ファッション

世界の首脳がG7広島サミットで味わった銘酒「七賢」 老舗酒造13代目が挑むコラボを通したブランディング

日本酒は、ユネスコの無形文化遺産に登録された“伝統的酒造り”の代表格ともいえる存在だ。全国の米の産地に酒蔵があり日本人の生活に密着していたが、1973年以降は消費量が下がり続けている。寿司などの日本食ブームにより日本酒の海外への輸出は増加しているが、国内ではアルコール消費量のうち、わずか4.5%まで減少。そのような状況で、さまざまなコラボレーションを通して日本酒の可能性を広げているのが山梨の老舗酒造の「七賢」だ。「七賢」の創業は1750年。創業以来、、白州の水を生かした酒造りを行っている。

世界的シェフとの協業はG7広島サミットでも採用された実力

2021年には世界的シェフのアラン・デュカス(Alain Ducasse)と協業でフランス料理に合う日本酒“アラン・デュカス スパークリング・サケ”を制作。美食家から高い評価を得て、23年のG7広島サミットでオフィシャルドリンクに採用された。デュカスは「七賢」の酒蔵を自身で訪れ、その歴史と物作りに対する哲学に共感。スパークリング・サケ以降も、日本酒の搾り粕を使用した“アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ”やそれを使用したチョコレートなどでコラボを継続している。

古酒を使用したスパークリング日本酒”エクスプレッション”

その「七賢」が15年から“醸造家としての表現”として制作しているのが熟成スパークリング“エクスプレッション”シリーズだ。古酒を使用した味わい深い同シリーズでは、地元山梨とつながりがあるアーティストと協業。中村キース・ヘリング美術館や山梨美術館とのコラボで特別ラベルが施されている。8月には新作“エクスプレッション2012”が登場。山梨美術館に収蔵されているミレーの名画「落穂拾い、夏」がラベルに使用されている。パッケージのデザインは、「サントリー(SUNTORY)」や「虎屋(TORAYA)」などのアートディレクションを手掛けたアートディレクターの葛西薫が担当。老舗酒造と世界的名画、日本を代表するアートディレクターの共演が実現した。

日本酒にもワイン同様の付加価値を与えるブランディング

8月に都内で行われた発表会で「七賢」の13代目である山梨銘醸の北原対馬社長は、「日本酒にもワインのような価値をつけたい。飲む芸術品として”エクスプレッション”を楽しんでほしい」と語った。山梨県立美術館の青柳正規館長は、ボルドーやブルゴーニュの歴史あるワイナリーのワインが高い評価を得ているワイン市場を例に挙げ「味だけではなく、歴史やストーリー性も大切。日本酒の味わいは世界で知られている。山梨にあるミレーの名画と日本酒のマリアージュで、新しい物語が生まれた」とコメント。アートディレクターの葛西は、「”エクスプレッション”の繊細な味の中に、ミレーが描いたバルビゾンの野生を込められないかと考え、シンプルに仕上げるのが一番だと考えた」と話す。

ワインでは「シャトー・ムートン・ロートシルト(CHATEAU MOUTON ROTHCHILD)」が毎年著名アーティストによるオリジナルラベルで知られ、多くの愛好家やコレクターの注目になっている。それと同様のアプローチだ。北原社長は、「“エクスプレッション”はブランディングの一環として、日本酒に新たな価値を与えるプロジェクトとしてスタートした。知名度からするとまだまだだが、山梨という土地にこだわりながら、さまざまな協業を通してより多くの人に日本酒に触れてほしい」と話す。日本酒はライスワインと呼ばれるだけあり、ワインと非常に似ている。その洗練された味わいの背景には、素材であるブドウや米を育むテロワール(土壌)とその土地に根付き長年の歴史を持つ造り手の存在という共通点があるからだ。それらなしでは、味わい深いワインも日本酒も作ることはできない。

現在、「七賢」は25カ国に輸出しており、輸出売上高は全体の10%。ゆくゆくはその割合が50% になるだろうという予測だ。北原社長は、「酒の材料は米。日本の田畑、そして酒造りの文化を守るためにも日本酒の輸出拡大が必要だ。日本国内においても、日本酒を正月や祝いの席だけでなく、日常的に楽しんでもらえる提案をしていきたい」と意気込む。

”エクスプレッション2012"世界限定2000本、価格は2万2000円。8月20日から全国の百貨店や専門店、「七賢」のECなどで販売する。

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