ビューティ

資生堂の研究トップに聞く、「美しさ」の捉え方【美の価値観—あなたの「美しさ」とは?】

PROFILE: (左)東條洋介(右)荒木秀文

(左)東條洋介(右)荒木秀文
PROFILE: (とうじょう・ようすけ)左 : 2002年に資生堂に入社。20年以上にわたり研究開発、研究開発戦略に携わる。その間、国内外大学の客員研究員、R&D戦略部長などを経て、23年にチーフテクノロジーオフィサー、26年より現職。  (あらき・ひでふみ)右 : 2000年に資生堂に入社。スキンケアカテゴリーの製品開発に従事する。各種プロジェクトマネジメント、MBA取得、R&D戦略部長、22年に資生堂中国 チーフイノベーションオフィサーを経て、26年1月より現職。PHOTO : TAMEKI OSHIRO

「美しさ」とは何か。多様な価値観が前提となる今、その言葉は一義的には捉えにくくなっている。本連載では、現代社会を生きるアーティストやクリエイター、美に関わる企業など、さまざまな立場の人に話を聞き、現代社会における「美しさ」の輪郭を探る。

第1回は、1872年の創業以来、日本の美をけん引してきた資生堂を取り上げる。同社で研究領域を率いる東條洋介 資生堂執行役 チーフオフィサー チーフイノベーションオフィサー グローバルテクノロジーオフィサーと、荒木秀文ディビジョンオフィサー グローバルブランド&プロダクトイノベーションオフィサーに話を聞いた。人と美の関係を見つめ続ける2人は今、「美しさ」をどう捉え、研究や製品開発にどう反映しているのか。

“美の民主化”が起きた今、
キーワードは「生活者との共創」

WWD:これまでご自身が携わってこられた研究や取り組みを振り返って、「美」や「美しさ」とはどのようなものであると捉えているか。

東條洋介 資生堂執行役 チーフオフィサー チーフイノベーションオフィサー グローバルテクノロジーオフィサー(以下、東條):私たち人間が、人間らしくあるために欠かせない要素だと考えています。それはつまり、人間そのものを研究し続けてきた、と言い換えられるかもしれません。

資生堂は、「肌」「身体」「心」という3つの要素から人間の美しさが成り立つ、という視点で、基礎研究から製品開発までを一貫して手がけてきました。それがより明確かつ具体的に解明される契機となったのが、1989年に皮膚科学の最先端研究を行う「CBRC(皮膚科学研究所/Cutaneous Biology Research Center)」との共同研究がスタートしたことです。人間の肌は、神経や免疫、血管などの働きと関連性がある、という、いわば東洋思想的な仮説を解明し、研究論文として発表できたことは、その後の製品研究開発の転換点になりました。

以後、40年近く経過した現在は、3つの柱でユニークな研究を続けています。客観的なエビデンスを丁寧に積み重ねていくライフサイエンス研究、心理学や人文学といった領域にも近しい、生活者の主観に向き合う感性科学の研究、そして最終的な製品へと仕上げていくマテリアルサイエンスの研究です。

エビデンスやデータといった客観的で左脳的な視点と、香りや使用感などの五感や感性といった主観的で右脳的な視点。双方を行き来しつつ、加速度的に進歩するデータサイエンスも反映させながら、「美」や「美しさ」の研究に取り組んでいますね。

WWD:現代は「美しさ」の価値観がより一層多様になっている。そういった変化と研究テーマや内容はリンクする?

東條:非常にリンクしています。なぜなら「美しさ」と向き合い、新たな価値やソリューションを提供しようと考えたとき、その答えは「生活者の皆さんが何を感じ、何を美しいと感じるのか」にしか存在しない、と言っても過言ではないからです。

「美しさ」とは、自分自身にどこまでもわがままで良いものであり、制約もなければ、誰かに強制されるものでもありません。自分が「美しい」と思ったその感性、感覚こそが唯一のものです。

ただ、インターネットの登場によって “美の民主化” が起きた今、情報の洪水の中で、何が正解なのかがわからない時代、とも言えます。だからこそ“「美しさ」の価値のよりどころは、あなたの中にある” というメッセージを大切に発信していますし、R&Dにおけるキーワードの1つが「生活者との共創」なのです。

横浜・みなとみらいエリアの研究開発拠点「資生堂グローバルイノベーションセンター(GIC)」内に「資生堂ビューティーパーク(Shiseido Beauty Park)」をオープン(25年1月)させたのも、その取り組みの一環です。例えば体験型のサービス「美の検診」は、お客様自身もまだ気づいていないような「美」や「美しさ」を一人一人に発見していただけるような、パーソナライズソリューションを提案しています。

「アートがなければビューティとは言えない」

荒木秀文 資生堂ディビジョンオフィサー グローバルブランド&プロダクトイノベーションオフィサー(以下、荒木):「資生堂ビューティーパーク」内にある、資生堂研究所のオープンイノベーションプログラム「フィボナ ラボ(fibona Lab)」のスペースでは、基礎研究から処方づくりまで、さまざまな担当分野の研究員が勤務しています。彼らは皆、「お客さまに喜んでいただけるものをつくりたい」という気持ちから、スペースでの勤務を希望していて、日々、お客さまと直接コミュニケーションをとり、研究に生かしていますね。

また、5月末に限定販売を開始したスキンケアアイテムは、共創型のオンラインコミュニティー「クラブ フィボナ (Club fibona)」のメンバーと共に、開発段階から準備してきました。今後は使ってみた方々からフィードバックを集め、次のステップへ生かしていきます。私は立ち上げのときから「フィボナ」に関わってきましたが、これからも「世の中にはない・共創・未完成」をテーマに、さまざまな検証を繰り返し、製品化へとつなげていく予定です。

