WWDJAPAN.comは4月までマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」を連載していました。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説して行きます。今回は、第7話を取り上げます。
「クロスシッピング」で在庫はもっと活かせる
第7話では、「店舗在庫の最適化」と「成長資金の最大化」という、チェーンストア経営にとって極めて重要な2つのテーマが、経営者の視点から描かれています。
※チェーンストアとは、一般的に同じブランド・屋号で11店舗以上の店舗を展開する小売業のことです。
マンガ「在庫管理の魔術」の第7話は コチラ 。
多数の店舗を持つチェーンストアでは在庫の偏在が必ず発生します。ある商品が、こちらの店では欠品になっているのに、あちらの店では在庫が豊富にあるという状況です。店舗数が増えれば増えるほど、この偏りが大きくなることは想像に難くないでしょう。
在庫の偏在がある状況では、仕入れ担当者は欠品した店が販売機会の損失を防ぐために、ほかの店で在庫がだぶついているにも関わらず、追加発注を検討することになります。これもチェーンストア全体において、過剰在庫が発生する原因のひとつです。
この在庫の偏在を解消する鍵となるのが「クロスシッピング」、すなわち店舗間、倉庫間で在庫を融通し合う在庫移動の仕組みです。この頻度を高めると、在庫の偏在が減り、需要にあわせた、在庫の平準化が可能になります。
もう一つのテーマである「成長資金の最大化」というのは、今回のストーリーの後半に出てきた「投資収益率」に関連するものです。投資収益率とは、「投資に対して、どれだけ営業利益を生み出せたか」を表す指標です。
計算式は (営業利益 ÷ 投資額) × 100。
アパレル店舗の出店においては、この式の中の「投資額」に出店コストや敷金・保証金、内装費、在庫額などが含まれます。これらのうちで金額が大きく、かつ変動が大きいのが在庫額です。実際に、主人公の徹が店長を務める渋谷店では、在庫を4分の1に減らすという大胆な取り組みで、営業利益を約3倍にまで伸ばすことに成功しました。前述の式に当てはめて、ざっと計算すると、分母(在庫額)が4分の1に、分子(営業利益)が3倍になったために、在庫の投資収益率が10倍以上になったわけです。
在庫を4分の1に出来たら、残りの4分の3はフリーキャッシュフロー(余剰資金)になるわけで、これを成長のための投資に回せば、どれだけの可能性が広がるでしょうか。極論ですが、今までの4倍分の出店が可能になるのです。店舗で働く人は、販売機会を失いたくないので在庫をできるだけ多く持ちたいと考えていますが、経営者は限られた資金で会社を運営しています。在庫を減らして浮いた資金を、成長のための投資に回せたら――新規出店、システム投資、賃上げなど、未来への選択肢が一気に広がるはずです。