10代の頃から地元アメリカ・ナシュビルで音楽制作を始め、現在はニューヨークを拠点に活動する28歳のシンガー・ソングライターのサッカー・マミー(Soccer Mommy)ことソフィー・アリソン(Sophia Allison)。これまでに4枚のアルバムを発表していて、繊細な心の揺らぎを綴った等身大の歌詞と、1990年代のオルタナティブ・ロックに影響を受けたラフなサウンドがインディー・ロック・リスナーのあいだで大きな共感を集めてきた。作品を重ねるごとに音楽性の幅を少しずつ広げてきた彼女だが、2024年リリースされた最新アルバムの「Evergreen」は、いわく「もっとシンプルに、ソングライティングそのものの美しさをきちんと伝えたい」という意図が色濃く反映された一枚。
ダニエル・ロパティン(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)がプロデュースを手がけたエレクトロニックなアレンジが際立つ前作「Sometimes, Forever」(22年)に対し、原点回帰を思わせるアコースティック・ギター中心のクリーンでリッチなサウンドが特徴的で、喪失と癒しの受容、痛みを正面から見つめる内省的な眼差しとビデオゲームに着想を得たユーモアが織りなす感情の綾が深い印象を残す作品だった。
アリソンが初めての音源を自主制作で発表したのは2015年。その後、デビュー・アルバム「Clean」(18年)によって一躍頭角を現した彼女にとって、この10年は自身のキャリアの成長と重なると同時に、スネイル・メイルやササミ(SASAMI)、そしてフィービー・ブリジャーズといった同時代の”女性アーティストたち”が存在感を大きく高めていった時代でもあった。サッカー・マミーが先日リリースした、親友であり盟友でもあるササミの楽曲をカバーした「Just Be Friends (Soccer Mommy Version)」は、そうした彼女たちの友情や連帯を称えた作品として特別な感慨をもたらすものだったようだ。
この10年で何が変わり、何が変わらなかったのか。彼女自身が変化したこと、そして今もなお大切に守り続けているものとは何なのか。さらに、先人たちから受け継ぐ「ソングライター」としての在り方と、チャペル・ローンらに代表される若い世代への”リスペクト”について——25年12月に実に6年ぶりとなる来日公演を行った彼女に話を聞いた。
ゲームやアニメからの影響
——昨日は大阪でのライブの前に、ポケモンセンターに立ち寄ったそうですね。インスタグラムで写真を見ました。
ソフィー・アリソン(以下、アリソン):本当に最高でした。とにかく楽しくて(笑)。もともとポケモンが大好きなので、ポケモンセンターに行けたのは本当にクールな体験だったし、すごくうれしかった。その前にジャカルタに行ったときはかなりタイトなスケジュールだったんですけど、今回はようやく少しだけ時間が取れて。おいしいものを食べたり、街を歩いたりしながらゆっくり過ごすことができました。
——ゲームやアニメのキャラクターが曲づくりのインスピレーションになることもありますか。
アリソン:実は、新しいアルバムの中に、「Abigail」というビデオ・ゲームの「Stardew Valley」のキャラクターをモチーフにした曲があって。私は昔からゲームが大好きで、特にポケモンは子どもの頃からずっと遊んできました。自分にとっては、すごくノスタルジックな存在ですね。
——ちなみに、ポケモンで好きなキャラクターは?