生活者一人一人の「美」や「美しさ」が多様なものとなった今、研究開発のスタイルそのものも「サイエンスドリブン」と「コンシューマードリブン」の双方から、価値作りにつなげる取り組みへ大きく変わりつつあるタイミングだと考えています。

東條:加えて、パッケージデザインをはじめ、さまざまなビジュアル面を手掛けるクリエイティブのチームと、私たちのような研究開発を担当するチームが共創している、「アート アンド サイエンス」の体制であることも、私たち資生堂のユニークさと言えるでしょう。

化粧品の研究は、機能のみを突き詰めていってしまえば「薬で良いのでは?」となってしまいかねません。しかし生活者に届ける時、どんな言葉がそえられていたら魅力的に伝わるのか、どんな色やパッケージデザインをまとっていたら、私どもの考えが表現できるのか。そういったアートの要素が大切であり、それによって「美」や「美しさ」の新たな価値や体験も提案できているのでは、と考えています。

荒木:それに、つまるところ、アートがなければビューティと言えないのではないでしょうか。私たちが化粧品を使うとき、過去の自分と今の自分、他の誰かと自分を比較して、ネガティブなところやマイナスを補うような、“義務感に基づいた美容行動”になってしまうと、あまり楽しくないですよね。しかし、化粧品にアートの要素が加わっていたら、手に取って使うことが楽しみに感じられたり、自己表現や自己実現にワクワクしたり、と、心の充足感につながっていくはずです。

冒頭に東條が話していた、左脳と右脳、客観と主観を行き来しながら、という話にも重なりますが、私が担当する製品開発の領域においても、例えば使い心地を考えるとき、まずはテクスチャーの感触を右脳的な視点でとらえ、次にどのような力がかかっているかを左脳的な視点で考えます。最後に成分や処方でその感触を作り出す、というプロセスを経ています。

テクノロジーとサイエンス、「資生堂ビューティーパーク」や「フィボナ ラボ」のような生活者とのコミュニケーション、そしてアートの要素が欠かせないのは、資生堂ならでは、でしょう。「美」や「美しさ」、美しくなることをエンジョイするって、アートの要素がなければ生まれない世界観だと思いますし、私たちはビューティ・カンパニーですから、そういった価値や体験をこれからも提供していきたいですね。

WWD:これからの世の中や、生活者一人一人の暮らしなどにおいて、「美」や「美しさ」というものや価値観はどのように変化していくと考えるか。

荒木:そうですね、例えば「男性らしい」「女性らしい」って言葉は、今となっては本当に古い価値観ですよね。かつて資生堂では男性用化粧品を数多く展開していましたが、現在は製品を絞っています。そもそもどの化粧品もユニセックスといえばユニセックスですし、メイクもそうですし。

東條:ジェンダーのボーダーは本当に溶けていきつつありますよね。 そして「美」や「美しさ」をも内包して、心身ともに健康的に年齢を重ねていく「ウェルビーイング」という考え方は、これからさらに広がっていくだろうと思います。

荒木:近年は特に、医療やウェルネス、スキンケアの分野で「ロンジェビティ」という価値観も注目されています。加齢に抗うのではなく健康的な状態を保つ、単なる長寿ではなく、心身ともに健やかに自分らしく生きて「健康寿命」を伸ばす、という考え方ですね。

もっと言えば、外見へのこだわりや他者と比較するような価値観から、自分自身の心が満たされるかどうか、睡眠や食事や心身の安定、自分自身の内面の充足感を大切にするような価値観へと変化しつつありますよね。その延長線上に「美」や「美しさ」がある、と考える人が本当に増えていると感じています。

東條:人生100年時代がもっと当たり前になったら、「健康寿命」のさらに先、最後の最後まで人間らしく楽しく生きて、多様な「美」を謳歌する人が増えていったら素敵だな、と私は思っています。「一瞬も、一生も、美しく。」というビジョンスローガンを掲げているわたしたちとしても、そういう世界に寄与していける企業でありたいです。

最近、「美しさ」を感じた瞬間

荒木:初めて訪れた山形県鶴岡市で目にした風景

青い空と、延々に広がる田園風景。彼方に見えた出羽三山には雪が少し残っていて、本当に美しかったです。まるで内なるエネルギーが湧き上がってくるような、言葉では表現しきれないくらいに感動しました。これが「美しい」ってことなのかもしれません。

東條: 旅先の離島で目にしたやきもの

わたしも自然がもたらす造形や色彩に美しさを感じます。そして、島の目の前に広がっていた海を写しとったかのような、やきものの青色がとても美しいと思いました。購入して、自宅に飾っています。

マサ大竹(大竹政義)さんのヘアショー

日本を代表するヘア&メイクアップアーティストであり、資生堂美容技術専門学校の校長も務めていた大竹さんのヘアショーを拝見する機会があり、とっても感動しました。 ヘアメイクって、言葉の通りヘアをメイクしているのですが、モデルがまとうオーラや周囲の空気そのものを美しくしていて、素晴らしかったです。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

軽やかに解き放たれるメンズウエア 2027年春夏メンズ・コレクション特集Vol.2【WWDBEAUTY付録:世界のビューティ企業 売上高ランキング TOP100 2025年版】

記録的な熱波に見舞われた今季のメンズ・ファッション・ウイークは、価値観をアップデートする2つの意味での「解放」がキーワードになりました。1つは、堅苦しいイメージも強い伝統的なテーラードスタイルからの解放。もう1つは、「男はこうあるべき」という固定観念からの解放です。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」に象徴される、繊細さや…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。