ファッション
連載 アナタの疑問にNYから答えます

「ビューティのトレンドはどうおさえるの?」 アナタの疑問にNYから答えます バックステージ編 Vol.2

 2020年春夏ウィメンズ・ファッション・ウイーク開幕を前に、インスタグラムで皆さんにコレクションに関する疑問を募集しました。そんな皆さんの疑問にお答えすべく、ニューヨーク・コレクション取材班が現地の写真を交えながら分かりやすく解説しようと思います!先日「WWD JAPAN.com」編集長が答えた「ファッションショーに入るには?」に続き、ビューティ編集部の記者は主にバックステージにまつわるお話をしようと思います。公開されておらず謎に包まれているバックステージの裏話や、行った人しか知らない本場の様子をお届けします!

 まず、「『WWD』はビューティトレンドをどうおさえるのか?」というご質問から簡単にお話しします。この質問は、私たちの取材の根本でもありますが、トレンドはヘアメイクさんの言葉だけではなく、本当にいろんなところから引用しているんです。会場の雰囲気だったり、バックステージに置いてあるプロダクトだったり、もちろん洋服からだったり、毎日色々な所に注目しています。

 そもそも、「バックステージの取材って具体的に何をするの?どういうスケジュールなの?」と思いませんか?私もビューティ記者になる前は、バックステージについてはヘアメイクの写真や動画しか見たことがなく、ナゾの場所でした。サクッと説明すると、メディアのコールタイム(取材のために呼び出される時間)は、だいたいショーの2〜3時間前です。ヘアメイクさんやモデルはさらに早く、4〜5時間前には会場入りするのが一般的。まずはチェックインするのですが、バックステージに入れるメディアやインフルエンサーはショー以上に少ないので、名前がリストにないと絶対に入れてもらえません。さらにバックステージは入れるエリアと撮影できるエリアが分かれていて、例えばヘアメイクの撮影と、ショー開始直前の洋服着た状態のモデルの撮影には違う許可が必要。それもまた厳しく管理されていて、私たちはスタッフから常に監視されています(笑)。

 パスを受け取って会場に入ったら、まず見るのがメイクアップのフェイスチャート(メイクを紙に起こしたもの)とヘアのサンプル写真です。そこで大まかにどんなヘアメイクをするのか把握した上で、以降はとにかく現場のヘアメイクさんの作業をみて、撮影して、使っている製品やテクニックを観察します。製品は色だけでなく、テクスチャー(クリーム、パウダー、リキッド、はたまたその間など)やブランド、ツール(メイクだったらブラシやスポンジ、ヘアだったらアイロンやヘアピンなど)、重ね方などを細かくチェックします。そうすると自然と「なんでマットなリップにしたんだろう?なんでクリームチークではなく、リップをチークに使ったんだろう?」など、さまざまな疑問が浮かぶのです。

 そこで隙を狙って(笑)、ヘアメイクそれぞれのリードアーティストに話を聞きに行きます。皆さんとにかく忙しく、私たちは仕事を邪魔してはならないので、タイミングを見計らうのがとても大切です!リードを務めるのはパット・マクグラス (Pat McGrath)やダイアン・ケンダル(Diane Kendal)、グイド・パラウ(Guido Palau)ら、だいたい業界の大御所ですね。そして改めて用意してきた質問に加え、メイクのコンセプト、使った製品、先ほど思い浮かんだ質問を聞くと、そのコレクションのコンセプトや全体のトレンドなどが少しずつ見えてくるのです。アーティストには必ずヘアメイクのポイントだけでなく、デザイナーからの要望や彼らとの会話についても聞くようにしています。なぜならコレクションはあくまでも洋服が主役で、ヘアメイクは洋服のコンセプトに合わせて作っているからです。ファッションありきの、ビューティなんです。だからビューティトレンドをおさえるには、そもそもファッショントレンドを理解していないといけません。バックステージにはルックの写真が一覧になっているボードが置いてあります。それも必ずチェックし、なるべくショーも見るようにしています。例えばスポーティなテイストの洋服が多かった時は、ヘアメイクも必然的にヘルシーでアクティブなものが頻出したように、2つは密接にリンクしているのです。

「トリー バーチ」2020年春夏コレクションのメイクについて説明するメイクアップアーティストのダイアン・ケンダル

 また、バックステージにはトレンドのヒントが色々転がっています。例えば今季の「セルフ-ポートレート(SELF PORTRAIT)」のバックステージは、普段はヘア、メイク、ドレッシング(着替え)の部屋に分かれていますが、今回はさらにスキンケア専用の部屋を設けていました。LED美顔器やフェイスマスクなどを持ち込み、モデルの肌を丁寧に仕込んでいました。近年のヘルシースキンといいトレンドを反映しています。かつてバックステージのメイクといえば、シミやソバカスなんて一つも残さない完璧なフルカバーが多かったのですが、最近は素肌を生かすナチュラルでリアルなメイクが主流。「もうファンデーションも使わない!」というブランドだって結構あります。スキンケアブームは全世界的で、ビューティ各社の決算でもスキンケア事業が伸びています。フィットネスやウエルネスブームの中、肌もケアしようという意識が高まっているのです。バックステージでは、こんなトレンドも感じることができるのです。

 さらにはバックステージに置いてあるケータリングからもトレンドを感じることがあります!例えば「スポーツ」「ストリート」「アクティブ」といったファッションキーワードが浮上した数シーズン前、「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」のバックステージではフルーツや野菜をコールドプレスジュースにしてくれました。「ガブリエラ・ハースト(GABRIELA HEARST)」は、ヘルシーな料理ばかりでした。ケータリングも健康的だったんです。今季は、「ラグ & ボーン(RAG AND BONE)」がバックステージにCBD入りのドリンクを用意。今、特にアメリカで大ブーム中のCBD(ビューティ本紙でも何度か取り上げている、大麻を含む麻に含まれる有効成分です)がここにまで来たのか!と思ったくらいです。多忙な生活を送り、心身ともに疲れている現代人。メディテーションやヨガなどが流行るのは、体だけでなく精神も落ち着かせたいという思いがあるからです。それは服にも現れ、先シーズンはスーツでありながらゆったりとしたシルエットだったり、柔らかな素材で気を張らない、リラックスしたムード全開でした。ビューティに置き換えると、 “ヘルシー”とされるオーガニック・サステイナブルブランドをみる機会が増えました。

 今社会で起きていることや現代人が思っていること・ニーズなどは洋服に反映され、ビューティにも伝わり、結果、バックステージでもヘアメイク以外でちょっとしたヒントが発見できるのです。

 以上、少々長くなってしまいましたが、簡単にトレンドの見出しかたについて説明してみました。皆さんもコレクションのランウエイを見るだけでなく、ヘアメイクの写真だったり、ヘアメイクさんがSNSであげている動画だったり、さらには来場者のスナップなど意外なところからトレンドを見つけてみてはいかがでしょうか?

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