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特集 メンズ・コレクション26年春夏

【2026年春夏メンズコレ日記Vol.1】 熱中症とトイレのジレンマを乗り越え、“ちゃんと届く服”の価値に気付く

 

2026年春夏のメンズ・ファッション・ウイークがスタート。久々にメンズコレサーキットに舞い戻った編集長・村上と、初参戦のヘッドリポーター・本橋が、ヨーロッパを覆う熱波に負けないアツいリポートをお届けします!今回はミラノ1日目。

村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):いやー、初日から暑かったね。なかなかの灼熱地獄でした。
 
本橋涼介「WWDJAPAN」ヘッドリポーター(以下、本橋):日差しすごすぎですね。熱中症対策で水分は摂りたいけど、今度はトイレ問題が……。街中に、本当に全然トイレがなくて驚いています。
 
村上:スケジュールと睨めっこしながら、「どこでトイレに行くか?」を」考えなくちゃね。「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」や「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」のトイレは安心なんだけど、今日は訪れたことのない会場ばかりで、トイレ事情がわからない(笑)。

「セッチュウ」

本橋:水分の摂取と排出のバランス感覚(?)に四苦八苦する中、ミラノ一発目のショー「セッチュウ(SETCHU)」がスタート。我々の悩みよりはるかの高尚な、服づくりにおけるバランス感覚という意味では、桑田悟史デザイナーが新機軸を見せてくれたと思います。

村上:ちゃんとコレクションを見るのは初めてだったんですが、ストイックなほどに静謐なカンジは一切なく、むしろプレイフル。勝手に懸念していた“気難しさ”は皆無で、直感的に楽しめました。
 
本橋:“巻く”“運ぶ”“結ぶ”といった動作を誘発する構造が多くて、和装やスポーツ、ミリタリーが溶け合っていた印象です。
 
村上:直感的なスタイリングや、それが成立する緻密なパターンワークは、「海外に出ると、必ず現地の人たちと手を動かす」と言っていた桑田デザイナーの感覚ならではなのかも。モノ作りの楽しさで既成概念を超越しつつ、その経験が緻密な洋服作りに生きている、そんな印象でした。

淡い虹色のストライプは、アフリカのジンバブエを訪れた時のビクトリア・フォールズの風景が着想源。瀑布ならではの水飛沫で淡く霞んだ虹の表現だそう。レインボーのストライプにチュール素材を重ねて表現しました。日本とイタリアのみならず、これからは世界を「セッチュウ」するんだね。ピッティ・イマージネ・ウオモでは「最初で最後のショー」って言ってたけれど、しれっとミラノでやってくれたね。観れてよかった。
 
本橋:また見たいと思わせるショーでした。削ぎ落としと構築の両方に向き合っていて、「服としてどう届くか」を真剣に考えてるのが伝わってきました。

「ジェントルモンスター」

村上:ちなみに、その前は「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」のプレゼンテーションに行きましたね。会場は、ミラノの名物セレクトの「ディエチ コルソ コモ(10 CORSO COMO)」。今年店内に本格オープンしたインショップで、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」とのコラボラインなどを展示・販売しています。東京・青山の店舗にもある巨大な顔型のロボット“ジャイアントヘッド”は、ミラノにも3体設置しています。私、いつも行列している青山店には入ったことがないので、ミラノで先に“ジャイアントヘッド”と相対してしまいました(笑)。

本橋:新作は、テンプルを折り曲げるとコンパクトサイズになる“フォールド”というライン。チャームとしても使えるレザーケースに収納できます。こういう見せ方、やっぱり上手いですよね。

「MSGM」

本橋:「MSGM」のプレゼンテーション会場にはBMXが置かれ、グラフィックT、風景柄シャツ、ナンバリングニット、ショートパンツなど、“サイクルファッション”を軸にした構成でした。
 
村上:カルチャーと繋がるブランドは今シーズン、自転車なんだね。アクティブで「MSGM」っぽいとは思うけれど、サイクルファッション以外のコレクションは、少し物足りなかったかな。

本橋: 確かに今っぽいし、タイダイ調のシャツやクロップドのパーカなどは「MSGM」らしいけれど、“今も欲しいと思えるアプデ感”は見えづらかったですね。
 
村上:私は大好きだけど、もっと若い世代におけるメンズトレンドって、「MSGM」とはちょっと違う印象があります。別にそちらに寄せる必要はないけれど、一方で長らくのファンは「もう持っているもの」で代用できちゃうし、台頭する上質素材で作った普遍性の高いブランドの間で埋もれていってしまいそうな危機感を覚えます。
 

