お笑い芸人、起業家として知られるキングコング・西野亮廣氏が、ヘアサロン「ノラ(NORA)」を経営する広江一也氏とタッグを組み、新たなファッションブランド「ストレートエッジ(STRAIGHT EDGE)の立ち上げに参画した。4月上旬に行われた初めてのコレクションの裏側で、西野氏、広江氏両名に立ち上げに至った経緯やその思いを聞いた。
正直、「今アパレルを立ち上げるんだ」と思った
WWD:「ストレートエッジ」は広江氏が立ち上げ、西野氏が参画された流れと聞いているが、どのようなコミュニケーションからこのプロジェクトが生まれたのか?
広江一也氏(以下、広江):最初はおでん屋でしたね。そこで話をしたのがきっかけです。そもそも「ストレートエッジ」という言葉は、1980年初頭のパンクの概念で、ドラッグをやらない、快楽を目的とした性行為をしない、暴力を振るわないなど、ミニマルでナチュラルな思想なんです。パンクなのにそういう思想を持っているのが面白い。それを体現する存在は何かと議論したとき、「恐竜じゃないか」という話になりました。恐竜は快楽のために殺さず、ナチュラルに生きていて、でも時代を支配していた存在。なので、“恐竜がクリエイティブを務めるブランド”を生み出したいと思ったんです。そこで、西野さんが「バンドザウルス」という恐竜の被り物をしたバンドをプロデュースしていたことを思い出して、「これは声をかけるしかない」となり、一緒におでん屋に行き、企画を相談しました。
WWD: 西野さんはその話を最初に聞いたとき、どう感じた?
西野亮廣氏(以下、西野): 正直、「今アパレルを立ち上げるんだ」という印象でした。アパレルはすでに人気ブランドが確立し、勝負がついている領域だと思っていたので。でも、逆に今挑戦するのも面白いかな?と考えたりもした。僕は映画やミュージカルなど、いろいろなプロジェクトをやっていますが、結局すべては一緒に運営する“メンバー”なんです。戦略は外れることも多いけど、面白いメンバーが集まっていれば軌道修正できる。だから「どんな人がいるのか」を聞いたら、全員面白かったので、「これは張ったほうがいい」と思いました。
WWD:アパレルという厳しい市場に挑戦する点についてはどう考えたのか?
西野:映画と同じだと思うんですが、今はオリジナルIP(知的財産)が成立しにくい時代です。既存で人気があるものを作品化する以外のことから、みんな撤退している。でも「グーニーズ」みたいなオリジナル作品をまた見たいという思いがある。僕はそう思って「えんとつ町のプペル」を作ったんですが、アパレルも同じで「今そこ行くの?」という領域に挑戦するのは面白い。しかも既存のビジネスモデルではなく、新しい仕組みから作り直す必要がある。それを探すこと自体が面白いですね。
ブランドが認知されるまでのストーリーを形作る
WWD:西野さんの肩書きはCNO(チーフ・ナラティブ・オフィサー)となるが、ブランドにはどのように関わっているのか?
西野:ブランドが認知されるまでのストーリーや、ショーを形作っていくことですかね。基本的に「おしゃれ」だけでは人は集まらないと思っています。技術が高いということを見せつけても、それは究極、発表会でいい、ということになる。それよりも「おもろい」が重要。どれだけ技術が高くても、それだけでは見てもらえない。だから“面白さ”にフォーカスしようという話はしました。
広江:「ストレートエッジ」にはエンタメ、ヘアメイク、ファッションなど、異なる領域の人間が集まっています。今はSNSによって分断が進んでいますが、本来カルチャーはミックスされるもの。映画や音楽、ファッションが混ざり合う時代です。だからこそ、このチームは“アベンジャーズ”的で面白いと思っています。
WWD:今回のコレクションのテーマは「戦う服」。“戦う”とはどういう意味か?
広江:物理的な戦いではなく、今の時代のモヤっとした空気や、SNSのいいね数やフォロワー数を全てとする価値観に対して中指を立てることです。原意としてのストレートエッジが持つ、パンク精神ですね。
西野:戦うべきはプラットフォームの数字やアルゴリズムです。そこに支配されると、みんな同じ表現になってしまう。それとどう距離を取るかが重要です。
広江:デザインとしてのベースはミリタリーです。ユニホームや階級の象徴としての服の歴史を踏まえつつ、そこから自由になりたい。機能美を持ちながら、ストリートに落とし込む。ポケットや構造にも意味があります。
WWD:西野さん自身は、デザインへの関与はあるか?
西野:デザインには関与していません。見るのは「物語」や「ショーの見せ方」など、コンセプトとクリエイティブが合致しているかどうかです。クリエイティブ自体は“恐竜ジェノ”が率いるクリエイティブチームに任せています。恐竜は子どもたちや、大人にとっても“原初のアイドル”で、言語を超える存在。みんなが無条件に惹かれる強さがある。そこに可能性を感じています。
WWD:今回のコレクションは受注生産としているが、その理由は?
広江:廃棄を減らすなど環境への配慮です。「ノラ」はフィリピンにも店舗があるのですが、その近隣のスラム街などでヘアカットやメイク、シャンプーをするなどの社会貢献を行っています。「ストレートエッジ」も、余剰が出た場合は寄付する。ファッションやビューティ、エンタメの力で、子どもたちの未来を変えたいと思っています。
しっかりクリエイティブで殴り、最後に壊す
WWD:お笑い芸人、起業家、作家など多数の顔を持つ西野さんだが、今回はどの顔の西野亮廣としての色が強いか?
西野:演出家、ですね。ショーの演出に力を入れたい。ファッションショーをエンタメとして再構築したいです。既存のものはすでに先人がやっているので、そこにミュージカルを開催したことや、映画を作ったことで得た知見などを入れることで、新しいものを生み出せるかもしれない。今までやってきたことが洋服に新たな価値観を生み出せるのではと考えています。
WWD:ブランドの今後の展望は?
広江:最初はTシャツやキャップなどのグッズから作っていく、という話でしたが、それでは面白くないからとコレクションを開催しました。ならば、どうせならパリコレを目指そうと。本気でやるなら音楽ならグラミー賞、映画ならアカデミー賞のように、パリコレを目指すのが当たり前かな、と。もちろん、ただ単に出るのではなく、既存のフォーマットを壊したい。服を見せないショーや、最後に破るなど、パンク的な表現でやれれば「ストレートエッジ」らしくなると思います。
西野:ただし、服自体は本気で作る。パリコレという儀式にはちゃんと乗っからないと、口だけになる。しっかりクリエイティブで殴った上で、最後に壊す。それがパンクだと思います。広江さんが作ってくれた「ストレートエッジ」という箱の中で、私も心中するつもりで軸足を置き、ここにしかない表現をできればと思います。