アリソン:一番好きなのは、やっぱり「ゼニガメ」かな。ピカチュウももちろん大好きだけど、昔からゲームでは「みずタイプの御三家」を選ぶことが多くて。「(ポケットモンスター)ファイアレッド/リーフグリーン」が人生で初めてプレイしたポケモンだったんですけど、そのときの最初の相棒が「ゼニガメ」だったんです。なので特別な思い入れがあります。
——曲のモチーフになった「アビゲイル」はどんなキャラクターなんですか。
アリソン:彼女はゲーム内で結婚できるキャラクターの一人で、紫色の髪をしていて、鉱山でモンスターと戦ったりするんです。ちょっとゴスっぽい雰囲気があって、とにかくクール。どこか魔法使いみたいな、神秘的で“ウィッチー(魔女)”なムードもあって。特にパンデミックの時期は、かなりやり込んでいました(笑)。
——アリソンさんにとって、アニメやゲームは現実からの逃避としてのファンタジーなのか、それとも、キャラクターに自分自身を重ねている感覚もありますか。
アリソン:ある意味では、その両方だと思います。現実から少し離れて、ファンタジーの世界に身を置く——いわば“逃避”のような側面も確かにあります。でも同時に、そこには強い情熱を注ぎ込んでいる感覚もある。アニメも同じで、単なる気晴らしではなく、個人的に深く没入できる対象なんだと思います。
アルバム「Evergreen」について
——最新アルバムの「Evergreen」がリリースされて1年ほど経ちますが、今改めて、自分自身の中ではどんな実感がありますか。
アリソン:今回の作品は、私にとって本当にパーソナルなものです。とにかくソングライティングそのものに集中して、できるだけストレートで、シンプルな作品をつくろうという意図があった。自分の人生の中で起きていたさまざまな出来事を整理して、受け止める助けにもなったし、完成したときには大きな達成感があって。「自分自身としっかりとつながれる」作品がつくれた、という実感があります。
——「自分自身としっかりとつながれる」?
アリソン:このアルバムは、「変化」や「喪失」、そして「成長して大人になっていくこと」をテーマにしていて。だからこそ、自分にとって大きな意味を持つ作品になったと思う。
ただ、リリースされたときの感覚は、正直なところ想像していたものとは少し違っていて。あまりにも大切に抱えてきた作品だったので、どこか「完璧なまま、誰にも触れられずにいてほしい」と思っていた部分もあったんだと思います。だから最初は、世に出すこと自体が少し大変でした。「肩の荷が下りた」というよりも、むしろこの作品の存在が、自分の人生の中でよりはっきりと、身近に感じられるようになった感覚があって。そこから学んだことはとても多いし、自分自身も確実に成長できたと思います。そうした経験全てが今の私を形づくっていて、今は自然と、新しいアイデアや次のステップに視線を向けられるようになっています。
——一方、エレクトロニックなプロダクションが際立った前作「Sometimes, Forever」とは変わり、「Evergreen」はアコギ中心のクリーンでリッチなサウンドで、とこか原点回帰も思わせるアプローチが印象的でした。
アリソン:今回の方向性は、実は書き溜めていた楽曲そのものから導かれたものでした。前作では、かなり自由で、クレイジーで、刺激的なことをたくさんやったので、今回はもっとシンプルに、ソングライティングそのものの美しさをきちんと伝えたいと思ったんです。限界に挑戦するとか、境界を押し広げるというよりも、楽曲を丁寧に響かせることを大切にしたかった。そういう意味で、これまでとは違う形の“新しさ”やワクワクすることに挑戦したかったんです。
——「Lost」や「Some Sunny Day」といった曲に象徴的なように、今作では、喪失や不在に直面した時の内省的な視線と、そこから回復や癒しへと向かう高揚感との対比がドラマチックに描かれているように感じました。制作を通じた経験は、今の自分にどんな形で活かされていると感じていますか。
アリソン:アルバムをつくるたびに、必ず何かしら学びがあります。私にとって「書く」という行為は、自分の思考や感情を書き留めて、それを見つめ直すプロセスなんです。今回いちばん大きかったのは、”この先も一生付き合っていく感情がある”ということを受け入れられたこと。だからと言って、それに常に打ちのめされる必要はないし、困難の中にも同じくらいの美しさが存在する。そう気づけたのは、私にとってとても大きな学びでした。
——前作の「Sometimes, Forever」では、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパティンをプロデューサーに迎えたことも大きな話題になりました。ファンにとっても大きなサプライズでしたが、改めて、どのような経緯で実現したコラボレーションだったのでしょうか。
