ファッション

2023年「LVMHプライズ」最終選考に「セッチュウ」桑田悟史ら9組 ファイナリストを紹介

 LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は、10年目となる2023年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」のファイナリスト9組(10人)を発表した。そのうち日本人デザイナーは、ミラノを拠点に自身のブランド「セッチュウ(SETCHU)」を手掛ける桑田悟史が選ばれた。

 今回のファイナリストは、ヨーロッパやアメリカを拠点とするさまざまな国籍のデザイナーが選出されている。アメリカからは「ルアール(LUAR)」のラウル・ロペス(Raul Lopez)と「ディオティマ(DIOTIMA)」のレイチェル・スコット(Rachel Scott)、イギリスからは「アーロン エッシュ」(AARON ESH)のアーロン・エッシュ、「ベッター(BETTTER)」のジュリー・ペリパス(Julie Pelipas)、「ポーリナ ルッソ(PAOLINA RUSSO)」のポーリナ・ルッソとルシール・ギルマード(Lucile Guilmard)、フランスからは「バーク アクヨル(BURC AKYOL)」のバーク・アクヨル、イタリアからは「マリアーノ(MAGLIANO)」のルカ・マリアーノ(Luca Magliano)、「クイラ(QUIRA)」のヴェロニカ・レオーニ(Veronica Leoni)、「セッチュウ」の桑田となっている。

 ファイナリストは専門家と一般投票により決定された。今シーズンのパリ・コレクションでのリアリズムのムードの影響もあり、ジェンダー・アイデンティティーや環境への配慮、クラフツマンシップへの関心が高く、これらに対して信頼性の高い候補者が選ばれた。彼らの多くは自身のブランドを始める前にラグジュアリーやコンテンポラリーなどのさまざまなブランドで経験を積んでおり、調達や生産からマーケティング、イメージまで、あらゆる側面について慎重に考慮していると評価された。

 デルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)=クリスチャン ディオール クチュール(CHRISTIAN DIOR COUTURE)会長兼最高経営責任者は、「今回のセミファイナリストたちのアプローチや仕事ぶりは素晴らしいものだった。結果的に、文化的ダイバーシティーや伝統工芸への賞賛、クリエイティブな独創性が今回の選考基準になった。彼らは当たり前のように環境問題を意識し、ジェンダーの境界線を問わない創作に取り組んでいる。彼らが持つ専門知識やクリエイティビティー、ユニーク性、コミットメントにとても感心した」と述べた。

 今回の「LVMHプライズ」は、過去最多の2400通を超える応募が世界中から集まった。「プライズ立ち上げ時は、このような発展を予想だにしていなかった。今では、デザインの分野で国際的にも本質的にも競える賞になった。毎年、応募数も増え、デザイナーら自身の本質やクリエイションを見極める選考もとても難しくなっている」。グランプリなど各賞の選出は6月7日に行う予定だ。

 9組のファイナリストについて紹介する。

「アーロン エッシュ」

 アーロン・エッシュは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)でメンズウエアを学んだ後、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」で奨学金を得て、セント・マーチン美術大学(CENTRAL SAINT MARTINS)で修士号を取得した。卒業前の22年、自身の名を冠したメンズウエアブランド「アーロン エッシュ」を立ち上げた。

 ロマンス感溢れるコレクションには、英EU離脱後のリアルな日常に影響された彼の審美眼が反映されている。またデザインには、伝統的なテーラリングに、ウィメンズウエアから習得したパターンやディテールを織り交ぜた。例えば、パフスカートのジーンズやホルターネックのベスト、結び目のついたパーカなど。「柔らかさやエレガントな印象のあるメンズウエアにするために、マスキュリンの原型を破壊することについて考えた。洋服の中で何が男らしさを意味するのか再定義している」とエッシュ。

「ベッター」

 ウクライナ出身のジュリー・ペリパスは、ちょうど新型コロナウイルスのパンデミックが発生したころに、ウィメンズウエアブランド「ベッター」をスタートした。しかしコロナ禍が沈静化する中で、ロシアによる自国への侵攻が始まり、ペリパスはチームの安全を守りつつも、仕事を必要とするウクライナのクリエイターを紹介するプラットフォームを作った。

