
早稲田大学発のファッションサークル・早稲田大学繊維研究会は12月7日、科学技術館でファッションショー「それでも離さずにいて」を開催した。これまで4回にわたり、ショーまでの道のりを連載形式で寄稿してもらったが、連載の最後は幹部メンバー4人がショーを終えた振り返りを座談会形式で行った。話を聞かせてくれたのは、代表・長野桃子さん(東京家政大学4年生)、副代表・杉田美侑さん(早稲田大学3年生)、副代表・グイ蘭丸さん(同2年生)、会計・西脇詩緒里さん(同2年生)の4人だ。
WWD:今回のショーに向けた活動はいつ頃から始めた?
長野桃子(以下、長野):コンセプトを練り始めたのは2025年1月頃。並行して“服造”“演出”“広報”など各部門の担当を決め、服造チームが実際に服作りを始めたのは8月頃です(8月にはルックブック撮影があり、それを終えてから)。また会場の選定を行うため、5、6箇所ほど下見に行きました。

WWD:服作り及びショーの制作には多くの予算が必要だ。
杉田美侑(以下、杉田):会費として、所属学生からは半年で1万5000円を募ります。それに加え、学校の補助金や企業から協賛金をいただいています。これらのお金から服作りの材料費や会場費を捻出する仕組みです。
西脇詩緒里(以下、西脇):ちょうどショーが終わり、今事後処理に追われていて。各所にお金を振り込むたびにヒヤヒヤしています(笑)。
WWD:それぞれの役割で大変だったことは?
長野:服造においては、「早稲田大学繊維研究会(以下、“繊維”)のコンセプトの中で作るルック」を意識しなけらばならないこと。代表としても「“繊維”のあるべき姿」を守り続けなければいけないという思いがあり、プレッシャーは大きかったです。

長野:妥協せずに話し合うということを意識していたからこそ、ぶつかり合うことも多くて。でも、ぶつかり合ったからこそ一人一人が深く考えるきっかけにもなったと思います。特に私と杉田は結構空気をピリつかせてしまったので、2年生たちはちょっと気まずかったかもしれません(笑)。
杉田:「“繊維”らしさ」は広報活動においてもとても重要な視点でした。部員の思いや活動の様子を伝えたい一方、外に出ていく団体のイメージを壊さないためにはどうすれば良いのか。これまでの“繊維”は、団体活動の裏側をあまり外に出していなかったこともあり、「私の独断で決めてしまっても良いのか」と自問自答し続けました。
これまでに行ってきた「WWDJAPAN」の寄稿でも、「“団体の思い”としてこの記事を出して良いのか」という自身への問いがずっとありました。個人のクリエイターが好きなものを作って発表しているわけではなく、いち組織として表現物を提示するのが“繊維”だと思っています。写真を1枚選ぶだけでも、「1人にフォーカスしすぎている写真は掲載すべきではないのでは」など、細部まで念入りに確認しました。

グイ蘭丸(以下、グイ):服造においては、コンセプトも納得がいくものを生み出すことができて、ルック制作はとても楽しかったです。その一方で、今振り返れば服作りに専念しすぎて副代表としてやるべき仕事がかなり疎かになってしまって反省しています。10月に行った1年生ショーも含め、思い通りに物事が進まないことがたくさんあったなと思います。服作りにおいても、当初目指していたのは「モデルに手渡して、迷わずに着られる服」。ショーではフィッターもいましたが、フィッターなしでも着られるようなわかりやすい服を作りたいと思っていました。でも実際はちょっとリアルクローズから離れてしまったように感じています。
西脇:私はショー当日のタイムスケジュールを作成したのですが、実際に作ってみるとかなり細かくて。それでもみなさんのご協力のもと、分刻みのスケジュールを守ることができました。小さいときから、「形作るものを裏方として支えたい」という思いがあったのですが、今回のショーではその思いを実現できたと思います。紙のパターンや資料から始まったものが、大きな会場でのショーになっていくことを体験できて、本当に感動しました。

WWD:早稲田大学繊維研究会はこれまで、森永邦彦「アンリアレイジ(ANREALAGE)」デザイナーや神田恵介「ケイスケカンダ(KEISUKE KANDA)」デザイナーを輩出している。そんな団体を運営する上でプレッシャーはあったか?
杉田:プレッシャーはずっと感じていました。ショーの少し前に見た夢の中で、卒業生たちがショーを見に来てくれたのですが「こんなのは“繊維”じゃない」と言われて…夢で本当によかったです(笑)。
長野:私自身、2年前に初めて先輩たちのショーを見たときに“繊維”が好きになって。そこにあった、“既に完成された繊維”を私たちが次の世代につないでいくために、ブランディング的な部分でもかなり悩み、試行錯誤しました。ショーを終えた後、見にきてくれた先輩方が「悔しくなるほどとても良かった」と言ってくださり、ほっとしました。

