PROFILE: ザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)
デビュー・アルバム「Prelude To Ecstasy」(2024年)がイギリスで初登場1位という、新人バンドとしては実に9年ぶりとなる大記録を打ち立てたザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party、以下TLDP)は、近年の英国で屈指の勢いを感じさせるバンドだ。今年3月に開催された、イギリスでもっとも権威ある音楽賞「ブリット・アワード2025」では、見事に最優秀新人賞を受賞。それは大成功を収めた彼女たちの1stアルバム期を締めくくるに相応しい、華やかなフィナーレだったと言えるだろう。
そして前作から1年半強を経て届けられたのが、2ndアルバム「From The Pyre(フロム・ザ・パイアー)」である。言ってみれば今作は、前作で確立したTLDPらしさと新しさが絶妙なバランスで拮抗している作品。デヴィッド・ボウイ(David Bowie)やクイーン(Queen)から受け継いだ演劇性、あるいは一曲の中で何度もドラスティックに曲調が変わるエクレクティシズムは、前作から一貫しているTLDPらしさだ。その一方で、「This Is The Killer Speaking」のカントリー・フレイヴァー、「Rifle」のハード・ロックに肉薄するヘビーなギター・リフ、そしてロード(Lorde)の「Melodrama」やアバ(ABBA)に影響を受けたという「The Scythe」のモダンなシンセ・ポップ感などは、これまでには見られなかった新たな側面だろう。無論、長いツアーで鍛え上げられたバンド・アンサンブルは一層引き締まっており、特にエミリー・ロバーツ(Emily Roberts)のリード・ギターは前作以上に冴え渡っている。多くのリスナーを惹きつけた自分たちの個性/魅力を見失わずに、着実な成長を遂げた姿を見せているという点で、これは理想的な成功後の一手だ。
また、本国イギリスではあまりに急激な成功を収めたため、「業界に仕込まれたバンド」など、誤解に基づく批判も彼女たちは少なからず浴びてきた。新作の歌詞のテーマは恋愛やフェミニズムが中心だが、時おり自分たちが経験した言われなき批判へのリアクションとも受け取れる表現が顔を出す。以下の対話でも触れているように、今作の歌詞で表現されている感情の一つは「怒り」だ――それが何に対する怒りであれ、単純に相手に攻撃の刃を向けるだけではなく、ときにユーモアを交えて自分たちが置かれた状況そのものを笑い飛ばすような仕草を見せているところに、彼女たちの知性と芯の強さが感じられるだろう。
この見事なアルバムの完成にあたって、ボーカルのアビゲイル・モリス(Abigail Morris)とリズム・ギターのリジー・メイランド(Lizzie Mayland)にZoomで話を訊いた。
オーガニックに進化した2ndアルバム
——デヴィッド・ボウイのディスコグラフィーで例えると、あなたたちの1stアルバムがグラム・ロック期のボウイのサウンドと世界観を定義した「Ziggy Stardust」だとしたら、今回の2ndアルバムはそこからの自然な進化が感じられる次作の「Aladdin Sane」だと私は思っているんです。
アビゲイル・モリス(以下、アビゲイル):その例え、すごくうれしい!とってもラヴリー。
——というのも、あなたたちの2ndも前作で確立したサウンドや世界観からのドラスティックな変化があるというより、そこからのオーガニックな進化が感じられる作品だからなんですけど。
アビゲイル:本当に素晴らしいコメントだと思う。「オーガニックな進化」って受け取ってもらえたのがすごくうれしいし、まさに私たちにとってもしっくりくる感覚だから。
——では、もし自分たちでボウイのディスコグラフィーに当てはめるとしたら、TLDPの1stと2ndは、それぞれどのアルバムだと思いますか?
アビゲイル:そうだな、1stが「Ziggy Stardust」っていうのはすごく妥当な比較だと思うし、2ndを「Aladdin Sane」って捉えるのもまさにその通りって感じ。「Aladdin Sane」って、すごくスケールが大きくて、演劇的なんだけど、同時にすごくリアルで、そういう作り方が本当に素晴らしいなって思う。あと、もしかしたら「The Man Who Sold the World」っぽさもちょっとあるかも。いや、でも「Hunky Dory」もいいな……。
——(笑)。
アビゲイル:うん、でもやっぱり、あなたの言ってくれた通りにする。2ndは「Aladdin Sane」ってことで。
2ndアルバムの制作
——分かりました。あなたたちも2ndはオーガニックな進化を遂げた作品だと感じている、ということですよね。では、制作にあたっては、何か大きなビジョンを描いていたというより、自分たちの進化や変化を着実に刻もうという意識が強かったのでしょうか?