アリソン:彼については以前から大ファンだったんです。レーベルのスタッフからプロデューサー候補として名前が挙がったときは「まさか!?」と思ったんですけど、もし一緒に仕事ができるならぜひお願いしたい、と伝えて。そうしたら彼も興味を持ってくれて、そこからはとんとん拍子で話が進んだんです。実際に一緒に制作してみると、本当に刺激的でした。何が起こるのかまったく予想できなかったけれど、きっと面白いことになるという確信はあって。結果的に、期待していた以上の素晴らしい経験になりました。
——その成果はアルバムの内容が物語っている通りですが、とはいえ、制作のプロセス自体はかなりチャレンジングだったのではないでしょうか。
アリソン:間違いなく新しい挑戦でした。ソングライティングで自分が大切にしている軸には忠実でいながら、これまでにない方向にも踏み出せた。以前よりも実験的な試みができたし、制作の現場は楽しくて、少しカオスでもあったけど(笑)。でも、そのすべてを含めて心から満足しているし、とても新鮮な作品になったと思います。
——ちなみに、いわゆる“エレクトロニック・ミュージック”は普段からよく聴かれていたのでしょうか。
アリソン:はい、エレクトロニック・ミュージックはよく聴いています。エイフェックス・ツインはずっと大好きだし、ウィリアム・バシンスキーもよく聴きます。アンビエント系は特に好きで、スターズ・オブ・ザ・リッドのようなアーティストもよく聴いています。
——ダニエル・ロパティンもゲーム好きとして知られていますが、彼と波長が合った、意気投合したのはどんなポイントだったのでしょうか。
アリソン:彼とは、全体的にとても相性がよかったと思います。とにかくアイデアが豊富で、刺激的な人で。それと同時に、ロック・ミュージックや、私がつくっているようなタイプの音楽に対しても同じくらい強い興味と情熱を持っている。そのおかげですぐに自然と打ち解けることができました。
ただ、実際に会うまでは、正直どんな人なのかまったく想像がつかなかった。会う前は、もっとストイックでシリアスな人なのかな、と勝手に想像していたんです。「どんな感じなんだろう……」って、少し身構えていた部分もあって。でも実際は、すごく「Goofy(おちゃめ)」で、どこかかわいらしい一面のある人でした(笑)。
「“自分らしさ”を一番大切にしている」
——サッカー・マミーのアルバムは、「Evergreen」を含めてこれまでの4作すべてでご自身のポートレートがアートワークに使われています。ただ、「Sometimes, Forever」だけはピントがぼやけていて、アリソンさんの表情も分からず、他のアルバムとテイストが違いますよね。
アリソン:自分自身にピントが合っていない感じが、すごく好きなんです。自分の顔がはっきり写った写真を前面に出すというのが、どこか自分らしくない気がしていて。活動を続けるうちに、あえて鮮明にしない、少し曖昧な状態でいるほうが心地いいなと感じるようになりました。年を重ねるにつれて、その感覚はより強くなっていった気がします。
だから今回のアルバム・アートワークには、かなりこだわりました。いかにも「撮影しました」という感じではなくて、もっと自然体で、日常の一瞬を切り取ったような、「candid(率直、正直)」な雰囲気にしたかったんです。
——アートワークにポートレートを使い続けていること自体にも、何か理由はあるのでしょうか。
アリソン:もちろん、レーベルとしては宣伝のためにポートレートを使ってほしい、という意向があるのも理解しています。それはどこでも同じだと思うし、実際、これまではずっと自分の姿が写ったアートワークを使ってきました。アーティスト本人の顔があったほうが、誰の作品なのかが一目で分かるし、ファンとの距離も縮まりやすい。そういう意味では、ある種の“慣例”でもある。ただ、今回の「Evergreen」に関しては、あくまで“自分らしさ”を一番大切にしたかった、というだけなんです。
——“自分らしさ”という点で言うと、普段身につけているもの、ファッションについてはどんなこだわりがありますか。
アリソン:ファッションで言えば、90年代のスタイルが大好きです。少しグランジっぽいニュアンスがあるものに惹かれます。普段はかなりシンプルで、気づくと全身黒、ということも多いんですけど、バギーなジーンズや、ゆったりしたデニムは間違いなく好きです。秋に着る、着心地のいいセーターも最高だし、生地が薄くなって、少し着古した感じのビンテージTシャツもクールで大好き。靴は基本的にブーツで、特にコンバット・ブーツは昔からの定番です。
——90年代のテイストに惹かれる理由は?