 「ベッター」は「ヴォーグ・ウクライナ(Vogue Ukraine)」の前ファッション・ディレクターの考案により、古着やデッドストックの素材を再利用するアップサイクルのシステムを採用。初コレクションは、彼女がファッションショーの会場で着ていた特徴的なオーバーサイズのスーツにフォーカス。その後は、ビンテージのタオルから作ったシャツや再構築したTシャツなどカジュアルなアイテムも展開している。「アップサイクルですごくセクシーになれることを、多くの人に知ってほしい」とペリパスは語った。

「バーク アクヨル」

 テーラーを営む父を通してファッションに触れてきたバーク・アクヨルは、俳優を目指していたが、進路を変更してサンディカ・パリクチュール校(Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne)へ入学。「クリスチャン・ディオール」(現「ディオール」)や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」で経験を積んだ後、コロンビア人デザイナーによる「エステバン・コルタサル(ESTEBAN CORTAZAR)」に携わる。19年に独立し、自身のユニセックスブランド「バーク アクヨル」を立ち上げた。

 アクヨルは、セクシーさと厳格性のあるクリエイションを提案する。シグニチャーであるメタルのハンドビスチェは、ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)やケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)、エリザベス・デビッキ(Elizabeth Debicki)らが着用し、話題を集めた。彼にとって、ファッションを通してルールに挑戦することは、変化を起こす方法だという。「私は性別で決められた服はほしくない。着心地がよく、着ていて自分らしくいられるかが重要だ。自分自身で選んだ服にこそ、ジェンダーがある」。

「ディオティマ」

 ジャマイカ出身のレイチェル・スコットは、イタリアのマランゴーニ学院(Istituto Marangoni)でファッションデザインを学んだ後、「コスチューム ナショナル(COSTUME NATIONAL)」でアシスタント・デザイナーとしてキャリアを積んだ。渡米後は、「J.メンデル(J. MENDEL)」や「エリザベス アンド ジェームス(ELIZABETH AND JAMES)」「レイチェル コーミー(RACHEL COMEY)」 で働く。その後、新型コロナウイルス拡大によるファッション業界の閉鎖がサプライチェーンの最下層にいる労働者へ与える影響を目の当たりにしたことから、パンデミックの最中にウィメンズブランド「ディオティマ」を立ち上げた。ニューヨークのブルックリンで活動する彼女は、母国ジャマイカの伝統的なかぎ編みの技術を持つ女性たちに仕事を与えた。

 「ディオティマ」の名前は、古代ギリシャの哲学者プラトン(Plato)による「エロス(愛)」をテーマにした著書「饗宴(Symposium)」に登場する“マンティネイアのディオティマ(Diotima of Mantinea)”に由来。ダンスホールやジャマイカのルーツにインスパイアされながら、職人技とマニッシュで官能的なスタイル、洗練されたテーラリングのバランスを生む。「ジャマイカ人として歴史や経験を踏まえつつ、未来を見据えた、魅惑的で繊細なビジョンを持ったカリビアンスタイルを探求している」とスコット。

「ルアール」

 丸いトップハンドルが特徴のハンドバッグ“アナ(Ana)”が昨年ヒットし、2022年度「CFDAアワード(CFDA Awards)」アクセサリー・デザイナー部門を受賞したラウル・ロペス。自身のブランド「ルアール」は、デュア・リパ(Dua Lipa)やジュリア・フォックス(Julia Fox)らセレブリティーにもファンがいる。シェーン・オリバー(Shayne Oliver)と共同で設立した「フッド・バイ・エアー(HOOD BY AIR)」では、ドミニカ移民だった幼少期の経験とマンハッタンに住む上流階級の豪華さへの憧れといったアイデアをコレクションに落とし込んできた。「移民の両親の元、ブルックリンで生まれたラテン系ゲイの私にとって、『ルアール』は私のような子どもや、世間に存在を無視され、自分自身を見つめようとしている人々へのラブレターである」。

