
カンペールジャパンがこのほど、Bコープ認証を取得した。スコアは81点。内訳はガバナンス7.7点、従業員22.7点、コミュニティ8.9点、環境39.7点、顧客1.7点だった。スペイン本社は2022年に先んじてBコープ認証を取得し、現在のスコアは97.8点。グローバル本社が認証を取得しても日本法人が取得するケースは多くはない。日本法人はなぜ独自に取得を目指したのか。そして81点という結果から、どのような強みと課題が見えてきたのか。坂下修社長に、取得までの経緯と今後について聞いた。
なぜ日本法人もBコープを取得したのか
マヨルカ島で知った「単なる靴ブランドではない」カンペール
――Bコープ取得するに至った理由は?
坂下修社長(以下、坂下):カンペールは単なる靴ブランドではなく、環境や地域社会との関係まで考えている企業で、その背景には明確な思想がある。正直に言うと、拠点のスペイン・マヨルカ島を訪れるまでは、私自身も店舗で商品を販売することが仕事の中心だった。でも、マヨルカ島で彼らの取り組みを目の当たりにし、その姿勢に衝撃を受けた。この経験から、日本でもできる限り本国と同じ方向を向きたいと考えるようになった。
もちろん、マヨルカ島で取り組んでいることを、そのまま日本で実践できるわけではない。それでも、本国の考え方と足並みをそろえながら、日本でできることを可能な限り実践していきたい。それが、日本法人としてBコープ取得を目指した理由の一つだ。
もう一つ、後押ししたのが、本国の担当ディレクターの言葉だった。何気なく「Bコープってどうなの?」と尋ねたところ、「取得は非常に大変だったが、そのプロセスを通じて今後改善すべきことが可視化できた。Bコープは単なる認証制度ではなく、会社をこれからどうしていけばいいのかを示す道しるべなんだ」と返ってきた。
実際に取り組んでみると、その意味がよく分かった。Bコープの評価対象は環境だけではない。会社の方針や制度、従業員の労働環境、地域社会への貢献など幅広い領域に及ぶ。アセスメントを進めることで、自分たちができていることだけでなく、これまで見えていなかった課題も具体的に可視化された。
――スペイン本社は97.8点(初回は83点)、日本法人は81点だった。この約17点の差をどのように捉えているか。日本法人特有の課題や、今後本国から取り入れたい仕組みはあるか。
坂下:Bコープは、小規模な企業の方が取得しやすい面があり、企業規模が大きくなるほど難易度も上がる。本国と日本法人では企業規模などによって評価カテゴリーも異なる可能性があるため、スコアを単純に比較することはできない。その前提でいうと、日本法人に足りなかったのは地域コミュニティへの貢献だ。
われわれのビジネスは、スペインのブランドを日本で販売することが基本的な成り立ちで、日本や東京といった地域に対してどのようなアクションを起こすかという点では、これまで十分に取り組めていなかった。例えば、寄付や地域貢献に関する項目ではほとんど点を取ることができず、ここは一つの反省点だ。
一方、本国はマヨルカ島に根ざした企業だ。例えば、売り上げの一部を地中海の再生・保護に取り組む団体「Save the Med」に寄付するほか、障害者支援団体エスメント(ESMENT)とパートナーシップを組むなど、地域に根ざした活動を続けている。コロナ禍には、障害者支援団体に社員食堂のスペースを開放したり、靴を寄付したりしたほか、アウトソールの試作などに使う3Dプリンターでフェイスガードを製作し、病院へ寄付した。自分たちが持つ設備やリソースを、地域のために活用してきた。
カンペールはファミリー企業でもあり、短期的な株主還元や費用対効果だけにとらわれず、地球や地域にとってより良いことに取り組む姿勢が非常に進んでいると感じる。その背景には、マヨルカ島という土地も大きく関係していると思う。
以前、本国の人から「島に暮らしていると、環境の変化をとても身近に感じる」と聞いたことがある。海への漂着物が変わったり、以前なら雪が残っていた時期に残らなくなったり、身近に生えている植物が変わったりする。そうした変化を日常の中で実感するという。「パリやロンドンにいたら気づかなかったかもしれない。でも、われわれは自然がすぐ目の前にある場所にいるから、その変化を身近に感じる。だから環境問題もわれわれにとってとても身近なものなんだ」と説明されて、なるほどと思った。カンペールが環境への取り組みを重視する背景には、自然との距離の近さがあるのだと思う。
また、カンペールはマヨルカ島の街づくりにも関わってきた。かつて1990年代頃に栄えたものの、その後衰退し、治安も悪化していたエリアを、創業者のロレンソ・フルーシャ(Lorenzo Fluxá、ミゲル・フルーシャ現CEOの父)がフルーシャファミリーの事業として、一角の7ブロックを買い取り、建築事務所とともに再生に取り組んだ。建物を7つの色に塗り分け、レストランやショップを誘致するなどして、夜にも明かりがともり、安全で人が集まる場所へと変えていった。その結果、次第に治安が改善し、エリアに再び活気が戻っていったという。
カンペールはマヨルカ島で、単に靴を作り、販売するだけではなく、地域との関係を築きながら、さまざまな課題に向き合ってきた。日本法人には、まだそうした地域との関係性が十分にない。今回のBコープのアセスメントによって、その違いが改めて見えた。
環境39.7点を支えた、循環型のものづくり
素材を替えるだけではない、「分解できる靴」の発想
――環境分野は39.7点と全体の約半分を占めている。具体的にどのような取り組みが評価されたのか。
坂下:カンペールは環境に配慮したものづくりを進めており、そこをしっかり評価していただけたのは大きかった。単に「環境配慮型の素材に切り替える」のではなく、分解や再資源化、修理を前提とした設計そのものをデザインに落とし込み、それを商品の新たな価値につなげている点が評価された。カンペールはサステナビリティをデザイン上の制約として捉えるのではなく、新しいデザインを生み出す起点とするアプローチを以前から進めている。