「フィオ ルッチ」

本橋:そういう意味では、 「フィオルッチ(FIORUCCI)」も少し似た印象でした。
 
村上:フェイクレザーのチュールスカート、超コンパクトトップスにトリプルヘムのワイドジーンズ、スケスケ素材のベスト。ショーは見られなかったけど、Y2Kに寄せている感じだね。
 
本橋:そうなんです。ただ「フィオルッチ」って“かわいい”だけじゃなく、“毒っぽさ”とか“反骨のポップ”が持ち味だったはず。そこをもっと攻めてもよかったと思います。途中からスマホをいじり始める観客もいて、ショーとしての没入感も足りていなかったかもしれません。
 
村上:SNSを見て、「モデルの体に洋服を描いているヒマがあったら、作ろうよ!」って思っちゃいました(笑)。

「C.P.カンパニー」

村上:一方の私は、「C.P. カンパニー(C.P. COMPANY)」へ。今シーズンはマリンを意識し、藍色っぽいブルーのボーダーTシャツなどを提案。ガーメントダイのブルゾンやフーディは、ミントグリーンやスカイブルーなど。淡いパステルカラー新鮮です。もちろん藍を思わせる深いブルーもキーカラー。天然繊維と化学繊維で異なる染まり方の双方が楽しめるゴーグルブルゾンは、ウンチク大好きなメンズの心に刺さること間違いなし!って感じです。

「ラルフ ローレン パープル レーベル」

村上:そのあとは、「ラルフ ローレン パープル レーベル(RALPH LAUREN PURPLE LABEL)」のプレゼンへ。良い意味で「割り切った」ってカンジのコレクションでした。以前は「ラルフ ローレン ブラック レーベル(RALPH LAUREN BLACK LABEL)」とか「RLX」を思わせるモードなパートもありましたが、マリンとサファリのテイストが漂うデイウエアとイブニングにフォーカス。シルエットを少しコンテンポラリーなリラックスシルエットに改めつつ、リネンなどの素材を交えながら上品にまとめました。サファリなら生成り、マリンならネイビーやピュアホワイトとリネンは多彩な表情を見せ、いずれも清潔感たっぷり。結局「ラルフ ローレン」に求めるものは、こういうコトですよねぇ。

「PDF」

本橋:「PDF」は、色んな意味で別次元でした。
 
村上:それ、褒めてる?

 本橋:はい。“らしさ”を貫くという点においては、圧倒的でした。ローライズのチェックパンツ、ゴリゴリのレザーアウター、ロザリオのベルトに重たいレザーブーツ。そんなギャングモデルたちが冒頭、フェンスの中から発煙筒を焚いて脱走。モデルたちはランウエイウオークを終えるとその辺にたむろし、タバコをふかし、カメラを睨みつけてくる。前方にいたんですが、身の危険を感じました(笑)。
 
村上:前回は会場がシンナーまみれだったらしいけど、今年もぶっ飛んでるね。
 
本橋:金チェーン、ネックレスの重ね付け、ローライズのボトムス。すべてが過剰。でもそれを真正面からやりきることで、中性的でおとなしい今の男性像に対する強烈なカウンターになっていたようにも思いました。特に日本では、昨今の社会的な空気もあって、“大人の男性像”がどんどんおとなしく、中性的になってきています。発言や表現に慎重さが求められる場面も増えている中で、あそこまでテストステロン全開で“男らしさ”をぶつけてくるスタイルは、逆に今っぽく見えてきたりもします。
 

 
本橋:ちなみに「PDF」の前、近くのピザ屋に入ったら全然出てこなくて、結局テイクアウトにしてダッシュ。到着したら、受付で「ここではウーバーしてないよ」って笑われました。
 
村上:ともかく、間に合ってよかったね......。
 
本橋: でもちょっと思ったんです。「MSGM」や「フィオルッチ」は、“それっぽさ”はあるけど、「誰に届けたいか」が曖昧だった。一方「PDF」は“届ける相手”を選ぶけど、確実に刺さる。服もウーバーも、“ちゃんと届く”ことが今の時代、大事なんだなって思います。
 
村上:なんか、うまいこと言ったカンジでまとめましたね(笑)。

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