「マリアーノ」

 ルカ・マリアーノは、イタリア・ボローニャにあるリベラ芸術大学(Libera Universita delle Arti)でファッションデザインを学んだ後、ミラノでアレッサンドロ・デラクア(Alessandro Dell’Acqua)のチームの下、経験を積む。13年にボローニャに戻り、デザイナーのマヌエラ・アルカリ(Manuela Arcari)とともに「テル エ バンティーヌ(TER ET BANTINE)」のファッションラインを手掛けていた。17年にアルカリ=デザイナーからライセンスを得て、自身コレクションを立ち上げる。

 彼が培ったテーラリング技術やカラーセンス、グランジを取り入れたテイストが特徴の「マリアーノ」は、細部にこだわったビンテージテイストを貫いてきた。今では手の届くラグジュアリーを提供するブランドとして、世界60店舗ほどで販売されている。昨年12月には、ファッションビジネスの事業成長を促進する目的とした新進企業、アンダースコア・ディストリクト(Underscore District)が「マリアーノ」の少数株を取得。ミラノで最も注目を集めるメンズブランドの1つだ。

「ポーリナ ルッソ」

 ロンドン発の「ポーリナ ルッソ」は、カナダ人デザイナーのポーリナ・ルッソが20年に立ち上げた、ニットウエアにフォーカスしたブランド。昨年、セント・マーチン美術大学卒業生のフランス人デザイナー、ルシール・ギルマードが共同デザイナーとなり、フォークロアのテイストやコンテンポラリーなカッティング技術を加えた。

 アップサイクルで型破りな素材を用いる「ポーリナ ルッソ」のアイテムは、郊外の街に漂うような、どこか懐かしい雰囲気を持つ。中でも、テレビゲーム「ゼルダの伝説」に着想を得た“戦士(Warrior)”と名づけたニットのコルセットは代表的だ。「2023 インターナショナル・ウールマーク・プライズ(2022 INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE)」のファイナリストになり、「アディダス(ADIDAS)」からカプセル・コレクションも発表した。

「クイラ」

 ジル・サンダー(Jil Sander)やフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の元で経験を積んできたヴェロニカ・レオーニ。お針子だった祖母の名前から名づけた自身のウィメンズウエアブランド「クイラ」を立ち上げ、22年春夏ミラノ・ファッション・ウイークでデビュー。サンダーやファイロから培った女性らしいアプローチに、厳格性と官能性を独自に反映させている。現在は、バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)やエイチ・ロレンゾ(H. Lorenzo)、エッセンス(SSENSE)など20カ所以上の小売りで取り扱われている。

 パリで発表した23-24年秋冬は、黒を基調にしたレイヤードスタイルを提案。「黒という色はスタイルの中でとても強く、同時にモダンな女性像を鋭く感じる。それに対してとても必要性を感じていて、私自身責任感も感じている」とレオーニ。

「セッチュウ」

 京都生まれの桑田悟史は、ファッションデザイナーになる夢を叶えるため、21歳でロンドンに移住。セント・マーチン美術大学に在学中、サヴィル・ロウにある老舗テーラー、ハンツマン(Huntsman)でテーラリングのスキルを磨く。その後、ロンドンで「ガレス・ピュー(GARETH PUGH)」、パリで「カニエ・ウェスト(KANYE WEST)と「ジバンシィ(GIVENCHY)」、ニューヨークで「イードゥン(EDUN)」、ミラノで「ゴールデン グース(GOLDEN GOOSE)」といった数々のブランドで経験を積む。

 その後、20年に自身のブランド「セッチュウ」を始動する。「和洋折衷」の言葉に由来した同ブランドは日本と西洋の概念をコンセプトに、折り紙のような構造を取り入れた折りたためるジャケットなどを考案。デザインに対する優れた知識と異文化や工芸へのリスペクトをブランドの根底にしている。22年には、「フー・イズ・オン・ネクスト?(Who is on Next?)」で最優秀賞を受賞。「私はストーリーを描くデザインに最大の努力を注いでいる」と桑田。

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