サステナビリティ

日本初開催アワードの舞台裏 ケリングと最優秀受賞者が語る協業の考え方

ラグジュアリーの未来は、どこから生まれるのか。その問いに対する一つの答えが、「ケリング・ジェネレーション・アワード」だ。自社の枠を越え、世界各地のスタートアップとともにネイチャーポジティブ、クライメートポジティブな解決策を育てる。本アワードは、単なる表彰にはとどまらずラグジュアリー業界と革新的な技術をつなぐ場として進化している。なぜ今、イノベーションが資源の価値を再定義するのか。大企業とスタートアップはいかに補完し合えるのか。ジェラルディン・ヴァレジョ ケリング サステナビリティ・プログラム&イノベーション・ディレクターと、初の日本開催で最優秀賞を受賞した酒井里奈ファーメンステーション社長が受賞の舞台裏からフランスでのプログラム体験まで、具体的なエピソードを交えて語った。
(この対談は2026年1月28日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2026」から抜粋したものです)

ファーストムーバーとしての役割を非常に真剣に受け止めている

WWD:最初に「ケリング・ジェネレーション・アワード」の誕生背景を教えてください。

ジェラルディン・ヴァレジョ ケリング サステナビリティ・プログラム&イノベーション ・ディレクター(以下、ジェラルディン):ご存じのとおり、イノベーションとサステナビリティは、ケリングの戦略の中核をなすものです。私たちは15年以上にわたり、ラグジュアリー業界に、よりサステナブルなイノベーションを取り入れることに影響を与えてきました。

そして、ファーストムーバーとしての役割を非常に真剣に受け止めています。それは、自社ブランドにおけるサステナビリティを前進させる革新的なソリューションを支援するだけでなく、それを超えた領域にまで及びます。私たちは常に、多くの画期的な取り組みの最前線に立つことを目指しています。

イノベーションという点では、その姿勢はブランドのデザイナーたちの創造性によく表れています。一方で、ネイチャーポジティブやクライメートポジティブといったソリューションに関しては、必ずしも社内だけで生まれるものではなく、むしろ世界各地の実験的なスタートアップから生まれてきます。彼らは私たちがラグジュアリー業界に取り入れるべき解決策を持っているにも関わらず、通常はこの業界へのアクセスを持っていません。

だからこそ私たちは、そうした先駆者たちを育成し、ラグジュアリー業界へのアクセスを提供するという哲学を持っています。これが、2018年に中国で始まり、その後、日本を含む他国へと展開してきた「ケリング・ジェネレーション・アワード」の背景にある考え方です。

WWD:その「ケリング・ジェネレーション・アワード」の日本初開催で最優秀賞を受賞したのがファーメンステーション(Fermenstation)です。酒井さん、受賞しての感想は?

酒井里奈ファーメンステーション社長(以下、酒井):ファーメンステーションを立ち上げて十数年になりますが、その中でも最も忘れられない出来事でした。まさに人生の節目ともいえる体験です。「本当に良かった」という言葉では言い尽くせないほど、これまで積み重ねてきた取り組みを認めていただけたという実感がありましたし、ここから先の道を切り開く意味でも、大きな転機になったと感じています。

最優秀賞を授賞したピッチをリアルに再現

WWD:ではここで、酒井さんに受賞したそのピッチを再現いただきましょう。お願いします!

酒井:ファーメンステーションは、食料残さなどの未利用資源をを機能のある素材に転換する会社です。より良い香りや味、おいしさ、そして体験といった価値を提供することができる、日本発のスタートアップです。

技術についてご紹介します。私たちは微生物のプロフェッショナル。「発酵アップサイクルプラットフォーム」と呼んでいますが、世界中に存在する食品会社や飲料会社が製造過程でどうしても生み出してしまう、均一な量と質を持つ廃棄物。こうしたものを最適な酵素で分解し、微生物を選定、発酵することで、機能のある素材へと変えていきます。すでに化粧品やフレグランス分野での活用実績もあり、今後さらに食分野などにも展開を広げていこうとしています。

例えば、日本に豊富にある米ぬかを、複数の微生物を用いることで、ラクトンというミルクのような成分へと変えることができます。また、世界中で余っているコーヒー粕を、まったく別のバニラやウイスキーのような香りへと変えたり、さらにアルコール飲料へと転換したりする技術も持っています。

これらが可能なのは、私たちが持つビジネスの経験と技術的なバックグラウンド、そして専門性を備えたメンバーが揃っているからです。ちなみに私は、未利用資源を何とかしたいという思いから金融業界を離れ、微生物の勉強をし直して起業しました。