アビゲイル:今回のアルバム制作を始めた時って、完成形のイメージを特に持ってたわけじゃなくて、1曲ずつ向き合っていく感じだったの。それで、曲がいくつか揃ってから、全体としてどうまとまるかを見ていった感じ。でも、全体的なアプローチとしては、「自分たちが面白いと思えるものを直感で作る」ってことをすごく大事にしてたかな。あと、他人からどう思われるかよりも、各曲をその曲なりの極限まで突き詰めるってことに集中してた。
リジー・メイランド(以下、リジー):うん、アビーが言った通りだと思う。1曲1曲をそれぞれ独立した存在として捉えて、それぞれが行きたい方向に行かせてあげるって感じで作ってたな。だから、アルバムとしての一貫性とかはあんまり気にしてなかった。むしろ、作ってるときは直感で動いて、でき上がった後で改めて全体を見渡して、「ああ、こういうテーマだったんだな」って客観的に読み解いていくほうが自然だと思ってて。最初から意味づけしようとしすぎると、かえって本質からズレちゃう気がするんだよね。
——昨年からライブでは新曲を次々と披露していたので、ニュー・アルバムの曲作りは順調に進んでいたのではないかと推測します。ただその一方、あなたたちは燃え尽き症候群で前作のツアーの一部をキャンセルしていましたよね。実際のところ、ニュー・アルバムの制作はスムースなものだったのか、大変だったのか、どちらだと言えますか?
アビゲイル:うーん、スムースだったかな? というのも、アルバムを作るって、ツアーに出てるときとはまったく違う、精神的にも肉体的にも、もっと言えばスピリチュアルな意味でも、まったく別の状態なんだよね。それに、スタジオに入って、また曲を書いたり、楽曲を組み立てたり、新しい作品を作ったりできるってこと自体に、すごくワクワクしてたの。で、アルバム制作に入ったときには、ちゃんと休んでリセットする時間も取れてたし、一回地に足をつけ直すこともできてたから、「大変すぎる」とか「手に負えない」って感じではなかったと思う。もちろん、大変な瞬間はあったけどね。だって、心から大事にしてるアートを作ろうと思ったら、やっぱり何かしら苦労は出てくるものだから。でも、あのとき私たちがいたのは、そういうしんどい意味での「苦しい」感じとは違ってて、むしろ前よりエネルギーがみなぎってたと思う。
よりスケールの大きなサウンドに
——新作で変化した点の一つとして挙げられるのは、「Rifle」でこれまで以上にヘヴィーなギター・リフが聴けることや、全編に渡ってギター・サウンドが前作よりも強調されていることです。これも自然な進化の一環だと言えますか?
リジー:「Agnus Dei」っていう曲の話なんだけど、あれはアビーとエミリーが一緒に音楽的な部分をかなりがっつり書いたんだよね。私が最初に聴いたときには、もうすでにギターとリード・ボーカルががっちり噛み合ってた。だから、それって多分、自信の表れでもあると思うし、エミリーがアイコニックなギターラインを書く上ですごく主導的だったから、ミックスでもギターが前面に出て当然っていうか。だって、あの音、最高だから。
——今作のギター・サウンドに影響を与えたアーティストはいますか?
リジー:すごくローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)っぽい70年代の影響が多かったかな。「Count The Ways」とか「Inferno」とかは、まさにそんな感じ。クラシック・ロックの楽曲って感じだよね。
アビゲイル:うん。今回のインスピレーションはすごくクラシック・ロック寄りだったと思う。ストーンズとかビートルズ(The Beatles)とか、ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)とかをよく聴いてたし。前作みたいにグラム・ロックっぽい感じから来てたわけではなくて。
リジー:で、もっとヘヴィーな曲になると、例えば「Rifle」なんかは、アミル・アンド・ザ・スニッファーズ(Amyl and the Sniffers)とかアイドルズ(IDELS)のギター・トーンに影響受けてて。そういうのがすごくクールだと思ったし。
——ストーンズやビートルズのようなクラシック・ロックからの影響も関係しているのか、ニュー・アルバムは、前作以上に大会場で映えそうな、よりスケールの大きなサウンドの曲が増えたようにも感じます。
リジー:でも、1stアルバムにもサウンド的にビッグな瞬間ってけっこうあったと思うんだよね。
——ええ、もちろん。
リジー:でもまあ、そうだね、自信がついてきたっていうのはあると思う。あと、「この曲をライブでやったらどう感じるか?」ってことも考えるようになってきた。ブライアン・メイにアドバイスされたことがあって、「観客のために演奏しろ」って言われたの。それってつまり、みんなが一緒に歌えるような曲を届けるってことなんだけど、確かにそれってすごく大事だと思うんだよね。だから「これ、ライブで絶対盛り上がるよね!」っていう瞬間を作ろうと意識したところもある。でも、やっぱり自信とプロダクションのスタイルが大きいんじゃないかな。今回の作品はかなり複雑な要素がいろいろ詰まってて、聴くべきポイントがすごく多いし、だからこそ全体を包み込むような感じになってて、たぶん大きい会場にもすごく映えるはず……って、そう願ってる。
ABBAのようなコーラス
——ときに聖歌隊のようであり、ときに呪術的で不穏に響くコーラスが多用されているのも、新作の特徴の一つだと思いました。
アビゲイル:オー・ゴッド、そう思ってもらえてうれしい。でも、ちょっとびっくり。どのコーラスのことだろう?
