PROFILE: 左から、ケネス・タイ / ELCジャパン「ジョー マローン ロンドン」ブランドGM、与那嶺あや / ELCジャパン「ジョー マローン ロンドン」エデュケーション マネージャー

英国発「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」(以下、ジョー マローン)」は香りに興味がある人なら誰もが知るニッチフレグランスの代表格だ。同ブランドはイギリスで1994年に誕生。厳選された香料から作られるシンプルでエレガントなコロンは大ヒットし、1999年にエスティ ローダーの傘下に入った。2008年に日本に上陸し、ニッチフレグランス市場を広げ、現在、直営店7店、百貨店に52店舗を展開するメガニッチブランドへ成長した。香りへのこだわりはもちろん、マーケティングから顧客体験まで、「ジョー マローン」の戦略は緻密で立体的だ。昨年ごろから各社が注力しているプレミアム価格帯の“コロン インテンス”の商況も予想以上。ELCジャパンのケネス・タイ「ジョー マローン」ブランド ジェネラル マネージャー(GM)と同社の与那嶺あや「ジョー マローン」エデュケーション マネージャーに、絶好調の理由を聞いた。
市場の成長と戦略がマッチした“コロン インテンス”
「ジョー マローン」の商品展開は、日々の生活に取り入れやすいコロンが中心だ。“コロン インテンス“が登場したのは2012年。タイGMは、「“コロン インテンス”は、オードパルファムが主流の中東市場向けに開発された。限定品だった“ダーク アンバー&ジンジャー リリー(以下、ダーク アンバー)”がきっかけで、中東の貴重な原料をインスピレーション源にしたコレクションが誕生。それが、世界各地の希少原料を使用したラインに発展した」と話す。ブランドにとって初の“パフューム”である同ラインでは、ナミビア砂漠のミルラやマダガスカルのベチバーなどが使用されている。与那嶺マネ-ジャーは、「世界中を香りで旅するコンセプトで、よりラグジュアリーな消費者に向けたライン。ブランド特有の透明感を生かしつつ、神秘的で複雑、持続性のある香りだ」と話す。
誕生してから10年が経過。全世界でフレグランス市場が盛り上がり23年には、パッケージをリニューアルした。タイGMは、「“コロン インテンス”は、想像以上に成長が早かった。よりラグジュアリーになったリニューアル後は、毎年2ケタ増。昨年7月〜今年6月の売上高は前年同期比66%増だ。マーケティングもしたが、狙った以上に伸長している」と話す。日本市場と濃く、価格が高い香水はあまり親和性がなかったが、市場が急速に成熟した。「フローラルが主流だったのが、ウッディやグルマンを求めるようになり、消費者の嗜好が多様化した。“コロン インテンス”はそれにマッチする商材だ」と与那嶺マネージャー。10年以上前に中東向けに発売した“コロン インテンス”が、世界的なフレグランス市場の盛り上がりから、より幅広い層から支持されるようになった。
キャンペーンによる成熟男性市場への訴求が奏功
「ジョー マローン」では、年間を通してポップアップショップやイベントを行っている。タイGMは、「直近5年間で売上高が2倍以上になり、ターゲット別にコミュニケーションできるようになった。ヒーロー商品のキャンペーンやホリデーイベントなどにより、若年層の顧客が増えているが、30代以上の男性は厳しい。香りに興味はあっても、若年層のように積極的に店頭に行かない」と話す。そこで同ブランドは昨年、“コロン インテンス”の“サイプレス&グレープバイン(以下、サイプレス)”のアンバサダーに英国人俳優のトム・ハーディ(Tom Hardy)を起用。多くのブランドがジェンダーレスなイメージを発信する中で、渋く気骨のあるハーディのイメージを前面に押し出した。“サイプレス”は、ウッディで清涼感がありオン・オフで使いやすい香り。同GMは、「女性の顧客が多い。ビジネスを拡大する上で男性市場も重要だ。ハーディ起用は、香水とあまり接点がない30~40代男性への訴求が目的だった。キャンペーンがきっかけで男性客が増えている」と言う。“サイプレス”の売上高は同2.5倍以上と絶好調。売上高の男女比率は平均すると男性3割、女性7割だが、“サイプレス”では半々だという。
“サイプレス”以外の売れ筋は、同ライン誕生のきっかけになった“ダーク アンバー”。日本の香道を着想源にした香りの奥ゆかしい華やかさのある香りが人気だ。「“コロン インテンス”は伸び代があるので、“サイプレス”と“ダークアンバー”という2つのヒーロー商品を軸に市場拡大する」と同GM。また、キャンドルやボディースプレーなど商品カテゴリーを増やすことで、用途や価格帯の幅を広げている。
ビスポークサービスや店頭体験で香りの楽しみを伝授
最近、各社がプレミアム戦略の一環として強化している香りのレイヤーリングも「ジョー マローン」が長年提唱してきたことだ。与那嶺マネージャーは、「ブランドの根幹にあるのが“ビスポーク”。レイヤーリングにより無限のカスタマイズが可能だ。香りの選び方や着け方はもちろん、活用方法のレイヤーリングまで提案する」と話す。同じ香りは“飽きる”と思われがちだが、季節や気分によってレイヤーリングで違う楽しみ方ができるという。「店頭で時間があってもなくても、何かしら新しい発見や驚きを提供したい」と同マネージャー。レイヤーリングは、1種類だけでなく複数の香りの購入を促すマーケティング施策のようにも思えるが、「ジョー マローン」では香りを楽しむサービスの根幹として重要な役割を担っている。
原宿旗艦店は、香りを嗅いで、比べて、選ぶだけの店舗ではない。さまざまな仕掛けが随所に施されている。ブランドのルーツであるイギリスをはじめ、香りの原料やストーリーを視覚、聴覚も含めて楽しめる体験型の店舗だ。タイGMは、「フレグランスはエモーショナルなもの。香りを通してどのような感情を描くのか、空間や映像、さまざまな方法で手助けできる店舗になっている。来店者には、一度は、『ワオ!』と驚いてほしい」と話す。サービスや店頭体験においても、幅広い層にアピールする気配りを感じる。
フレグランス市場の拡大もあるが、「ジョー マローン」が “メガニッチ”に成長したのは、商品展開からマーケティング、店頭体験、サービス全てにおいて、あらゆる層に向けてタッチポイントを作り訴求する綿密な戦略にあるようだ。