WWD:ファッションショーを通じて得られたこと、自身が成長したと思う点は?
西脇:私は裏方としての意識が一層強まったと思います。表に立つみなさんを支える苦労、縁の下の力持ちの存在の大切さを感じられました。みんなから「あの人がいなかったら成り立たなかったね」と思ってもらえるような人になりたいという自分の気持ちを再認識できた1年でした。
グイ:“繊維”に入って、「みんなで1つのショーを作っている」という経験を得られました。これまで自分がやってきたことの多くは“自分が中心の世界”にあったのですが、ショー作りにおいては服を造る自分以外にも服を着せる人、着る人、演出でもっと魅力的に見せる人など、各分野における“他者”がいて、チームで動くことの大変さと楽しさを知ることができました。
そして今回のショーではこれまでよりもっと先輩たちの近くで運営を見ることができました。今年のショーそのものも、先輩たちも、先輩たちのルックも全て大好きで、この団体にいることができて本当によかったです。僕は「こうしよう」と思ったことにあまり妥協できない性格なので、これからは先輩方の気持ちを受け継ぎながら、“繊維”の一員として頑張ろうと決めたことを最後まで貫いていきたいです。


西脇:ショーを終えて、私とグイ、同期もう1人で打ち上げをしたのですが、みんなが思い思いに“繊維”に対する愛を語り合うすごい会になってしまって(笑)。グイは感極まって泣いてしまうほどで、本当にみんなが好きな団体なんです。
早稲田祭から今回のショーに向けて3カ月走り抜ける中で、先輩たちに教えてもらったこと、フォローしてもらったことがたくさんあります。それを今度は私たちが次の世代に還元していけるように、頑張ろうと思います。
杉田:私もグイと似たようなことを感じていたかもしれません。同級生とのコミュニケーションの取り方の難しさ、意見が衝突したときにどのように落とし所をつけるか、など、難しいことがたくさんありました。就活をしている中で、よく企業に協調生を問われると思うのですが、これまでの私はどこか、協調性を同調圧力とすら感じていた部分があって。でも“繊維”の活動を通して、協調性は相手とていねいに向き合って、言語化し、コミュニケーションをとることだという視点を持てました。
いつも私の言葉を真摯に受け止め、ときには正面からぶつかってくれる長野のやさしさにもたくさん助けられたと思います。団体の外でも、支援してくださった企業の皆さんや、他にもいろいろな人の支えがあってこそできている活動なんだなと感じました。
長野:ショー当日は「厄年なんじゃないか」と思うくらい、朝から色々なハプニングが起きて(笑)。でも今回見にきてくれた人から、「泣きそうになった」「感動した」と言ってもらえました。これまでにもショーに携わってきましたが、そんなふうに言ってもらえたのは初めてだったので、最後までやり抜いて本当によかったです。活動の軸となるコンセプトを、1年かけて掘り下げながらショーへ集約していくのが“繊維”。コンセプトをもとに、ブレずに考え続けることが大切なんだと、改めて気づくことができました。

長野:モデルが全員歩き終えた後、代表として私もランウエイに立ったのですが、舞台裏で私を送り出してくれた後輩が「桃子さんを送り出してしまったら、本当に引退してしまうんだと寂しくなってしまった」と後から教えてくれたんです。それを聞いて、本当に胸が熱くなりました。私自身、先輩たちが大好きだったから続けてこられた部分もあったので、自分がそんなふうに思ってもらえるようになったんだと思うと感慨深いです。
WWD:次の世代に残したい思いとは?

杉田:毎年、代表が示す方向性によって活動の中身は変わっていくと思います。作りたいものや運営方針は世代ごとに決めながらも、その中でも変わらない”繊維”らしさをつないで行ってもらえたらうれしいです。「作りたい」って思った理想があるなら、色々な壁があってもゴールに到達するまでがんばってほしいです。
長野:他のファッションサークルも数多くある中で、“繊維”が持つファッション批評やコンセプトをいちばん大事にしてくれたらいいなと思います。早稲田大学繊維研究会は好きなことをやったり、個人のクリエイションを見せることができる団体でもありますが、団体として見せることの素晴らしさもぜひ味わってほしいです。
早稲田大学繊維研究会によるこれまでの連載タイトルは「変わりゆくなかで変わらないもの」を掲げてきた。これはショータイトル「それでも離さずにいて」(SNSやファストファッションの成長により時代が変わる中で持ち続けたい大切なもの、在るべき姿を表現した)を裏付けるコンセプトでもあったが、彼らが先輩たちから受け継いできた「団体らしさ」を表現するようにも感じさせる。代表の長野さん、副代表の杉田さんはこのショーをもって引退となるが、次の世代が団体として「変わりゆく中で変わらないもの」をどのような形で表現するのか、今後が楽しみだ。
PHOTOS:早稲田大学繊維研究会