私たちが他社と異なる点について少しお話しします。未利用資源、いわゆる廃棄物と呼ばれるものは数多くありますが、私たちはさまざまな素材を扱ってきた豊富な経験があります。硬いもの、繊維質のもの、木質系のもの、タンパク質や糖質を含むものなど、多様な原料を素材へと転換してきました。また、酵素と微生物のライブラリを保有しています。海外のスタートアップにはあまり見られない、日本で活用されてきた菌も保有しており、それらを適切に活用しながら、意図を持って代謝設計をし、ものづくりを行うことができます。

さらに、オーガニック認証を取得した自社工場を有しているため、研究開発にとどまらず、一気通貫で製造まで行うことが可能です。これまでお客様からは、「香りが良い」「おいしい」「機能がある」といった評価に加え、天然由来であること、遺伝子改変微生物を使用していないため導入しやすいことなども評価していただいています。

これまでは主に日本国内の企業と事業を進めてきましたが、海外企業との対話も始まっており、今後はグローバル展開を目指しています。これまでさまざまな化粧品にも採用いただいていますし、化粧品以外でも、私たちが製造する香り高い製品を日本の飲料メーカーに採用いただいた事例もあります。

スタートアップとしての成長戦略としては、単なる技術提供にとどまらず、自ら製造も行うことで、石油に依存しない機能性バイオマス素材のトッププレイヤーになることを目指しています。
私たちにとって重要なのは、環境やコミュニティへの配慮、つまりソーシャルインパクトの実現です。自社工場の運営を含め、すべての意思決定においてこれらを考慮しています。CO₂排出にも配慮しながら原料を製造する取り組みも進めています。

そして本日は、ケリング様へのご提案を持ってまいりました。ケリング ボーテがラグジュアリー香水に注力されているとうかがっています。私たちが提案するのは、ラグジュアリーでありながら循環型でもあるフレグランスです。
フレグランスの多くはアルコールを原料としていますが、一般的にアルコールはトレーサビリティの確保が難しく、どのような原料から作られているかを追跡しづらいという課題があります。私たちは、完全にトレーサブルでリジェネラティブなアルコールを提供でき、さらに優れた香りも実現できます。また、コスト面にも配慮しています。

具体的には、ベースとなるアルコールに未利用資源であるワインやコーヒー粕を活用します。さらに複雑な香りを付与することで、従来にはなかった産地が明確な、植物由来資源を再活用したフレグランスを生み出すことが可能です。ぜひケリング様とご一緒できればと考えております。その機会をいただければ幸いです。本日はありがとうございました。

WWD:ありがとうございます。素晴らしい熱量、まさに再現でしたね。

最優秀賞の決め手のひとつはローカル課題に根差す具体性と熱量

WWD:数ある才能、技術の中で、審査員はなぜ最優秀賞にファーメンステーションを選んだのでしょうか?

ジェラルディン:今回、「ケリング・ジェネレーション・アワード」に初めてビューティー 分野を加えました。これまではファッションが中心でしたので、ビューティーからの提案は特に興味深いものでした。そしてリナの話を聞くと、強いエネルギーを感じます。彼女自身がとてもエネルギッシュで、その熱量は審査員にも伝わったと思います。

また、ファーメンステーションのソリューションは、ローカルな課題との関係性が高いものでした。食資源の最適化に取り組み、サーキュラー・エコノミーを通じて、非常に具体的な解決策を提示しています。さらに、合成生物学をめぐる取り組みも、とても印象的でした。ビジネスの観点から見ても、生産プロセスをライセンス化することで、地理的な制約なくグローバルに展開できる可能性を持つビジネスモデルである点が興味深かったです。

そして最後に、決して小さくない理由として、このプロジェクトが女性創業者によるものであったことも、私たちにとってごく自然で、意味のある選択でした。

WWD:酒井さんはこれまでも数々のアワードに応募し、受賞されていますが、今回「ケリング・ジェネレーション・アワード」にはどのような期待を持ってエントリーされたのでしょうか。

酒井:実は、この「WWDJAPANサステナビリティ・サミット」の第1回、第2回の開催を拝見していました。ジェラルディンさんと司会の方との対話も、一般の視聴者として聞いていたんです。そのときに、「これほどサステナビリティや生物多様性に真剣にコミットしている企業があるのか」と感じ、本当に尊敬できる企業だと思いました。