アリソン:魅力はもう全部と言っていいくらいなんですけど(笑)、90年代の映画やテレビを観て育ったので、その時代の空気感が自然と自分の中に残っているんだと思います。全体的に落ち着いていて、気取らず、少しトーンを抑えた色合いというか。あの時代特有の心地よさや、ナチュラルな感じがすごく好きなんです。オーバーサイズで、少しだぼっとしたシルエットも、まさに自分の好みで。
特に「バフィー 〜恋する十字架〜」は大好きなドラマで、ファッションからもかなり影響を受けています。他に「チャームド〜魔女3姉妹〜」や、映画の「ザ・クラフト」みたいな、少しウィッチーで神秘的な世界観にも惹かれます。いかにもなグランジではなく、どこか品のある、“絶妙なグランジ感”というか。バンドで言えば、ホールやザ・サンデイズみたいな雰囲気が私にとっての理想なんです。
——改めてですけど、「サッカー・マミー」という名前の由来はなんだったんですか。
アリソン:あれは活動を始めたばかりの頃に使っていたTwitter(現X)のユーザー名がきっかけで。特に深い理由があったわけではなくて、ただ、ちょっとふざけた感じの名前にしようと思って思いついた言葉が「サッカー・マミー」だったので、そのまま使いました。だから、完全にジョークみたいなものですね(笑)。Bandcampに音源をアップし始めた頃、それをTwitterでもシェアしていて、その流れで名前だけがそのまま残った、という感じです。
影響を受けたアーティストは?
——アリソンさんは10代で活動を始めて以来、これまで4枚のアルバムを発表されて、キャリアとしてはとても順調に歩んできた印象があります。一方で、年齢や経験を重ねて、ライフステージが移り変わる中で、音楽との向き合い方や、ソングライター/アーティストとしての意識に変化を感じるところはありますか。
アリソン:ソングライターとしては、今もずっと学び続けているし、変化し続けていると思います。曲づくりのプロセスそのものは大きく変わっていないけど、作品は常に、その時々の自分の人生や、「自分は何者なのか?」という感覚を映し出す鏡のようなものなんです。だから、私自身に起きた個人的な変化は、そのまま「何を書くか」、「どう書くか」に影響していると思います。
それと、音楽を仕事として続けるようになったことも、私自身を大きく変えました。かなり若い頃に始めたので、ある意味、人生のいくつかの側面では、とても早い段階で大人にならざるを得なかった部分もあると思う。楽しいことばかりではなく、苦しい時期や葛藤もたくさんあったけど、そのすべてから本当に多くを学んだし、かけがえのない経験も得ることができました。結果的に、それらすべてが今の自分を形づくっているんだと思うし、同時に、おかげで「いろいろな意味で自分は変わったな」という実感もあります。
——例えば、音楽を始めた頃に「こんな風になりたいな」みたいな、ロールモデルとして意識していたアーティストはいましたか。
アリソン:影響を受けてきた人は本当にたくさんいます。曲を書き始めたのがとても幼い頃だったので、最初はアヴリル・ラヴィーンやヒラリー・ダフのような、当時よく聴いていたポップ・ミュージックからの影響が大きかったと思う。そこから年齢を重ねるにつれて聴く音楽の幅も広がっていって、その時々に夢中になった音楽を吸収するようになりました。高校生の頃には、スリーター・キニーやホール、ザ・クランベリーズといったバンドに強く惹かれるようになっていて、それらは間違いなく、今の自分の音楽につながっています。リズ・フェアのソングライティングも昔から大好きで、今も変わらず尊敬しているし、ジョニ・ミッチェルやブルース・スプリングスティーンを含めて、本当に多くのミュージシャン、特に「ソングライター」たちからインスピレーションを受けてきました。
——いくつの頃から曲を書き始めたんですか。
アリソン:5歳か6歳くらいだったと思います。特に、いわゆる「confessional(告白的)」と呼ばれるタイプのソングライティングには、昔から強く惹かれていて。そういう曲を聴くと、その人のことを深く理解できたような気持ちになったり、まるで自分に直接語りかけてくれているような、強い結びつきを感じることがある。私自身も、いろいろなソングライターの作品を聴く中で、彼らの言葉に深く共感して、そこで語られている特定の出来事や感情を、まるで自分自身の体験のように受け止めたことが何度もありました。言葉や感情の核心に触れた瞬間に、音楽を通して、その人との距離が一気に縮まる――そんな感覚が、確かにあると思います。
