PROFILE: 又吉直樹/お笑い芸人・作家

ピースの又吉直樹は、2024年に立ち上げたアパレルブランド「水流舎(つるしゃ)」から第2弾としてジャージを制作した。東京と大阪で開催するポップアップストア「ジャージで来た」で限定販売する。ネイビーとボルドーの全2色をそろえ、ユニセックスの2サイズ(M、L)で展開する。価格はセットアップで4万4000円。なぜジャージを作ろうと思ったのか。サッカー少年時代から続くジャージ愛や制作のこだわり、「水流舎」が目指す服作りまでを聞いた。
「人が作った服」のありがたみを実感
WWD:第1弾で発売したパジャマについて反響はどうでしたか?
又吉直樹(以下、又吉):みんな面白がってくれましたね。東京も大阪もたくさんの人が来てくれて、並んで買ってくれました。パジャマなんですけど、私服として使ってくれる人が多かったです。
WWD:パジャマ作りを経験して、服を見る目や選び方に変化はありましたか?
又吉:人が作った服を着るときのありがたみが増しましたね。昔から、作り手の考え方が備わっている服が好きなんですが、服の背景がより気になるようになりましたし、丁寧に服を作っている人への共感も強くなりました。
サッカー少年時代から続くジャージ愛
WWD:ジャージを作ろうと思ったきっかけは何ですか?
又吉:子どもの頃からジャージが好きで、中学1年生くらいまではほぼずっとジャージで過ごしていました。大人になって着る機会は少し減りましたが、今でも20着くらい持っています。小学3年生から高校3年生までサッカーをやっていたんですが、当時着ていたジャージは思い入れが強過ぎて捨てられなくて、箱に入れて保管しています。たまに引っ張り出して着ることもあって、それも含めると20着以上ありますね。自分のファッションに欠かせないアイテムなので、こだわりを詰め込んだオリジナルのジャージを作りたいと思いました。
WWD:子どもの頃からジャージ選びにはこだわりがあったのですか?
又吉:小学生までは「サッカーをするときに着るもの」と捉えていましたが、その中でもどの色、どの形、どのブランドを買うかにはこだわっていました。「このジャージを着てるやつはサッカー下手な可能性が高い」「このジャージを着てるやつは絶対上手い」とか、プレースタイルが想像できたりするんですよね。だから何を選ぶか、どう着こなすかはすごく気にしていました。
中学生以降はサッカーで着るジャージも含めて、「ファッションと結びつけて着る」という感覚が芽生えました。ヨーロッパのチームには有名なデザイナーがユニホームを手掛けているところもあったりして。時代によってシルエットや柄にもトレンドがありましたし、ファッション文脈ともつながっているなというのを肌で感じていました。
WWD:中学生の頃はどのようなジャージを着ていましたか?
又吉:1990年代当時は裾にジッパーと絞りがついているジャージが多かったんですが、それが嫌だったので、70年代に多かったストレートシルエットのジャージを古着屋で選んで着ていました。サッカーのジャージというよりは、テニスのイメージが強いかもしれません。
WWD:ジャージの情報はどこから集めていたのですか?
又吉:当時読んでいた「サッカーダイジェスト」「サッカーマガジン」といった雑誌に、ジャージやユニホームの広告ページがあったんです。いろんなかっこいいジャージが並んでいて、それを見るのも好きでしたね。高いですし、手に入りづらかったのでなかなか買えなかったんですけど。サッカーショップに注文しに行って、1カ月くらい待ってやっと手に入る、みたいな感じでしたから。
「ジャージを着ていると、いろんなことが許される気がした」
WWD:ジャージにまつわる思い出はありますか?
又吉:高校1年生の正月に、海で初日の出を見ようと友だちを呼び出したんです。深夜1時くらいから自転車で大阪港へ向かったんですが、道に迷ってしまって。気付いたら4時間以上漕いでいて、「このままでは初日の出に間に合わへん!」と。みんなで全速力で自転車を漕いでいたら、コンビニでたむろしていた人たちに、自転車のスピードが速すぎて爆笑されました(笑)。そのときは「アディダス(ADIDAS)」の紺色のジャージ上下に、ダッフルコートを着て、キャップを被っていたのを覚えています。
WWD:ジャージならではの魅力はどんなところにあると思いますか?
又吉:今の時代は違うかもしれないんですけど、昔はジャージを着ているといろんなことが許されるというか、「こいつはちゃんとしてないやつや」って手っ取り早く説明できるみたいな感覚がありました。それが気楽だった時代もあるんですよね。
WWD:又吉さんにとってジャージとは、どのような存在ですか?
又吉:やっぱり「リラックスできる服」ですかね。「ファッションど真ん中」ではないと思うんですよね。でもその中にはすごくファッション性の高いものもあると思っています。スポーツ文化や音楽文化とも結びついていて、昔よりもジャージを着て行っていい場所は増えましたよね。
WWD:現在はどんなシチュエーションでジャージを着ますか?
又吉:行きつけの店に飲みに行くときとかに着ますね。仕事に行くときもジャージ率は高いです。緊張するので初めて行くバーや、少し高めの飲食店へは着て行かないと思います。ただ下はジャージを穿いていても、シャツやジャケットを合わせたら意外といけるかもしれませんね。
中学生の頃から好きだったストレートシルエットを採用
WWD:今回のジャージでこだわったポイントを教えてください。
又吉:まず形にこだわり、昔から好きだったストレートシルエットを採用しました。その上で、自分が持っている古着のジャージを着て散歩しながら、「ここがもう少しゆったりしていたらいいな」「こういう素材だったらいいな」などイメージを固めていきました。
素材は光沢感のあるベロアにしました。ジャージだけど少し緊張感が出るのが良いかなと思っています。もともと光沢感のある素材が好きで、ジャージに限らず見かけるとついつい欲しくなっちゃうんですよね。自分が好きな喫茶店のソファも、大体こういう素材だったりします。
WWD:サイドのラインについてはどうですか?