アワードについて知った際、「協業の可能性がある」「ビジネスミーティングの機会がある」と記されていて、これほどのチャンスはないと感じました。審査員の方々も素晴らしく、CEOやサステナビリティ責任者をはじめ、実際にケリングの皆さんに直接見ていただける機会でもあります。受賞を目指すというよりも、「まずは自分たちの取り組みを知ってもらいたい」という思いのほうが強かったですね。

国内ブートキャンプからフランス派遣まで、“フルセット”の価値

WWD:受賞を通じて得たもの、他のプログラムとの違いは何でしたか。

酒井:これまでさまざまなアクセラレーションプログラムに参加してきましたが、ここまで“フルセット”で設計されたものは初めてでした。まず国内でブートキャンプが実施され、ジェラルディンさんをはじめケリングの皆さんから、ラグジュアリーとは何か、サステナビリティとは何か、生物多様性とは何かを体系的に学びます。専門家の方々による非常に充実した内容で、ピッチのトレーニングもあり、基礎をしっかり固めたうえでフランスへ渡航することができました。賞金に加え、2週間のフランス滞在の機会まで用意されている。一気通貫で設計されたプログラムだと感じました。

WWD:フランスでは何を経験しましたか?

酒井:まずケリング本社でのセミナーが行われ、その後に具体的なビジネスミーティングや視察が続きました。後半には、グラン・パレで開催される世界最大級のサステナビリティイベント「チェンジナウ(ChangeNOW)」に参加しました。世界中から同じ志を持つスタートアップや企業が集まり、競合と位置づけられる企業もいましたが、同時に同じ課題に向き合う仲間でもありました。非常に刺激的なコミュニティでした。

WWD:香水の聖地、南仏ではどのような経験を?

酒井:南フランスでは、ケリング ボーテの取引先である香料会社を訪問しました。いわば迎賓館のような場所で、通常であればお会いできないような方々がフルメンバーで迎えてくださいました。私たちの原料を持参し、世界各地のチームに向けて説明する機会もいただきました。

そこには温室があり、植物があり、長い歴史がありました。どのような思想で香水をつくるのか、何を届けたいのかを丁寧に教えていただきました。私はその様子を岩手の工場のメンバーにも共有しました。私たちの工場は田んぼの真ん中にありますが、「いつかこうした場をつくれたらいいね」と話しました。フランスの形をまねるということではなく、背景や場の力を感じながら原料を生み出すという姿勢を、私たち自身も体感し、それをお客様にも伝えていきたいと感じたのです。

事業を続けていると、量の拡大や安定供給が目標になりがちです。しかし、素材の背景にある思いや、どのような方法でつくられているのか、そうした価値と共鳴する世界が確かに存在することを知りました。単なるデータとしてのトレーサビリティではなく、思いとともに届けることが評価される。そのことを実感しました。

WWD:酒井さんのお話に出てきた「チェンジナウ」について教えてください。

ジェラルディン:「チェンジナウ」では、イノベーターたちは世界各地から集まり、自らのソリューションを発表します。リナや他の受賞者たちは、パリにあるとても美しい建物、グラン・パレにブースを構えました。そこには、さまざまなラグジュアリーメゾンの関係者が訪れました。というのも、私たちの考えは、ソリューションを囲い込むことではなく、業界へと広げていくことにあるからです。また私たちは、リナを原料を直接手がけているフレグランスメゾンにも紹介しました。彼女は香料原料づくりの中心地であるフランス南部を訪れ、たいへん実りある旅になりました。そして、それを一緒に体験できたこと自体が、本当に素晴らしいプロセスだったと思います。

審査の軸と、その先のエコシステムづくり

WWD:賞の授与だけでなくツアーなども実施する意図とは?

ジェラルディン:このツアー自体も、実はアワードの一部なのです。私たちの考え、つまり目標は、こうしたイノベーションを市場により近づけることにあります。そのため彼らには、ラグジュアリーとは何か、私たちがラグジュアリーの中でどのように事業を行っているのか、そして誰が主要なプレイヤーなのかを理解してもらう必要があります。

リナが言っていたように、これは単にテクノロジーの話ではありません。テクノロジーをどのように届けるのか、そのストーリーをどう描くのか、そして人とどのようにつながるかが重要なのです。そのため私たちは、各ブランドや、そのサプライヤー、さらに「チェンジナウ」を通じた国際的なエコシステムとの間に、こうしたつながりを生み出しています。

WWD:ところで、審査基準はどう設定しているのでしょうか?

