの可能性
WWD:多緒さんとの出会いについて教えてください。
島崎純子社長(以下、島崎):初めて多緒と会った時、当時のドンナには数人の日本人モデルが所属していたもののディビジョンとして確立されていなかった。もともと私は招聘外国人モデルのマネージメントからこの仕事を始めていて日本人モデルを扱うことには踏み切れていなかったんです。若い子を発掘して育てても、ようやく一人前になると大きな事務所へ移籍してしまう。そういうケースを見てきたので、私には絶対無理だと思っていました。
WWD:そこから、なぜ多緒さんと組むことになったのですか。
島崎:
その後、多緒がNYに舞台を移し、頭角を表し出しました。これだけニューヨークで売れているなら、帰ってくる機会がないだろうと思っていました。でも、たまたま休暇で日本に帰ってきた時に会う機会があって、その時に多緒が「日本でも認められたい」と言ったんです。ニューヨークでは毎日仕事が入っていたため、現地の事務所は彼女のスケジュールをあけてくれなかったですが、多緒の決意は強かった。そこで、「今、ニューヨークの事務所と対等に渡り合えるのは私たちしかいない。私たちなら、あなたの夢をかなえられるかもしれない」と伝え、一緒に仕事をしていくことになりました。
WWD:多緒さんはどのようなモデルですか。
島崎:出会った時からすごく志の強い子でした。「こうしたい」「こうなりたい」という気持ちが明確で強い。野心という言葉が適切かは分かりませんが、自分がどうありたいかがはっきりしていました。それは今も変わらない彼女の魅力ですよね。いわゆる下積み時代が長かった分、いつか自分も大きな舞台、モデルとしての認められる場所に立つという気持ちが強かったんだと思います。
WWD:多緒さんのマッシュルームカットは彼女のトレードマークになりました。きっかけは?
島崎:ある時、ロングヘアをマッシュールームヘアにしました。その後、ニューヨーク・ファッション・ウイークで、当時高い注目を集めていた「3.1 フィリップ リム(3.1 PHILLIP LIM)」のショーでリードモデルとしてランウエイを飾り、彼女にとっての大きな転機になりました。モデルにとって、ヘアスタイルも大きなきっかけになることもあります。ロングヘアの時は普通にかわいい子だったモデルが、ショートにしたり、スキンヘッドに近いスタイルにしたりすることで、ものすごく変わることがあります。いい意味で、別人のようになる。
WWD:当時、海外ランウエイにおける日本人やアジア人モデルの立場は、今とは違いましたか。
島崎:今はランウエイを見てもアジア人モデルが増えましたが、当時は本当に数名でした。ビザの問題などもあり今ほど多くなかったと思います。日本で見るとすごいと思う子でも、ニューヨークで世界中から集まったトップモデル達の中に立つと、体のバランスや脚の長さの違いが見えることもあります。でも、多緒はそうした中でデザイナーの気持ちをつかんでいったのだと思います。
WWD:日本人モデルならではの強みはありますか。
島崎:「日本人らしさ」と言うのは難しいですね。人として考えれば、細やかなところに気が使えるなどはあるかもしれません。ただ、モデルとしては、人種の境目はないような気がします。デザイナーの服を着て、それをいかによく見せるか。そこに人種は関係ない。やはり、他の人が持っていないもの、個性がある子が売れていくし、伸びていくと思います。
日本各地に眠る原石を探す理由
WWD:日本人やアジア人モデルの需要は高まっているのでしょうか。
島崎:日本人モデルに関する問い合わせは、ヨーロッパからも増えています。ただ、世界のランウエイ、ファッションシーンに通用するようなモデルの壁は高いんですよね。まず身長が175cm以上ある女性がなかなかいません。男性はランウエイに出られるくらい背の高い人が街にもいますが、女性が少ないんです。身長に対する条件については、昔に比べると少し低めにはなっています。私が始めた40年くらい前は、177cm以上がランウエイの条件のようなものでした。今は170cmそこそこでも可能性がありますが、やはり海外に行くなら175cm以上あると強みになりますね。
WWD:今回初めての地方オーディションを行う理由は?