——「Rifle」のコーラスは不穏なムードですし、「Woman Is The Tree」のコーラスには神秘的で呪術的な雰囲気を感じました。聖歌隊のように感じたのは「The Scythe」ですね。
アビゲイル:「The Scythe」のコーラスは私のお気に入りの一つ。あれはアルバムのコーラスを語る上で、すごくいい例だと思う。っていうのも、あのコーラスってかなり前に書いたものなの。で、スタジオで曲を仕上げていく中で、「あれ、ちょっとアバ(ABBA)っぽくなってきたぞ」って感じ始めて。12弦ギターのキラキラした音とかで、なんだかアバっぽくなってきてたから。で、そのあとリジーが「The Scythe」のバッキング・ボーカルを録って、それを入れて聴いてみたら、すごい分厚いウォール・オブ・サウンドになってて、一気に次のレベルに持ってかれた感じだったんだよね。リジー、そのハーモニーの制作プロセスについて話してもらえる?
リジー: うん。プロデューサーから、「この曲のコーラスは(アバの)『Dancing Queen』みたいな感じでやってくれない?」って言われたの。でもアビーからは、「(バラードだから)ちゃんと悲しくしてね」って(笑)。普段、私がバッキング・ボーカルを録るときは、けっこう直感的にやってて、歌いながら自然にラインを見つけるんだけど、今回はちゃんとコードを見ながら、それぞれのコードに対して3度とか5度とか、元のメロディーの音も入れて、それぞれのパートを作ったの。それで、さらに一番上のラインは感覚的にメロディをつけて、それが曲を持ち上げてくれたんだと思う。
——具体的に、アバっぽさを出すためにどんな工夫をしたんですか?
リジー:YouTubeでリード・ボーカル抜きのアバのバッキング・ボーカルを探して、それを聴いたりもして。あと、今回は歌い方もすごく重要で、アビーの歌声はビートの周りをちょっと揺らぐ感じで動いてるけど、バッキング・ボーカルはすごくビートの上にピタッと乗ってて、そこがアバっぽさにつながってるんだと思う。悲しいアバ、って感じかな。ちょっと変だったかもだけど(笑)。でも、アバをたくさん聴いて、それっぽくやるのはすごく楽しかった。
——海外のインタビューで、アビゲイルさんが「The Scythe」のことを「アルバムでもっともエッジーな曲」だと言っているのを読んだんですけど、それはこのコーラスとボーカルのバランスを指していたのでしょうか?
アビゲイル: えっ、私そんなふうに言ってた? 全然覚えてない(笑)。言い間違いだったかもね。そんなにエッジーって感じでもないし……でも、確かに「The Scythe」はアルバムの中で唯一、もっと現代的なサウンドにしたいって思った曲かもしれない。ほかの曲はけっこう70年代から90年代あたりの影響が多いんだけど、「The Scythe」に関しては、ロードの「Melodrama」みたいな感じにしたいって思ってたから。
リジー:もしかしたらドラムのことを言ってたのかも。あの曲のドラムってアルバムの中でもちょっと独特で、あんまりロックっぽくないし、どっちかっていうとエレクトロニック・ドラムにインスパイアされてるんだけど、実際は生のキットで叩いてるから、音自体はアコースティックに聴こえるんだよね。でも、私もエッジーって言葉はあんまりしっくりこないかも。
アビゲイル:そう、他とは違うってだけ。
リジー:うん、ちょっとだけ別の世界観で作られてる感じだよね。
——なるほど。実は私もエッジーという言葉に少し違和感を覚えていたので、すっきりしました。(笑)。さて、今回はプロデューサーにマーカス・ドラヴス(Markus Dravs)を迎えていますが、彼は新作のサウンドを完成させる上で、どのように助けになりましたか?