ジェラルディン:審査基準についてですが、大きく6つの主要な基準があります。そのうち3つは、イノベーション・アワードとして比較的一般的なものです。技術的な卓越性、新規性、つまり既存の技術水準を大きく超えているかどうか、そしてビジネスとしての成長可能性です。

一方で、これはサステナビリティ・アワードでもあるため、イノベーションがもたらす環境的・社会的インパクトについても、非常に重視しています。さらに、チームそのものについても評価します。チームが持つさまざまな強みや、多様性も重要な観点です。最後の基準は、ファッションおよびビューティー分野との関連性です。これは、私たちが事業を行っている領域だからです。こうした審査の背景には、約15名からなるアドバイザリー・コミッティがあります。環境インパクト、ビューティー、ファッションなど、それぞれの分野の専門家が参加し、選考を支えています。

今回は126件の応募があり、その中から最終審査に進む10件を選ぶ必要がありました。選ばれた10組は、すべて最終審査の場でピッチを行いました。最終審査員は、地域統括プレジデントを含むケリングの社内エグゼクティブ4名に加え、ビジネス、アカデミア、NGOの外部審査員5名で構成されています。審査員は、ファイナリスト10組の提案内容だけでなく、実際のピッチセッションも見ることができました。こうした場でこそ、イノベーターたちのより深い洞察や誠実さが現れ、評価が最終的に固められ、調整されていくのです。

2位・3位・特別賞に見る「次のラグジュアリー」の要件

WWD:その中で、今回、アンフィコが第2位、株式会社アルガルバイオが第3位を受賞し、マイクロバイオファクトリーが特別賞を受賞しました。それぞれの評価ポイントを教えてください。

ジェラルディン:アンフィコ(AMPHICO)が特に興味深かったのは、PFASという非常に重要なテーマに取り組んでいる点です。PFASはいわゆる「永遠の化学物質」と呼ばれ、世界的に規制が強化されつつあります。彼らのソリューションは、PFASを一切使用しない、通気性と防水性を兼ね備えたテキスタイルです。PFASは通常、撥水や防汚のために使われますが、有害な化学物質です。アンフィコは、そうした有害物質を完全に排除した代替技術を提案しています。さらに、水を使わない独自の染色アルゴリズムも開発しています。

これら2つのイノベーションは、テキスタイル産業全体の環境負荷を世界規模で削減する大きな可能性を持っています。私たちは、まさにこのような代替技術を探していました。

WWD:アルガルバイオ(ALGAL BIO)については?

ジェラルディン:私たちが評価した点は、アルガルバイオが世界最大級の藻類ポートフォリオを有していることです。これは東京大学が保有する独自のライブラリで、藻類の活用に関する非常に深い知見を持っています。用途に応じて最適な藻類を選択できる点は、大きな強みです。これは日本ならではの強みであり、私たちはそれを世界に向けて発信したいと考えました。

彼らはすでに食品やヘルスケア分野でソリューションを開発していますが、ビューティーやファッション分野では、まだ初期段階にありました。このアワードを授与することで、藻類由来のナチュラルなイノベーションが、ビューティーおよびファッション分野でより早く普及すると考えています。

WWD:マイクロバイオファクトリー(MICRO BIO FACTORY)は特別賞を受賞しました。

ジェラルディン:マイクロバイオファクトリーは、バイオテクノロジーによってインディゴ染料を生産しています。この点は私たちにとって非常に興味深いものでした。というのも、私たちのブランドの中には、日本でデニム製品を生産しているところがあるからです。

ご存じのとおり、インディゴはデニムを象徴する染料です。このイノベーションは、日本の長い伝統と、私たちのビジネスの双方と強く共鳴するものでした。これは、伝統的なクラフツマンシップと、現代的でサステナブルな生産方法を結びつけるソリューションです。特別賞を設けたのは今回が初めてで、それほど私たちのビジネスとの関連性が高かったからです。

WWD:他ファイナリストのピッチを聴いて印象に残った点を教えてください。

酒井:ブートキャンプがあったことで、ファイナリスト同士の距離が一気に縮まりました。私はファッションの中心にいる立場ではないため、業界特有の課題を十分に理解できていなかった部分もあります。排水や水資源、PFASといったテーマに、それぞれが真剣に向き合っている姿を知りました。

そうした議論を共有する中で、サプライチェーン全体の課題が相互につながっていることが見えてきました。一つの課題だけを解決しても、本質的な変化には至らない。志を同じくする仲間と出会い、学び合えたことは、非常に大きな収穫だったと感じています。

大企業×スタートアップが補完できること

WWD:ここからは共通質問です。大企業とスタートアップは、サステナビリティ推進においてどこを補完し合えると思いますか?

