PROFILE: 加藤大直/MagnaRecta創業者兼CTO
3Dプリンターを軸にお客のニーズに合わせた製品やサービス、事業をデザイン・開発・実装を行う企業、MagnaRecta(マグナレクタ)。同社が2024年からスタートしたのが、デザインブランド「130(ワンサーティ)」だ。
同社の創業者兼CTOの加藤大直は、アメリカ・NYのパーソンズ美術大学卒業後、現地でプロダクトデザイナーとして活動。11年に帰国し、国内初の3Dプリンター「atom」を開発した。その後、オープンソースのコミュニティー(RepRapコミュニティジャパン)を立ち上げるとともに、3Dプリンターの開発・製造・販売を行なうGENKEIを共同創業。17年3月にMagnaRectaに組織変更し、「⼈々のアイデアを具現化すること」を主な事業理念とし、3Dプリンターや特殊⽤途のデジタルファブリケーションのハードウエアの提供だけでなく、「これから何が必要で何を作り出せば良いか」についてのシステムソリューションも提案している。
「130」は、従来の平⾯を積み重ねる3Dプリント技術ではなく、⽣PET素材を⽤いて1本のフレームを次々に⽴体構築していく⾰新的な⽴体造形技術“格⼦構造”をコアに持ち、⾃由なデザイン、軽量性、そして堅強さを備える。さらには、不要となった製品は解体し再素材化して、新たな製品を作ることができる循環型のプロダクトサイクルを実現している。
4月には「ミラノサローネ」に出展し、会期中の7⽇間で、1万7000⼈を超える来場者を集めた。6月には、東京・原宿「THE PLUG」で、国内初個展となる「Collection of The Grid – Tokyo Edition」を開催。展示会場には、イスや照明といった家具やインテリアが展示され、受注販売も行われた。「130」とはいかなるブランドなのか、展示会場で、加藤CTOに聞いた。
WWD:加藤さんが「130」を始めたきっかけは?
加藤大直(以下、加藤):「130」を始めるきっかけは明確にあって、「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)」と一緒にマネキンを作ったことですね。
2018年ごろ、東京大学と国が行っていたプロジェクトのお手伝いをしていたんですが、そこに参加していたアーティストのつながりで、研究室のみんなでイッセイ ミヤケのオフィスへ遊びに行ったんです。そこで当時はまだ「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のデザイナーだった宮前(義之、現在は「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」のデザイナー)さんと知り合って。何かファッションプロダクトを一緒に作れないかという話になって、19年ごろから宮前さんと共同研究を始めたんです。
それで、いろいろと話しながら、当時宮前さんが課題を持っていた店舗用のマネキンを一緒に作ることになって。最初は普通の3Dプリンターでマネキンを作ったんですけど、それだと服が傷ついてしまったり、強度的にも弱くて。作ったものを手作業で後処理すれば、大丈夫なのですが、時間とコストがかかって、実用化できない。そこからさらに研究を重ねて、1本の線(棒)を組み合わせて、立体を作っていくという考え方に至りました。それを実現するために、新たにプリンターから開発して、23年に服を傷つけず、壊れにくい強度の高いマネキンが完成しました。そのときに培った“格⼦構造”を応用すれば、家具やインテリア製品など、いろいろなものが3Dプリンターで簡単に作れると思い、ブランド「130」を24年3月に本格的にスタートしました。
WWD:ブランド名「130」の由来は?
加藤:「130」の“格⼦構造”は1本の線(棒)を組み合わせて、プロダクトをつくるのが特徴です。線は1次元で、そこから立体(3次元)の製品を作るので、1→3。それで製品を使わなくなったら、砕いて再素材化するので0。1→3→0→1→3→0……と循環させていくイメージです。それを分かりやすく伝えられると思い、「130」にしました。
WWD:基本的に「130」の製品は全て3Dプリンターで1本の棒を組み合わせて作っているんですか?
加藤:そうですね。今回展示している製品は、一般の方にも分かりやすいようにグリッド状の四角形をベースにした「Collection of The Grid(コレクション オブ ザ グリッド)」のものなんですが、線でつなげてしまえば、何角形のデザインでもできるんです。一番複雑だったのは、宮前さんと一緒に作ったマネキンの頭部ですね。あと、僕がもともとデザインを勉強していたので、プロダクトとしての美しさにもこだわっていて。今回展示しているライトに関してもどの角度から見ても光が十字に見えて、かつ影も重ならないように、線の並べ方を計算して作っています。
素材は再⽣PETを使用していて、もし製品がいらなくなっても、全部を粉々にして、再素材化できるんです。本当に捨てる部分がなくて100%リサイクルできる。あと、全て1本の棒を組み合わせて作っているので、部分的に壊れてもすぐに直すことができます。この再生PETに木材だったり、繊維を混ぜることも可能で、いろいろな質感も実現することが可能です。
WWD:写真で見ていると強度的なものが心配でしたが、実際にイスに座ってみると意外としっかりしていますよね。強度の方はかなりの重さにも耐えられる?