リジー:これも「The Scythe」の話になっちゃうんだけど、マーカスがそこでやった面白い手法があって。例えば、私が弾いた12弦のアコースティック・ギターと、ジョージアが弾いたベース・ギターを、実際にはちょっと遅いテンポで、しかも少しキーを下げて録音したのね。それをマーカスがテープマシンに通して、再びスピードアップさせたの。ドラムもたしか同じように遅く録ったと思うんだけど、そうすることで全体のリズムが一体化して、アナログっぽくて、ちょっと潰れたようなテープ特有の質感が出るんだよね。それがすごく心地いいサウンドになってると思う。それに、12弦ってけっこう音が賑やかだから、そうやって他のリズム要素と混ざりやすくして、「キラキラした音」ばかりが浮きすぎないようにしてくれた。だから、それってただのトリックというより、ちゃんとしたプロセスだったし、私もそのとき「OK、マーカス、あなたのやってることを信じるよ」って思いながらゆっくり弾いてたんだけど、仕上がった音を聴かせてもらったら「うわ、めっちゃいいじゃん!」ってなったの。まさにリズム全体を接着剤みたいにまとめてくれた感じだった。ほんとに良い曲になったよ。
怒りとチーキネス
——「From The Pyre」の歌詞は、実体験を基にしつつ、それぞれの曲で架空のキャラクターを立てて物語化したものです。あなたたちの言葉で言えば、現実の「神話化」ですよね。そもそも、そういったスタイルで今回の歌詞を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
アビゲイル:正直に言うと、私個人としては、歌詞を書くときに自然とそういう書き方になるんだよね。すごくパーソナルな内容なんだけど、それをちょっと誇張された現実というか、場合によってはキャラクターを通した語り方で描くっていうのが、自分にとって自然な方法で。で、「自分自身やキャラクターを神話化する」っていうアイデア自体が出てきたのは、レコードを作り終えたあとだったの。完成した作品を見返して、「自分たちは何を作ったんだろう?」って考えてみて、そこから作品が自ら語り出すものや、一貫したテーマみたいなものを探ったときに、これはいろんな体験や物語のアンソロジーみたいだなって感じたんだよね。
——なるほど。
アビゲイル:例えば「This Is The Killer Speaking」は、その中でも特にキャラクター性が強くて、すごく演劇的だし。他の曲も全部パーソナルなんだけど、描き方は少しずつ違ってて。一つの物語を通して語っているわけじゃなくて、私たちの人生のいろんな断片を集めたものだから、アルバム全体がアンソロジーっぽく感じられるのかも。で、そういう気持ちや出来事を処理するときって、単純な言葉で語るよりも、大きな物語の枠組みの中で描いたほうがやりやすいときもあるっていう。
——まさに各曲で歌われる物語はそれぞれ個性的で、異なるものです。ただその一方、「怒り」は多くの曲に通底する感情のように感じられました。恋愛関係にある/あったパートナーへの怒り、女性として感じる社会的な怒り、一気に注目されて不当な批判も受けたアーティストとして感じる怒り、戦争や暴力への怒り――さまざまな怒りが物語の中に編み込まれているように感じたのですが、そのような捉え方は納得がいくものですか?
リジー:うん。今の世界って、怒りたくなることが本当にたくさんあると思う。そして、そういう感情って、音楽とかアートとか、どんなクリエイティブな表現にも自然と入り込んでくるんじゃないかな。意識的じゃなくても、無意識のうちに吸収してしまっていて、それが作品に出てくるのは避けられないことだと思う。
アビゲイル:それに、怒りって、感じたり処理したり表現するのが一番難しい感情の一つだと思う。悲しみとか不安とか、そういう感情のほうが私は表現しやすいんだけど、怒りとか憤りって、自分の中にあるって認めるだけでも怖いし、なんだか破壊的に感じてしまうから、なかなか出しづらい。でも、今回は、そういう怒りを表現できるくらいには自分たちが安心できる状態にいたというか、それぞれがいろんな理由で抱えてきた怒りをようやく音にできたんだと思う。アーティストとして、そういう感情を健全で創造的なかたちで表現するのってすごく大事なことだし、怒りも他の感情と同じように、何らかの形で向き合っていかないといけないものだから。
——新作における感情のスペクトラムの一つが「怒り」だとしたら、それ以外に、どのようなスペクトラムがあると言えますか?