スネイル・メイルとSASAMI、2人の友人
——アリソンさんの親しい友人でもあるリンジー・ジョーダン(スネイル・メイル)に以前インタビューした際、「サッド・ガール」――つまり“悲しみを歌う女性シンガー・ソングライター”というラベリングについて話題になりました。リンジーはその呼び方に違和感を示していて、サッカー・マミーも同じような文脈で語られることが少なくないと思うのですが、その点はいかがでしょうか。
アリソン:正直に言うと、そう呼ばれること自体は、そこまで気にしていません。特別に腹が立つこともないです。ただ、大事なのは「どういう文脈で使われるか?」だと思います。例えば、「こういう音楽が好きで、自分も同じように“サッドな気分”になるから共感できる」といった具合に、ジョーク交じりで、親しみを込めて使われる分には構わないというか。
でも、その言葉が、音楽や表現を矮小化するために使われるとしたら、話は別。特に、悲しみや感情的な痛みを歌っている女性アーティストに対して、彼女たちが多くの困難と向き合いながら必死に生み出している表現を、単に「悲観的で、泣き言を言っているだけ」と片付けてしまうような使われ方には、やっぱりフラストレーションを感じます。
——ファンの側が、そういう「悲しい曲」を求めている、期待している、という側面もあるのかなと思います。
アリソン:その感覚は、とてもよく分かります。ファンのみんなが、次の「悲しい知らせ」を待っているんじゃないか、と思ってしまうことはあるし、自分自身も、内面の葛藤や“闇”の部分と向き合うことに慣れすぎて、それを書くことが当たり前になっていると、たとえ気分が良い時でも「明るい曲を書いても、みんなが本当に聴きたいのはこれじゃないのかもしれない」と、不安になることがあります。
でも実際には、ファンはもっと柔軟で、多面的な自分を受け入れてくれるんだ、ということにも気づきました。むしろ、いろいろな感情や側面が混ざり合っていること自体を、ちゃんと楽しんでくれている。そう思えるようになったのは、大きな変化だったと思います。
——ちなみにリンジーは、「悲しい歌は、書こうと思えばいくらでも書ける。だから退屈だ」と話していましたね。
アリソン:結局、一つのテーマについて何度も書き続けていたら、いずれ自分自身が飽きてしまう。だからこそ、さまざまなテーマに取り組むことはとても大切で、健全なことだと思います。それに、特に若い女性が直面している困難は、決して悲しみや鬱屈とした感情だけじゃない。この世界には、疑問を持つべきことや、考え直したり、言葉にしていく価値のあるテーマがまだまだたくさんある。その広がりを大切にしたいと思っています。
——例えば「Still Clean」や「Scorpio Rising」といった昔の曲で歌われている痛みや喪失感は、今もリアルに感じられるものですか。当時の感情とはどのような距離感がありますか。
アリソン:曲によって、今も当時と同じ感情を抱くこともあれば、まったく違うものとして感じることもある。例えば「Scorpio Rising」はその典型的な例で、今この曲を演奏すると、曲が生まれた頃の感情が、今の自分からはとても遠く、どこか異質なものに思えるんです。あの曲を書いていた当時は、「何かが失われていく」という感覚のなかにいて、愛し、大切に思っている人との関係が消えてしまうのではないか、という不安や失望、悲しみに支配されていました。でも、そこからおよそ10年が経った今も、私はまだその人と一緒にいる。だから、当時のように胸を締めつけられる(tug on my heartstrings)感覚は、正直なところ、もうないのかもしれない。
書いていた頃は、本当に感情の振れ幅が大きい曲だったけど、今ではもっと穏やかな距離感で向き合えています。それでも、この曲自体は今でも大好きだし、描かれている情景やイメージには強いノスタルジーがあって、若かった頃の特定の場所や感覚へと連れ戻してくれる。ファンにとっても特別な曲だと思うし、だからこそ今も歌いたい。ただ、かつてのような差し迫ったドラマ性は、もうそこにはない、というだけなんです。
——ところで最近、ササミの曲をカバーしたシングル(「Just Be Friends (Soccer Mommy Version)」)のリリースに合わせて、ササミとリンジーと一緒に撮った写真をインスタグラムにポストされてましたね。
