ファッション

ファッションと時計 それぞれの業界から学ぶこと

 時計がファッションより優れているのは、その“嗅覚”だ。今年は「値ごろ」「お買い得」という言葉を何度も聞き、例えば1000万円オーバーが当たり前だったハイコンプリケーション時計の価格破壊、素材変えや素材を生み出す技術の進化で手に入れた価格改定、手薄になった低・中価格帯ゾーンへの新商品の投入などが相次いでいる。取材する時計ブランドの多くは、1本の時計を生み出すのに機構はもちろん、そのパーツから開発・改良を重ねている。誕生までには数年を要することも多く、本来ならスピード感はファッションより劣るハズだ。なのに現在の円高や株安、インバウンドの減速に伴う景気の停滞についての対策は、現段階においては時計ブランドの方が一枚上手だ。時計業界の“嗅覚”の鋭さは、どこから来るのだろうか?こんな質問を投げかけてみると関係者の多くは、スイスとその周辺という極めて小さなエリアで芽生え大きくなった時計業界には、元来、国際情勢に敏感な気質が備わっていると話す。また、高額品の取り扱いが多いからこそ、世界を股に掛けるエグゼクティブとのコミュニケーションが頻繁で、それもまた、“嗅覚”を磨く一助らしい。

 また、一般的にはシリーズ、ラインと呼ばれる、商品ラインアップの築き方も時計業界の方が勝っている。一つのシリーズ、もしくはラインに莫大な手間と時間、コストを費やしているだけあって、時計ブランドは常に、「シリーズの充実には、今、何が必要か?」や「この商品は今、ラインにとって本当に必要か?」などを日々考えている。売れ筋を追うあまりライン同士が近づき、その差異が見えづらくなるという、ファッション業界にありがちな“落とし穴”にハマっているブランドは少ない。

 一方、ファッションの方が優れているのは、やはりイメージの作り方だ。目の前の小さなパーツとそれを組み合わせた機構、そして、大きくてもせいぜい直径4cmのケースなどにとらわれてしまうのだろう。時計業界の“落とし穴”は、「木を見て森を見ず」的な感覚で、性能は最高なのにイメージやエモーションを抱きづらかったり、 そんな感情とプロモーションが乖離していたりのケースを目にすることは多い。また、ファッション業界以上のパワーゲームも深刻だ。今回“コンテンポラリー・ウオッチ”の可能性について取材した中で、ある業界人は、「難しい。10年足らずで急激に大きくなった日本の時計業界は、売れるブランドと売る小売店の力が巨大になり過ぎて、彼らと付き合い続けることばかり考えているから」と警鐘を鳴らした。確かに、特に高級時計の世界は限られた強豪のシェアが非常に高く、彼らの意向がマーケット全体を大きく左右している。ファッションの世界のように選択肢が広がらなければ、時計業界は新客が増えず、今以上に狭い世界になってしまうであろう危機感は、時計担当になって以来強い。時計の前には、バッグやビューティなどを担当してきた。

 「近いようで、遠い」二つの世界のクロスオーバーが大きなパワーを生みそうな気配は、ビューティ担当記者だったときも常に感じていた。時計とファッション、ビューティとファッション、インテリアとファッション、フードとファッションなど、われわれの周りには「近いようで、遠い」業界がまだまだたくさん存在する。それらがクロスオーバーすれば、それぞれの世界は、より楽しくなるに違いない。時計を取材するたびに、時計業界人が憧れるファッションの世界には、大きな可能性がまだまだ残されていると強く思う。

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