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百貨店の閉店の現場で感じた、未来につなぐべき客との絆

 大型ショッピングセンター(SC)やネット通販(EC)に客を奪われ、郊外・地方では百貨店の閉店ドミノが続いている。1990年の開店当初はドラマ「デパート!夏物語」の舞台として話題となった伊勢丹相模原店(神奈川県)も地域唯一の百貨店として29年続いたが、9月30日閉店した。

 この日の開店時刻の10時、店を訪れると1500人超の行列ができていた。シニア客でにぎわう店内は、ワゴンセールに女性客たちが殺到し、まだまだ地元民から愛されていることを示す盛り上がりを見せていた。

 店の入り口付近に目を向けると、備え付けのベンチが4脚。買い物を終えた家族が談笑を楽しんだり、地域住民同士が交流したりする、ちょっとしたハブのような場所になっていた。この日もベンチは満席で、腰掛けていた70歳の女性は「開店以来、おしゃれをしてここに来るのが楽しみだった。隣に座る人も、大体が顔見知りになったよ」と楽しそうに話したが、「でも、それも今日で終わり」と寂しそうにぽつり。「最近は買い物をあまりしなくなったけど、ついつい毎日来ちゃう場所だった」。

 現在の60~70代は、団塊の世代(70~72歳)を中心に、アイビーブームやDCブームを通過したファッション消費の醍醐味を知る世代。年齢を重ねて消費意欲が衰えたとはいえ、百貨店の熱烈なファンが多いことは間違いない。彼らはこれまで子を連れ孫を連れ、一緒に買い物を楽しむことで、新たな百貨店ファンを作ってきた伝道師でもある。

 この女性は「娘と毎週のように買い物に来ていたし、孫には高校入学用に、制服を一式そろえてあげた」と思い出話もしてくれた。店内を見渡せば、親・子・孫の3世代で買い物を楽しむ家族も多く見られた。腰の曲がった祖母に父母と孫娘が連れ添う家族に、エスカレーターで何度かすれ違った。近隣の大学に通う友人同士で訪れた20代女性2人は、「幼いころに両親や祖父母につれてきてもらった。今でもたまに買い物に来ていたが、閉店は寂しい」と惜しんだ。

 思い返せば、記者自身のファッション消費の原体験も、幼い頃に親に連れて行ってもらった地元の百貨店だった。記者は百貨店の勢いがピークを迎えていた1991年の生まれで、幼少期は百貨店で買いそろえてもらった「ポロ ラルフローレン(POLO RALPH LAUREN)」の服で小学校に通った。大学入学の際も、就職の際も百貨店で財布を買い替えた。「とっておきの買い物は、やっぱり百貨店」。日本人に染み付いているこの感覚を、ファンたちが世代を超えて受け継いできたからこそ、今の百貨店があるのだろう。

 地方の百貨店には新しい風も吹いている。ストライプインターナショナルはこのほど、地方百貨店のEC運営を代行するサービス「ダース」をスタートした。利用者は、親しみのある百貨店の屋号を冠したECサイトで買い物を楽しむことができ、百貨店側には売り上げに応じた手数料が入る仕組みだ。

 相模原店で19時に始まった閉店セレモニーは多くのファンが見守り、出入り口付近はごった返した。セレモニーは数分で終了。「もう終わり?」「もっと店の明かりを見ていたかった」という声が聞こえてきた。地元住民と百貨店の絆は、百貨店で働く人たち自身が思っている以上に深いのかもしれない。絆を失うことは、未来のファンの芽を潰してしまうことにもなる。大事なのは、これまで作ってきた客とのつながりを絶やさぬこと。百貨店の既存の仕組みだけでなく、外側の力も借りながら、その手立てを考えてほしい。