靴業界が抱える大きな課題の一つが、使用後の靴をどう再資源化するかだ。靴は歩行時に大きな力が加わるため、一般的には強力な接着剤を使ってさまざまな素材を接合している。簡単に剥がれない一方、使用後に素材ごとに分解することが難しく、日本では焼却、海外では埋め立てられるケースも多い。
そこでカンペールが取り組んでいるのが、製品を作る段階から、使用後の分解と再資源化を前提に設計することだ。日本ではまだ十分なリサイクル環境が整っていないが、「5年後、10年後にお客さまが履き終える頃には、分別やリサイクルの技術が進んでいるかもしれない。そのときに再資源化できるようにしておく」という考え方だ。
例えば「ロク(ROKU)」は、接着剤を使わず、6つのパーツを組み合わせた構造で、ユーザー自身でも分解できる。それぞれのパーツには単一素材を用いており、履き終えた後に素材ごとに分別することで、将来的な水平リサイクルにつなげることを想定している。
「ジャンクション(JUNCTION)」も、使用後に分解できるという基本的な考え方は同じ。面白いのは、同じデザイナーが同じコンセプトから発想しながら、「ロク」とは全く異なるデザインに落とし込んでいる点だ。パーツを360度ステッチで縫い合わせ、接着剤をほとんど使わない。仮止めに一部水のりを使用するものの、基本的にはステッチで接合しているため、使用後は糸を切ることでパーツごとに分解できる。レザーはレザー、それ以外はそれぞれの素材に分け、リサイクルにつなげることを想定している。すでにリサイクル素材を採用しているパーツも、さらに次のリサイクルへ回す考えだ。
シリコーン製のトゥキャップにも、同じ思想が反映されている。通常であれば、素材をディッピングすることで同様の意匠を表現する方法もあるが、それでは分解が難しくなる。そこで、あえて取り外し可能なトゥキャップとして設計した。キャップは単体でも販売しており、交換することでデザインを変えることができる。ほかのパーツも色を選んだり交換したりでき、すり減った場合にはその部分だけを取り替えて修理することも可能だ。
81点から見えた、日本法人の次の課題
「やっている」を可視化し、次の改善へ
――日本企画のバッグも、本国と同じレギュレーションやガイドラインに沿って開発している。今回、どのように評価されたか。
坂下:本国と同じ基準でものづくりをしていても、日本ではトレーサビリティーや計測の仕組みが十分に整っていない部分があり、バッグに関する一部の項目では評価につながらなかった。実際に取り組んでいることと、それをデータによって証明できることは別だということだ。
2017年からGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)やLWG(レザー・ワーキング・グループ)の認証を得た素材への切り替えを進め、また、素材だけでなく製造工程も含めて見直してきており、日本では先駆者だという自負はある。
――そもそも17年の時点で認証素材を国内で調達するのは難しかったのでは?
安蔵雅大プロダクトディビジョン・バッグMDチームマネジャー:当初は本国の担当者も「ステップ・バイ・ステップで進めていこう」と言ってくれていたので、まずは可能な範囲から対応していった。しかし、1シーズン、2シーズンと重ねるうちに、「基本的なレギュレーションはきちんと守ろう」という方針が明確になっていった。つまり、たとえデザインに制約が生じても、サステナビリティの基準を優先するということ。そうなると、当初は日本で使える素材が限られ、どうしても似たような素材が多くなってしまう。コレクションの奥行きやバリエーションが大きく失われたというのが正直なところだった。試行錯誤を続ける中で、すごく印象に残っているのが、リサイクル素材の選択肢が少しずつ増えていったことだ。それまで平織りしかなかったところに綾織の生地が登場したときは、「ついに綾織りが出てきた!」とうれしくなった。織物としてはごく基本的なバリエーションだが、それほど当初は使える素材の選択肢が限られていた。
Bコープを、経営を変える「道しるべ」に
――Bコープ認証取得で気づいた改善点でまず取り組むことは?
坂下:シューズでは評価されて得点につながった一方、バッグでは十分に評価されなかった。その大きな理由が、素材のトラッキングや計測だ。計測や追跡の仕組みを整備することで、今後さらに改善できる余地がある。今回のアセスメントを通じて、自分たちに何が足りないのかが具体的に見えたことは大きかった。例えば、サンプルを作る前、縫製する前の段階で素材の重量を一度計測してデータ化しておけば、その後の追跡にもつなげられる。そうした仕組みを整えていこうという話をちょうど今日もしていた。
もう一つ、今回の認証取得を通じて強く感じたのが、透明性や情報開示の重要性だ。アセスメントを受けてみると、「実際にはやっているけれど、明示していない」ということがとても多かった。自分たちにとってはごく当たり前にやっていることなので、わざわざ伝える必要もないと思っていた。でも、明文化されていなかったり、社外に公表していなかったりすると、取り組みとして評価されない。これからは、実際にやっていることをきちんと言葉にし、社外にも伝えていく必要があると感じている。
ただ、Bコープの評価が全てとは考えていない。大切なのは、本国と同じ方向を向きながら、地球や社会にとってより良いことがあれば実践していくこと。一方で、企業である以上、ビジネスとして成立させなければならない。環境や社会にとってより良い選択と、コストを含めた事業性とのバランスをどう取っていくか。そこが難しいところだ。