社長の私より高い給料をもらう社員が何人いてもいい——。
「エモダ(EMODA)」や「マーキュリーデュオ(MERCURYDUO)」「ムルーア(MURUA)」などを展開するマークスタイラーが、販売職やデザイナー職の評価において、より実力本位・成果主義の方向へ見直しを進めている。冒頭の秋山正則社長の発言は決して大言壮語ではなく、所属ブランドの売り上げで社内ナンバーワンを競ったり、数十億円規模のブランドプロデューサーを目指したりと、群雄割拠しながらスタープレイヤーを目指す社員への期待の表れだ。
アパレルビジネスが徐々に保守化・同質化する流れの中で、秋山社長は「僕らも『農耕民族化』し、チャレンジ姿勢を失っていた。もっとリスクを取って獲物を狙う『肉食民族』にならなければ」と危機感をあらわにする。立ち戻るべきだとするのは、ギャルブランドが全盛を極めた2000年代の“おしゃP(おしゃれプロデューサー)”時代。個々人がライバルとの闘争心も隠さず、切磋琢磨しながら前進していく熱量を取り戻す。
「カリスマ店員時代」さながらの熱量
改革のモデルケースとなるのが「ジェイダ(GYDA)」だ。2011年の立ち上げ以降、コロナ禍を挟んで業績を伸ばし続け、今や全社の稼ぎ頭へと成長した。秋山社長が「まさに肉食人材」と形容する久保田榮一・第3本部本部長兼GYDA事業部長のリーダーシップが、熱量の高い組織を生み出している。
「ジェイダ」は2011年にスタートすると順調に業績を伸ばし、コロナ禍で一時的に落ち込んだ売上高も26年2月期には過去最高を更新、ついに社内トップに立った。直営店は全国16店と社内最多ではなく、店舗面積も平均15〜20坪と決して大きくないが、個々の店舗において濃度の高い空間を作る。売上トップのSHIBUYA109店にはギャルだけでなく、最近は清楚系や一般的なOL層まで客層の間口が広がっている。今年3月には、大阪・梅田のHEP FIVEに約38坪の大型店を移転オープンし、順調に進捗しているという。
「うちの顧客の熱量は非常に高い。若年層ターゲットながら、VIP顧客の売り上げは全社トップクラスで、中には年間500万円ほど購入する方もいる。いまだに『カリスマ店員』目当てやノベルティめがけて来店してもらえる、かつての熱狂時代のようなブランドはうちくらいではないか」と久保田本部長は自負する。最大の強みであるデニムは、細身で華奢に見えるスタイルアップが大前提の作り。ウィメンズブランドが同質化する中で、あえて顧客に迎合しない姿勢も貫く。「うちはお客さまに媚びを売らない。いろんな体型を受け入れるべきという風潮の中でも、デニムなら『XSが穿けたら一人前』という価値観を曲げない。『ジェイダはこうあるべき』という世界観が明確だからこそ、お客さまが離れずに憧れ続けてくれる」。
足元では、平成リバイバルとともに“ギャル”に憧れる若い世代が増えていることも追い風だ。「小中高生に聞くと『ジェイダの服が欲しい』と言う。ヤングカジュアルゾーンではターゲット年齢から外れることを“卒業”と呼ぶが、うちは『卒業されづらい』のも特徴だ。SNSの影響に加え、『egg』で育った世代の元ギャルのお母さまと小学生のお子さんが、親子で当時のスタイルを楽しみに来店する現象も起きている」と話す。
「雑相」で築く、昭和的でウェットな関係
久保田本部長は2010年に入社し、「ジェイダ」立ち上げの1年目から店長を務め、2014年から本部の運営サイドへ回った。この1月に本部長兼事業部長に就任している。彼がマネジメントにおいて重視しているのは、売り場に立つ10〜20代の若いスタッフが「欲しい」と思える服、「働きたい」と思える店舗を作ることだ。「本部対店舗という対立構造になりがちなアパレル業界の中で、しっかり一枚岩になれているのは大きい」。
営業手法も、店に足を運んだり電話で話したりといった、温度感のあるコミュニケーションの積み重ねを大切にする。「業務上の『報連相』以上に、『雑相(ざっそう=雑談+相談)』を意識している。メールやLINEでは取りこぼしてしまう若手のリアルな悩みや本音を、対面の雑談からすくい上げる。意見はLINEでバシバシ吸い上げて商品にも反映する。ただ、売れ線ばかりでは企画側の熱量が上がらない。現場の女の子が『着こなすのはちょっと難しそうだけど、売ってみたい』と思えるチャレンジングな商品も出す。これも現場との信頼関係があってこそだ」。
秋山社長は、この人間くさいコミュニケーションこそが、時代に逆行するようでいて今のマネジメントに不可欠な要素だと語る。「コンプライアンスへの配慮から、上司が部下を飲みに誘いにくくなった時代に、彼はむしろ現場の若手から『飲みに行きたい』と誘われる。僕も泥酔した彼から『社長と飲みたい』と呼び出されたことがあるくらいだ(笑)。今はこうやってカッコつけて話しているけれど、本音をぶつけ合い、腹を割って話せる“昭和的”でウェットな関係性を築けるのが彼の強みだ」。
農耕民族の10年、そして再び“肉食”へ
久保田本部長は「他ブランドに負けたくない、このまま1位であり続けたいのは僕もそうだし、メンバー全員がそう」と前を見据える。これからの再成長に必要なのは、まさに久保田本部長のような「肉食人種」であると、秋山社長は力を込める。「創業からの10年は、役員同士が宣伝予算を奪い合い、ブランド同士が飲み会で喧嘩するほどのライバル心が成長の原動力だった。ブランド長同士の“共演NG”もあったほどだ(笑)。しかし2011年以降は、ことなかれ主義、平和主義の“農耕民族化”が進んだ。計画的に、安定して結果を残すことはできるようになった一方で、新しいチャレンジが生まれない保守的な体質になってしまった。再び“肉食人種”を増やし、お互いに切磋琢磨する会社にならなければならない」。
社長より稼ぐプロデューサーを
現場の競争意識を促す人事制度改革も進む。過去5年間で販売職のベース給与を引き上げ、今年3月1日からはデザイナー職の報酬体系も大胆に変更した。モノづくりに専念する「デザイナー職」と、自らブランドを体現しファンを獲得する「プロデューサー職」の線引きを明確化。担当ブランドの規模(10億円未満・30億円未満・30億円以上)に応じて基本給のバーを設定し、「30億円規模のブランドを担うプロデューサーになれば、役員級の年俸を得られる」仕組みを整えた。「現場のデザイナーには『よし、稼ぐぞ』と闘志を燃やしている人もいる。そもそも社長の私が会社で一番高給取りである理由などない。例えば、(ドジャースの)大谷翔平選手はデーブ・ロバーツ監督よりはるかに稼いでいる。それと同じで、社長より高い給与をもらうプレイヤーがいた方が会社として夢があるし、そうあるべきだろう」。