アビゲイル:全部だね。
リジー:うん。それに、チーキネス(cheekiness)、小生意気な感じとか。
アビゲイル:そう、チーキーな感じ。今作の面白いところって、すごくダークな部分がある一方で、皮肉っぽさとか、ある種のユーモアもあるところなんだよね。なんていうか、「深刻になりすぎない」っていうと言葉が違うかもしれないけど、ちゃんと笑い飛ばす余白もあるというか。アルバム全体が持ってるそのバランスって、すごくいいなと思ってて。激しい怒りを感じるところから、今度は逆にすべてがバカバカしく思えてきて、それを笑って受け流せるところまで、感情の振れ幅が大きいの。それをおちょくるような、ちょっと茶化すような感じもあって。私にとってこのアルバムは、「痛みを伴う誠実さ」と「気まぐれでふざけたような小生意気さ」、この2つの感情のあいだを行き来してるような感じがしてて。
——「This Is The Killer Speaking」は、そのチーキーさが表現された曲だと言えますか?
アビゲイル:うん、間違いなくそうだと思う。この曲は、すごく動揺したりイライラしたりするような体験をもとにしてて、でもそれを真面目に受け止めすぎずに、ある意味で「茶化してやれ」っていう気持ちから生まれたの。状況の中で感じた無力さみたいなものを、もっとユーモラスで、ちょっとわざとらしくて面白い反応に変えることで、自分の手に主導権を取り戻すような、そんな曲なんだよね。
——よく分かりました。では、最後の質問です。前作のゴージャスでグラマラスでユーフォリックなサウンドは、現実からのエスケーピズムとして機能する側面があったと思います。しかし、新作はサウンドも歌詞もより地に足がついた感じで、エスケーピズムの要素は薄れたように感じられました。私はポップ・ミュージックにおけるエスケーピズムの役割は肯定的に捉えていますが、いまのあなたたちの表現とエスケーピズムの距離感については、どのように捉えていますか?
リジー:すごくいい質問だね。
アビゲイル:うん。
リジー:歌詞の話になるけど、前作の歌詞って、もっと比喩的だったというか、メタファーが多かったかも。
アビゲイル:確かに、歌詞の面からそういう違いが出てるのかもしれない。前作でも、自分が実際に感じてたことや考えてたこと、経験したことをもとに書いてたんだけど、そこにはもっと比喩や想像のレイヤーが重なってて、距離感やファンタジーがあった。でも今回は、もっと現実に根ざした言葉を使いたい気持ちが強くて。もちろん、ちょっと変だったり神話っぽい要素はまだあるんだけど、それでも前よりずっと地に足がついた感じの歌詞になったと思う。だから、エスケーピズムの要素は少なくなってて、むしろ現実を処理するためにキャラクターを使ってるって感じかな。その方が、自分にとっては感情を整理しやすい方法だったんだよね。
ニューアルバム「From The Pyre」
◾️ザ・ラスト・ディナー・パーティー ニューアルバム「From The Pyre」
10月17日から配信・発売中
https://umj.lnk.to/TLDP_FromThePyre
国内盤アルバム「フロム・ザ・パイアー」
価格:3300 円
<ボーナストラック、日本語歌詞対訳、ライナーノーツを封入>
▪️トラックリスト
01.Agnus Dei/アニュス・デイ
02.Count The Ways/カウント・ザ・ウェイズ
03.Second Best/セカンド・ベスト
04.This Is The Killer Speaking/ディス・イズ・ザ・キラー・スピーキング
05.Rifle/ライフル
06.Woman Is A Tree/ウーマン・イズ・ア・ツリー
07.I Hold Your Anger/アイ・ホールド・ユア・アンガー
08.Sail Away/セイル・アウェイ
09.The Scythe/ザ・サイズ
10.Inferno/インフェルノ
11.ザ・フェミニン・アージ(ライヴ from Eventim Apollo)*ボーナストラック
12.ザ・サイズ(ライヴ from Festival Cabaret Vert)*ボーナストラック
13.ディス・イズ・ザ・キラー・スピーキング(ライヴ from Gorilla Hall Osaka)*ボーナストラック
14.ナッシング・マターズ(ライヴ from Eventim Apollo)*ボーナストラック
*日本盤&一部海外限定盤ボーナス・トラック



