子どもを持たない選択をする人が増える中で、ファッション&ビューティ業界のキッズ市場は縮小傾向にある。代わりに商機が見いだせるかもしれないのは、ペット市場。ペットを単なる動物として捉えるのではなく、家族の一員や自分のアイデンティティーを構成する一要素と考える風潮が高まっている。そのような価値観に応えるビューティやインテリア、フード分野における米国の動向や事例を紹介する。
2014年に南カリフォルニアで誕生したパーソナル・ケア・ブランド「ロー シュガー リビング」は、その対象をペットにも広げ、“ファーキッズ(Fur Kids)”ラインを発売した。同ブランドは21年に子ども用ラインをローンチしたが、マイケル・マーキス最高経営責任者(CEO)によれば、自身のペットを“子ども”と呼ぶ顧客が少なからずいたことから、キッズラインの延長線上として“ファーキッズ”ラインを始めたという。このため、同ラインは新カテゴリーではなく、あくまでも既存シリーズの拡張と位置付けている。なお、ペットケア市場は23年には1470億ドル(約21兆円)規模に到達しており、30年までには2500億ドル(約36兆円)を超えると米国ペット用品協会は予想している。
商品ラインアップはセンシティブ・スキン・シャンプー+コンディショナー、シャイニー・コート・シャンプー+コンディショナー、フレッシュン・アップ・パップ・ワイプスの3種類で、価格はそれぞれ14.99ドル(約2100円)だ。pHバランスを整えるアップルサイダービネガーや消臭効果のあるベーキングパウダーなどを配合するほか、人間用の商材と同じくコールドプレス製法を採用し、フタル酸塩・硝酸塩不使用という。
同社は“ファーキッズ”をD2Cで販売している。当初は、ウォルマートやターゲット、コストコなどの卸先に大人用と子ども用の棚の隣に陳列するよう提案したが、「ペット用品を探している消費者は、人間用の商品が置かれている棚は見ない」と理解が得られなかったからだ。とはいえ、ブランドは23年も2ケタ成長を続けており、今後数年のうちにペットラインを含むキッズ事業の売り上げは1億ドル(約146億円)に達する見込みだ。
インテリアはペットも含めて考える


近年インテリア業界を中心に、ペットフレンドリーなインテリアデザインを表す“バーキテクチャー”という言葉がトレンドとなっている。動物のほえ声の「バーク」と、建築を意味する「アーキテクチャー」を合わせた造語だ。全世界で800万人以上のユーザーを持つデザインシミュレーターのリデコール社によれば、ペットの存在はペット用家具だけでなく、一般的なインテリア品の選択にも影響を与えるという。同社が24年春に7000人以上を対象に行った消費者調査で明らかになった。
この調査によると、インテリアの一部としてペットの肖像画を飾るという回答者が40%もいたほか、17%はインテリアに合わせてペットを選ぶこともあるという。また、約80%の回答者が、ペット用アクセサリーを購入する際は審美性も重視すると答えた。このうち85%は100ドル(約1万4600円)以下の予算内に限った話だとしているが、500ドル(約7万3000円)までならペット用品に使うと回答した消費者も全体の12%いた。
同社のアイノ・ヘイナスオ=デザイン責任者は、ペットはこれまで以上に家族の一員として重視されており、子どもを持つ代わりにペットを飼うことを選ぶ若い世代も増えていると指摘する。このため、子ども部屋を作るようにペット用の部屋を設計したり、犬や猫をベッドで寝かせたいと考えて専用のベッドを購入したりする。「最大のポイントは、ペットを考慮した審美的判断が世間の標準になりつつあるということだ」。
一方で、飼い主を悩ませるのは、「お気に入りのアイテムを買ったとしても、ペットに破損されるのではないか」という懸念だ。実際、ペットを理由に家具を処分する経験をしたことのある回答者も少なくない。このデータからヘイナスオ=デザイン責任者は、耐久性を備えたプレミアム商材には潜在的なニーズがあると読み解いている。
米大手ペット小売業者ペトコのジェニファー・コヴァックス=デザイン・コラボレーション・オムニ・エクスペリエンス担当副社長は、ペットの家族化は今後も勢いを増し、商材カテゴリーを超えて予想外の形で現れると考えている。「飼い主はペットを自身の延長と見なしている。バーキテクチャーの流行は、ペットが人間のライフスタイルに影響を与える存在として定着していることを示しており、ペット用品を自宅のインテリアになじませたい飼い主の願望を捉えている」と話す。同社のライフスタイルブランドである「レディ」は、ホリデーシーズンに、ペットと飼い主がおそろいで着用できるアパレルアイテムを提供している。
ペットフードにもサステナブルな視点
ペットの家族化に伴い、食の観点からペットウエルネスにアプローチする分野もある。飼い主が自分と同様のライフスタイルをペットにも与えようとするためだ。人間用の食料と同じように、持続可能な原材料を使用した健康的なフードやサプリメント、おやつにより、予防衛生を図るという。米ペット用品協会は、24年にペットフードとおやつの売り上げが同国内で669億ドル(9兆7674億円)に到達すると予測する。
犬用サプリメントやドッグフードを開発・販売するワグウエル社は、美容業界のような基準をもとに、ペット分野に革新をもたらすことを目指す企業の一つだ。ウィリアム・スモレン共同創業者兼最高経営責任者(CEO)は、「ペット業界は歴史的に進化が遅れている。美容業界に比べて規制がはるかに緩やかであるために、市場には犬の栄養ニーズを無視した安価で低品質な原材料を使用した製品が多く出回っている」と警鐘を鳴らす。同社は動物栄養学者や食品科学者と緊密に協力し、有効性、機能性、安全性について成分を分析しているという。
ペット・ウエルネスにおいて同社が最初に注目を集めた製品が、アヒフラワーオメガオイル(39ドル、約5600円)だった。スモレン共同創業者兼CEOによれば、これは馬への効果がすでに証明されている植物性オイルで、犬の皮膚、腸、関節の状態を改善することができ、コスト高や乱獲が懸念される魚油オメガ3の代替品にもなるという。最近は完全調理したフリーズドライのおやつを新たに発売したが、これは最低限の加工を施した天然素材しか使用しないなど、厳格な成分制限を設けた商品だ。同氏は、「私は手頃な値段でありながら高級感も保つという概念“マスティージ”が大好きだ。当社の製品は安価ではないが、高級を目指した結果、高級になったわけではない。ペットの飼い主にとって手頃な価格で、使いやすく効果的な商品をそろえている」。