島崎:
これまでは東京で行ってきました。東京にも地方からモデル志望者が集まってきますが、私たちがまだ見ぬ“原石”が日本各地に眠っているのではと思っています。モデルという仕事に興味がなくとも、もしかすると可能性を見つけられるかもしれない。そうした思いから、地方開催を始めて行うことにしました。
WWD:どういった素質を探していますか。
島崎:身長などフィジカルの条件はありますが、今も昔も大事なのは個性です。日本人でも外国人でも、他の人にないものを持っている子が残っていくと思います。それが顔なのか、その子から出るオーラなのか、脚の長さなのかは分かりません。オーディションで歩いた時に、見える子がいるんです。大勢の中にいても、その子しか光っていない、その子しか目が行かない、という子がいます。今はまだ“未熟”でも、モデルとしての実力そして個性を磨き上げていくことで、一緒に世界の舞台を目指すことができます。
AIモデル台頭で問われる権利と価値
WWD:一方で、AIモデルも急速に広がっています。やはりモデル業界にも影響がありますか。
島崎:そうですね。カタログやルックブックのように、一人一人の個性をそこまで求められず、動きが分かればいいというものでは、AIモデルの起用がものすごく増えています。AIモデルを使えば、スタジオ代もいらないし、クリエイターの人件費もいらない。そういうことをうたう企業もいますよね。私たちの業界にも5年くらい前からそうした話がありましたが、はるか先の話だと思っていました。それがここ1、2年で急速に広がっています。クライアントがAIモデルを自社で作っているケースもありますし、制作会社がAIの専門家を入れて、自社でAIモデルを持とうとしているとも聞きます。時には、リアルモデルを起用しながらも、そのスチール写真を使って、動画でAIとしてつくるということも。写真しか撮っていないのに、スチールをAIで動かす。ECではそういう依頼も多くなっているんですよね。
WWD:ドンナとしては、どう対応していますか。
島崎:基本的には一切お断りしています。生身のモデルがいて、それを流用する形で承諾を求めてくれるならまだいいケースです。もっと怖いのは、完全にAIモデルを自社で作ってしまうこと。そうなると、どう抵抗できるのかが大きな課題です。
加えて、無断使用や転用のリスクもあります。そこに関して、日本では規制も法律も完全には確立されていないという状況です。海外のエージェンシーと話しながら、パリではどうなのか、ニューヨークではどうなのか、そういうことを聞いて、きちんとした協調を作っていく必要があると思います。海外では法律や規制が定着しつつあるということを、日本で伝えていかなくてはならない。
WWD:海外ではAI使用に対する対応が進んでいますか。
島崎:ヨーロッパのモデル事務所などが参加する団体では、AIの使用や流用、転用は一切禁止、みんなでノーと言いましょうという方向です。海外からモデルを招聘する場合にも、AIに勝手に使わないということが契約書に入っています。ドンナとしても、ノーという姿勢は貫いています。ただ、AIモデルを優先して活用する企業・ブランドも増えているのが現状です。顔は作れるけれど、手のしわや動きがうまくできないから、手だけ撮らせてほしい、なんてことも。ゼロから全部できるようになれば、モデルという存在意義はどうなるのか。恐ろしい部分はあります。
これからの業界が求めるリアルモデルの価値とは
WWD:AIモデルが広がる中で、リアルなモデルの価値をどう考えていますか。
島崎:現場でしか生み出せないクリエイションは、人間だからこそつくる偶然の価値だと思うんです。だからAIモデルではできない。予算の都合もありますし、そこに力を入れている会社があるのも今の時代だと思います。ただ、人を感動させる、この瞬間にしか生み出せないような技術や魅力は私たち人間が培ってきたものにしか通じないんですよね。
WWD:今後、どういった業界を期待したいか。
島崎:“共存”という言葉は未来があるように聞こえますが、実際にはなかなか難しいですよね。どう共存していくのか、この業界全体がどう変わっていくのかは、正直まだ見えていません。まずは私たちの経験と実績を活かし、世界レベルのモデルを育成し輩出していくこと。人間の体温をしっかり伝えること、AIにはできない個性を磨き上げること。それらは業界全体にとっての課題ですし、新たな道筋をつくるわれわれのミッションだと考えています。