アリソン:あの写真は、たしか2019年のピッチフォーク・フェスティバルで撮ったものだったと思う。パンデミック以前ですね。私たちはみんな長い付き合いで、ササミは私のツアーでオープニング・アクトを務めてくれたこともあるし、リンジーとは、お互いが本格的にツアーを始める前からの知り合いで。2人のことは本当に大好きなので、あの写真を見ると今でもすごく嬉しくなります。ササミが時々その写真を送ってくれるんですが、そのたびに当時の空気や記憶がよみがえってくるんです。
実は、それまでササミと一緒に音楽をつくったことはなかったんです。でも彼女がアルバムを出したとき、収録曲の“再構築バージョン”を制作する企画があって、それで声をかけてくれました。一緒に作業するのは本当に楽しかったし、出来上がった曲もとても素晴らしいものになったと思っています。
——アリソンさんがデビュー・アルバムの「Clean」を発表した2010年代の終わり頃というのは、ササミやスネイル・メイルも含む“女性ミュージシャン”の台頭が大きな注目を集めた一方、#MeTooの流れもあり、音楽業界における女性の立場や扱われ方が強く問われたタイミングでもありました。当時と今を比べて、時代の空気や状況の変化を感じる部分はありますか。
アリソン:まったく変わっていないとは言わないけど、劇的に変わったとも思っていなくて。例えば、チャペル・ローンのような今のアーティストを見ていても、彼女たちが直面している問題の多くは、私たちがこれまで抱えてきたものと大きく変わらないと感じます。この業界は構造的に、「自分自身」を商品として切り売りする感覚がつきまといやすい場所で、それが時にとても危うい状況を生む。メンタルヘルスに深刻な影響を与えることもあるし、そこは今も慎重に向き合わなければならない部分だと思っています。
一方で、ポジティブな変化があるのも確かで。私の地元のナッシュビルでも、女性やノンバイナリーのメンバーが参加するバンドを、以前よりずっと多く見かけるようになりました。それは本当に素晴らしい変化です。ただ、それでもなお、解決すべき課題や、これから切り拓いていく余地は、まだたくさん残っているとも感じています。
——チャペル・ローンといえば、今年のグラミー賞の受賞スピーチで、音楽業界に対してアーティストの労働環境の改善を強く訴えたことが大きな反響を呼びました。
アリソン:彼女のすごいところは、もちろん音楽そのものもそうなんですけど、それ以上に、業界の中で「何を求めるのか」という姿勢をはっきり示してきた点だと思います。彼女が求めてきた“リスペクト”のあり方を軸に、業界全体の空気が変わった瞬間が何度もありました。
自分自身やキャリアを賭けて声を上げて、その結果として実際に変化が起きていく。そのプロセスを目の当たりにするのは、本当に素晴らしいことだと思う。もちろん、ああした変化を起こせるのは、大きな成功と強い支持基盤を持つ人だからこそでもある。でも、だからこそ、その「力」を使って周囲を引き上げていく姿勢には、大きな意味があると感じています。
2025年によく聴いたアルバムは?
——ありがとうございます。では最後は、カジュアルな質問です。アリソンさんの2025年のベスト・アルバム、あるいは今年よく聴いた音楽を教えてください。
アリソン:ちょうど今日、Apple Musicの「リプレイ」を見たんですけど、今年一番聴いたアーティストはザ・レディオ・デプト(The Radio Dept.)でした。これはかなり正確だと思います(笑)。特に今年は「Pet Grief」(2006年)をよく聴いていて、本当に夢中になっていました。
——ちなみに、新しい曲づくりはもう始まっているんですか。
アリソン:新しい曲はずっと書いています。すでにかなりの曲数が揃っていて、今はアルバムとしてまとめるための最終段階、という感じです。できれば来年中にはレコーディングに入れたらいいなと思っていて、その可能性は高いと思っています。なので、そこまで長く待たせることにはならないはずです。
——どんなアルバムになりそうか、現時点で話せることはありますか。
アリソン:正直、まだ何も言えないんですけど……(笑)。ただ、新しい音楽はそう遠くないうちに届けられると思います。
PHOTOS:MICHI NAKANO
アルバム「Evergreen」
◾️Soccer Mommy (サッカー・マミー) 「Evergreen」
レーベル : Loma Vista Recordings
発売中
https://lnk.soccermommyband.com/EG





