
ビューティ賢者が
最新の業界ニュースを斬る
ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、農業とリサイクルの話。(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月23日号からの抜粋です)
PROFILE: 渡邉弘幸/ウカ代表取締役CEO

【賢者が選んだ注目ニュース】

佐賀大学の徳留嘉寛教授の記事は、ウカの事例と照らし合わせながら興味深く読んだ。研究者の視点で語りつつ、化粧品原料を生産する上でメーカーと農家が気をつけるべき点が述べられ、新たな視座に富んでいた。
化粧品メーカーが農業に参入する背景として、食から生まれたトレーサビリティーという概念は、肌につけるものである化粧品にも当てはまり、消費者の意識の高まりに応えるべく取り組んでいるという文脈には大いにうなずくことができた。記事では取り組みを行う化粧品メーカーのケーススタディが取り上げられている。化粧品原料の生産やトレーサビリティーへの興味を持ったり、実際に取り組みたいと考えたときのバイブルになるだろう。
「自社農園や国産原料への取り組みが広がれば国内農業や地域の雇用にも好影響を与えるはず。消費者、ブランド、生産者、地域、全てがつながる循環が生まれれば理想的」と徳留教授は語り、取り組む価値があるという。国立大学に籍を置く徳留教授がアカデミックな視点から語ることで、強い説得をもって、ウカが取り組んでいることが肯定されたように思い、励みになった。
日本の農業は“食べる”以外のアングルからの発展を目指すことも大いにありだと思っている。ウカが沖縄県石垣市で生産に力を入れているヘナは食用ではないが流通価格が高く、農薬を3年以上まいていない休眠地を再活用することでオーガニック認定を受けることができる。レモングラスやレモングラスといったハーブも同様だ。また伊豆・下田のクロモジの再生は海洋学者の佐藤延男先生が砂漠化した海を豊かにしたいという思いから始まった。山林を間伐することで、日差しが地面に注ぎ、クロモジや落葉樹が生え、腐葉土ができることでミネラル豊富な土壌が育まれ、海の環境までも整える。循環・回復させることで新たな植物との出合いがあったのだ。そんなクロモジを使用して、24年7月にリニューアルを果たしたウカのヘアケアシリーズはデビューして1年が経ったが、前年比約30%増と売り上げが好調だ。自然環境と、顧客の頭皮毛髪環境、収益の全てにポジティブな結果をもたらしたのだ。
農業従事者の高齢化が進む中で、若手が農業に参入するメリットをどう作るかは、農家だけの問題ではなく、食品業界、化粧品業界の課題でもあり、日本の農業を支えるチャンスも潜んでいるのではないだろうか。ウカは石垣市と連携してヘナ・インディゴの農業組合を立ち上げ、まさに取り組みを始めたところだ。後継者不足や休眠地の課題、農作物の買取価格の問題はたくさんある。しかし、石垣市と組合が連携して現地の農家と技術の継承に取り組み、買取価格をオープンにして、新規参入者を公募する。チャレンジングな取り組みであり、不安を抱えながらも、使命感と世の中の潮流にのって次のステージへと進んでいきたい。
成功事例が活性化の原動力になる
リサイクルやリユースはやるに越したことはないが、収益が未知数で、のろしを上げても続かないといった課題を感じる企業は多いだろう。これに対して、無印良品の回収した商品をアップサイクルして再販するプロジェクト「ReMUJI」では、課題だった収益性を確保できているという。こういった結果が出ているプロジェクトが、世の中を変える原動力になるだろう。
ウカでは数年前に“ケンザン”の回収をスタートし、マニキュアのボトルの回収も始めた。ケンザンはどのような形で再び世の中に送り出すか検討している最中だが、マニキュアのボトルについてはリサイクルのめどがたった。ガラスのボトルをきれいに洗浄して、新たに中身を詰め、7月のクールアースデーに発売する。ウカ会長でネイリストの渡邉季穂とネイリストの中島理恵が、リサイクルやエコを連想させる“リユース グリーンスタディ”だ。ボトルの塗装は剥がれがあったり、元々の色名が印字されているのもあえてそのままにした。ウカといえば赤やベージュ、ピンクを連想するお客さまも多いと思うが、“グリーン スタディ”の誕生ストーリーとともに楽しんでほしい。
発売に至るまで長い年月がかかった。リサイクル・リユースはメーカーにとって根気と志が必要な取り組みだ。しかし、こうして形になると純粋にうれしいし、モノ作りをする立場として責任を果たすことになるはずだ。共感してくれる消費者もたくさんいると信じて、道を開いていきたい。
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