酒井:スタートアップは動きが速く、専門的な知見も持っています。大企業がすぐには取り組めない領域を、先行して走ることができる存在です。一方で、私たちだけでは世の中を大きく変えることは難しい。だからこそ協業によって、新たな知見や自信、そして次の一歩を踏み出すきっかけを得ることができると感じています。

また、「次のラグジュアリーは、サステナビリティと生物多様性が徹底されていなければならない」という言葉が強く印象に残っています。ラグジュアリーは高価格帯であるからこそ、初期段階で先進的な事例を生み出すことができる。それを起点に社会へ広げていくことができるという視点は、非常に示唆に富むものでした。

ジェラルディン:受賞者たちが提示しているイノベーション、そして実際に最終選考に残った10組すべてが、これからのラグジュアリーの未来像を示しています。それらは強く共鳴し合い、資源は無限ではないという事実、そしてサーキュラリティはあらゆることの出発点でなければならない、という強いメッセージを発しています。

また、藻類のような自然資源の活用についても、単に採取するのではなく、その特性を賢く活かすべきだという考え方を示しています。彼らはこうした問いを私たちのチームに投げかけると同時に、具体的な解決策も提示しています。それは、気づきを与える存在であると同時に、ビジネス提案でもあるのです。

WWD:これまでに受賞者が実際にケリングとの協業へと発展した例はありますか?

ジェラルディン:実際、複数の受賞者が新素材を開発し、すでに実装段階に入っています。中国で第2回のアワード受賞者となった「ピールスフィア」は、バイオベース素材を開発し、ケリング傘下のジュエリーブランドでの活用が進んでいます。また、第1回の受賞者である「メレファント」のバイオベース染料、そして日本で受賞した「アンフィコ」は、イタリアのマテリアル・イノベーション・ラボと連携し、ブランドへの応用に向けた開発を進めています。

WWD:イノベーションがサステナビリティに果たす役割とは?そして、“資源の見え方”をどう変えていくと思いますか?

酒井:サステナビリティは、やはりマインドだけでは前に進まないのだと感じています。そのときに、イノベーションや技術があれば、人々の行動変容は自然に起きる。だからこそ、イノベーションは不可欠だと思っていますし、それを提供できる側でありたいと考えています。

イノベーションがもたらすのは、モノの見え方や作り方そのものの変化です。例えば私たちは食品残渣を活用していますが、現在の工場ではリンゴジュースを作る際、ジュースは製品になり、搾りかすは廃棄されます。しかし、その搾りかすをジュース以上に付加価値のあるものへと転換できるとしたら、工場の在り方は大きく変わります。扱い方も、設計も、素材の見方も自然と変わっていくはずです。

事例を積み重ねることで、「意識を変えなければならない」という世界から、「こちらのほうが合理的で、収益性もあり、当然の選択だ」と受け止められる世界へと移行していくのではないかと考えています。

ジェラルディン:私もリナに同意します。イノベーションは、物事を異なる視点から捉えることを可能にします。資源について言えば、ケリングではすでに、気候変動や生物多様性の損失によって、コットンやレザーの調達がさらに困難になるシナリオを想定しています。実際に、素材の入手可能性や品質への影響はすでに表れています。

そのため私たちは、できる限りそれらを保全することに加え、これまでラグジュアリーとは見なされてこなかった新しい資源や素材を、別の視点から捉え直そうとしています。現在、ファッションやビューティー業界の多くは、有限で採取型のモデルに依存していますが、これはサーキュラーかつ再生型のモデルへと移行しなければなりません。

テクノロジーは、トレーサビリティを高め、バイオテクノロジーやリサイクル技術を活用することで、素材やソリューションをより高い品質へと引き上げ、ラグジュアリー分野で使用可能にします。第一に、イノベーションは、資源が無限ではないという事実を私たちに認識させ、テクノロジーがそれらの価値を高める助けになることを示します。そして第二に、これはリナも触れていましたが、イノベーションは「何が価値あるものなのか」を再定義することを私たちに迫ります。例えば、水はますます希少になり、世界で均等に分配されていないため、ますます貴重な存在になっています。

ジュエリー分野での例を一つ挙げます。「サーカムスタンス・ファースト・チョイス」と呼ばれる、もう一つの「ケリング・ジェネレーション・アワード」があります。このアワードの考え方は、現在は廃棄物と見なされているものを、価値ある素材として捉え直すというものです。創造性によって廃棄物を価値へと転換し、素材の制約を超えていく。例えば「ブシュロン」では、かつて工業廃棄物と見なされていた素材を、美しいジュエリーに使用できる素材へと昇華させています。私たちは、こうした取り組みを、世界中の他のラグジュアリーブランドにも広げていきたいと考えています。

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