加藤:他の素材を混ぜると強度は弱くなってしまいますが、今座っている再⽣PETのみを使用したイスだと、120kgくらいまでは全然大丈夫です。しかも軽いというのも特徴で、持ち運びも容易だし、完全に自社だけでリサイクルできるので、再素材化のコストも抑えることができるんです。
WWD:経年劣化も大丈夫ですか?
加藤:屋外のみに使用する場合は素材を分けていますが、他の樹脂素材でできたた家具と同じように長年使っていただけます。仮に部分的に何かしらの想定外のダメージがあったとしても、「130」のコンセプト通り直して使い続けられますので、時間と共に少しの変化も加えながら使い続けていただければと思っております。
BtoBのデザインもプロデュース
WWD:今回の展示では、イスや照明器具が発表されていますが、「130」は家具・インテリアのブランド?
加藤:BtoCでは、今回発表した家具やインテリアを中心としたブランドですが、実はBtoBの方もやっていて。先ほどの「イッセイ ミヤケ」のマネキンをはじめ、店舗什器だったり、大きいオブジェの制作など、デザインからプロデュースまで行っています。
デザインする際には大きさの制限はなく、これまでで一番大きいものだと、23年に表参道ヒルズに飾られていた10メートルのクリスマスツリーですね。あと、先日、東京ドームで開催されたMLBのドジャース対カブスの開幕戦に合わせて、「ニューバランス(NEW BALANCE)」が3月15~23日に、SHIBUYA TSUTAYAでイベント(「The Shohei Ohtani Collection Tokyo」)を行ったんですが、「130」は1階のメインエリアのアートワークを担当させてもらって。そこで、大谷翔平選手のマネキン3体(走る、打つ、投げる)と7m ×7m のグラウンド、天井のオブジェなどを作りました。
WWD:素材に色もつけることは可能なんですか?
加藤:製品に後で塗装することも可能ですし、元の素材の色を変えることも可能です。「ニューバランス」のイベントのグラウンドの芝生部分は後で塗装しています。
WWD:全て3Dプリンターで作っているんですよね? どこかに大きな倉庫を借りて、そこで作っているんですか?
加藤:いえ。弊社は日本橋にあるんですけど、そこに自分たちが基盤から作った3メートルクラスの3Dプリンターが6台ほどあって、全部自分たちで作っているんです。SFのような見た目の職場です(笑)。
WWD:4月には「ミラノサローネ」にも出展されていましたが、海外での反応は?
加藤:「ミラノサローネ」には、今回、初めて単独出展したんですけど、1日2500人ほど、1週間で1万7000人ぐらいの人に来ていただいて。「どういうストーリーでやっているのか」とかブランドに関することだけでなく、「これを売ってほしい」という声も多くて、「130」を新鮮に感じてもらえたのかなと、手応えを感じています。その後、中国の「デザイン上海2025」にも参加したんですが、そこでも好評でした。
今回、「ミラノサローネ」に来られなかった人たちから日本でも展示をやってほしいという意見をいただいて、それで東京でも個展を開催することにしました。今回は、受注販売も受け付けていて、それも初めての試みです。
WWD:今後の展望は?
加藤:まずはヨーロッパを中心に「プロダクトの再定義」をしていきたいと思っています。従来の製品って少しでも壊れたら、もう商品的価値がなくなってしまって、買い換える。でも、「130」だと、壊れても簡単に修復できるので、価値がなくならないっていうのが一番のキーポイントだと思っています。日本には金継ぎという文化がありますよね。僕らはそれをテクノロジーを使って行うことができる。今、ヨーロッパの方々には、そのブランドフィロソフィーがめちゃくちゃ受け入れられていて、もっと多くの人にちゃんと伝えていければと考えています。
WWD:日本国内では?
加藤:国内での展開に関しては、僕らがまだ全然読めてないところがあるんですけれども、まずは製品を見てもらえる場を増やしつつ、先ほど言ったブランドのフィロソフィーを知ってもらうことが大切かなと。でも、デザイン的にはどんなものが受けるのか、まだよく分かっていない部分もあるので、そこは逆に皆さんから要望があったら、聞いてみたいです。
BtoBの方では、新しいことにどんどん挑戦していきたいので、もしやってみたい企業があれば、ぜひ声を掛けてほしいです。とはいっても、実際に「130」では、「こういうこともできます」というのを提示した方がいいと思うので、アート的な作品から実用的なものまで、自分たちでもいろいろと作っていくつもりです。
PHOTOS:TAMEKI OSHIRO





