PROFILE: マーク・ジェイコブス/「マーク ジェイコブス」デザイナー

デザイナーのマーク・ジェイコブスがこのほど、19年ぶりに来日をした。目的は伊勢丹新宿本店でのポップアップストアの開催で、初日の2月12日には来店し売り場を盛り上げた。現在ニューヨークのバーグドルフ・グッドマン限定で展開している“ランウエイコレクション”を日本復活販売したほか、アーティストの故スティーブン・スプラウスとのコラボアイテムバッグを世界先行販売。ランウエイコレクションは、ドレスで50万円前後と高額ながら初日で「ほぼ完売」したという。最近お気に入りの長いネイルにTシャツというファッションで東京滞在を楽しむマークに話を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年2月24日号からの抜粋です)
伊勢丹新宿本店で“ランウエイコレクション”を日本復活販売
WWD:ランウエイコレクションを伊勢丹新宿店での展開を決めた理由は?
マーク・ジェイコブス「マーク ジェイコブス」デザイナー(以下、マーク):伊勢丹は、僕の知る限り、世界中の才能あるデザイナーを紹介する最高の店だ。ずっとそうだったし、今もそう。だからこそ、いいパートナーなんだ。デザイナーが小売店と強い関係を築いて、本当に限られた場所、限られたパートナーだけで展開する。そんな特別な存在であり続けたいと思っている。
WWD: 店頭に並んだランウエイコレクションもしかり、2025年2月にニューヨークで見せたショーも大胆なボリュームや独創的な形が特徴的で物語のキャラクターのよう。ランウエイコレクションはどんな役割を持っている?
マーク:ランウエイコレクションの役割は、何よりも「インスピレーションを与えること」。それはショーを見に来てくれる人たちだけでなく、一緒に働くチームのみんなにとってもね。「ちょっと奇妙で誇張された世界観を、どうやって現実のプロダクトにつなげていくか?」そんなふうに考えてもらえるようなものにしたい。例えば、香水やバッグ、もっと手に取りやすい価格帯の服など、より多くの人に届く形に落とし込んでいく。そのためのインスピレーションの源が、ランウエイコレクションだ。僕とチームの仕事は、そういう「ワクワクするもの」を生み出すこと。それがショーを作るときにいつも目指していることなんだ。ショーの全てを理解しなくてもいい。大事なのは、どれだけ心に残るか。その感情の余韻こそが、僕のショーで伝えたいものだ。
WWD:客席のノートに残したのは「Courage(勇気)」という言葉。どんな思いを込めたのか。
マーク:勇気という言葉は、いろんな場面で使われ、政治や人との関係、自分をより高めようとする姿勢など大きな意味を持つこともある。でもアーティストやクリエイターにとっての勇気って、また少し違うと思う。僕が伝えたかったのは「恐れと向き合いながら前に進むこと」かな。創作の過程では、未知のものに対する不安や、新しい挑戦への怖さ、自分のストーリーを語ることへの緊張がつきものだから。
WWD:デザイナーとして40年の経験を積んだあなたにもまだ恐れがあるのか?
マーク:もちろん!たくさんの恐れを抱えている。でも、結局、恐れはただの感情にすぎない。人は恐れを悪いものだと考えがちだし、恥ずかしいことのように感じたり、隠そうとしたりする。でも勇気って、恐れをなくすことじゃなくて、「恐れを受け入れ、それでも前へ進むこと」だと思う。だから、恐れを持つことは決して悪いことじゃない。むしろ、境界を押し広げて自分を守る力になるし、本当の意味で強くなれる健全なことだ。
「多くの人に受け入れられるもの」には、ちゃんと理由がある
WWD: ポップアップでのヒット商品の一つが「The TOTE BAG」で、中でも世界先行販売したアーティストの故スティーブン・スプラウスとのコラボと聞く。「The TOTE BAG」が世界中で大ヒットした理由をどう自己分析する?マーク:はっきりとは分からない。でも多くの人に受け入れられるものには、ちゃんと理由がある。僕の経験でいうと、「ルイ・ヴィトン」では、一番実用的なバッグが必ずしも一番人気だったわけじゃない。誰もが「ヴィトンといえばこれ!」って認識できるアイコニックなバッグが、一番売れた。つまり、実用性よりも「パッと見て分かるデザイン」こそが、ブランドの強みになることもある。「The TOTE BAG」は、計算して作ったわけじゃないけど、視覚的に認識しやすくて、実用的で、価格的にも手が届く。その組み合わせが多くの人のニーズにフィットしたんじゃないかな。
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