又吉:ジャージはサイドにラインが入っているイメージがありますが、1本にしようが2本にしようが誰かと被るなと思い、最後までラインを入れるかどうか悩んだんです。でも、やっぱり入れた方が個性が出るなと思って。
最初は、僕が好きなミュージシャンのボブ・マーリー(Bob Marley)をモチーフにしようと思ったんです。ボブ・マーリーもサッカーが好きだったという共通点もあり、彼の代表曲「No Woman, No Cry」のサビの音符をラインとしてあしらったらかっこいいんじゃないかと。でも、多分権利的に無理だろうと思って断念しました。その後、写真のフィルムみたいにするのが面白いんじゃないかと思い付いたんです。
WWD:フィルムのモチーフについて詳しく教えてください。
又吉:あるとき友だちと一緒にデジカメを買う機会があって、それから写真を撮るようになったんです。今回使った写真は全部自分で撮りました。今かけているメガネや散歩コース、自宅で漬けている梅酒のボトルなど、日常を切り取っています。ジャージになじむように、ボディーの色に合わせてフィルムの色も変えました。
WWD:ネイビーとボルドーの2色はどのように決めましたか?
又吉:色見本から自分が落ち着く色を選びました。普段は黒か紺色のジャージや、サイドのデザインで遊んでいるものを着ることが多いです。もっと赤みの強いボルドーや紫は昔よく着ていたんですが、今回のボルドーはその間くらいで、僕にとっては初めて挑戦するカラーかもしれません。
自分が着たいジャージを追求 次は“司法書士シャツ”⁈
WWD:今回のジャージはどのような人に着てほしいですか?
又吉:市場調査もしていないし、流行もつかめていないと思うんですけど(笑)。ただ自分が着たいジャージを作りました。たくさんの人に届くとは思っていませんが、面白がってくれる人がいたらうれしいですね。
WWD:又吉さんはどのようなコーディネートで着用する予定ですか?
又吉:セットアップで着たらこのままスタイルが決まりますが、それぞれ使うのもいいですね。普段の服に合わせるだけでも面白くなると思います。スポーティーに仕上げるというよりは、少し崩したり、あえて違うテイストの服と合わせたりして楽しみたいですね。
WWD:第1弾のパジャマは、“街着”としても着られるようにデザインしていました。第2弾のジャージも、リラックスタイムにもお出かけにも着られるという共通のコンセプトが見えます。
又吉:パジャマもジャージも、人を脱力させる服じゃないですか。“ダメ人間”を作るブランドを目指したらいいのかもしれないですね(笑)。
WWD:もし第3弾があるとしたら、どんなアイテムを作りたいですか?
又吉:今は開襟シャツに興味があります。72歳くらいの弁護士が、「それいつ買ったんですか?」みたいな渋い開襟シャツを着ていたりするじゃないですか。そういう人が着ている開襟シャツって仕立ても良くて、いらんことしてないというか。自分が作る意味は全くないし、「誰が買うねん」という感じなんですが(笑)。“ありそうでない”開襟シャツを作ってみたいですね。半袖の真っ白なもので、「司法書士シャツ」なんて名前にしてもいいかもしれません。
「神社の鳥居をくぐったときのような心地良さを服で表現したい」
WWD:服を選ぶ際に重視するポイントは何ですか?
又吉:必ずしも手作りである必要はないんですけど、その形になった理由や考え方が分かると、その服の魅力が増すような気がしますね。
WWD:服そのものだけでなく、その背景にも興味があるのですね。
又吉:古着屋でパッと見て、この形や色、雰囲気が好きだから買う、みたいなことも全然あるんですけどね。でも例えば絵を買うとなったら、誰が描いたのか、なぜ油絵なのか、なぜ水墨画なのかはやっぱり気になります。気に入ればもちろんそれでいいんですけど、その背景を知るとより面白くなる気がするんです。だから店員さんが説明してくれるときは興味を持って聞きますし、料理屋でも大将の話は結構長長く聞けます。
WWD:最近買った服はありますか?
又吉:「コウタ グシケン(KOTA GUSHIKEN)」の、ゴッホの刺しゅうのニットを買いました。ゴッホの油絵にある、絵の具をべったり重ねて混ざっているような歪んだ感じとか、縫いによって絵のタッチを表現しているところが面白いなと思います。
WWD:そうした価値観は、「水流舎」の服作りにもつながっているのでしょうか?
又吉:ファッションは、その服を着たときに背筋が伸びるみたいな、特別な自分になれたような気がする感覚も大好きなんですけど、自分は神社の鳥居やお寺の山門をくぐったときの「ああ気持ちええなあ」みたいな感覚になる服を作りたいですね。緊張を緩和して、居心地が良かったり、気持ちが楽になったりするような服。でも、完全に緩和するわけじゃない。着てくれる人に良いことがあればいいな、というイメージはずっと持っています。
ポップアップストア概要
■ポップアップストア「ジャージで来た」
日時:9月26日12:00〜16:00、27日11:00〜16:30
場所:ADRIFT
住所:東京都世田谷区北沢3-9-23
入場料:無料
■ポップアップストア「ジャージで来た」
日程:10月3〜4日
時間:12:00〜18:00
場所:espace202
住所:大阪府大阪市中央区南船場3-2-6 大阪農林会館ビル2階202号
入場料:無料