ファッション

「タサキ」がフィオナ・クルーガーと導いたアートウオッチの新境地 デザインとメカニズムが完璧に融合

 ジュエリーブランドの「タサキ(TASAKI)」は2021年6月、スコットランド出身でスイス・ローザンヌを本拠に活躍する時計デザイナー、フィオナ・クルーガー(Fiona Kruger)との初のコラボレーションウオッチ“プチ スカル”と“カオス”をリリースした。発表当時はコロナ禍で来日さえ叶わなかったがこのほど来日し、「どちらの時計も、私と『タサキ』のファインアート作品。アーティストとして『時計をキャンバスに創作したもの』。世紀を超えても価値がある、どんな時代になっても誰もが共感できるモノづくりを目指した」という時計について語った。

 彼女は、「2010年ごろに時計のデザインをスタートし、13、14年から製品化している」という。今回の“プチ スカル”と“カオス”は、彼女自身の名を冠したブランドから発売した同名の時計がベースだ。

 「時計をデザインするとき、私はまず『時間とは何か』を考える。そして“プチ スカル”は、子どもの頃に3年間住んでいたメキシコの、死の到来を不幸ではなく幸福としてお祝いするお祭り『死者の日』にインスパイアされたモデル。人間の時間の有限さを象徴する『誰もが逃れられない運命である死』をテーマにした。“カオス”は、時間と共に物質がランダムに拡散していくという物理学の大原則である『エントロピー増大の法則』をテーマにした」という。

 「タサキ」とのコラボレーションでも、2つの基本テーマはまったく変わらない。だが、自身の作品とはまったく違った、よりアヴァンギャルドでインパクトがあり、エッジの効いたアート作品となった。

 同じテーマで、なぜこんなことが実現できたのか?いちばんの理由は、パールジュエラーから始まった「タサキ」を象徴する特別な素材、マザー・オブ・パール(MOP)を文字盤に採用したからだ。

 「MOPは『タサキ』のアイコンで、私とブランドをつなぐ意味もある特別な素材。『タサキ』はどこよりもデザイナーの意向を尊重してくれる、クリエイティブで先鋭的、常識にとらわれないメゾンだった。そこでMOPを美しくて光を反射する、生命を感じさせる特別な素材と捉え、どうしたら特別な魅力を備えたものにできるか試行錯誤を重ねた。MOPには『お嬢さまのためのクラシカルでお行儀の良い素材』というイメージがあるが、私はそんな使い方をしたくなかった。『どうすれば私のファインアートの考え方を時計作りに反映させられるか?』を考え続けた」。

 2つの時計には、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の歴史的な傑作の技法としても知られるデカルク(転写)技法を採用した。具体的にはハーフトーンパターンのスクリーンによるドットやラインの緻密なプリントを、スイス時計業界の文字盤作りのトップクラスに君臨するアルチザン・アーティスト(芸術的なセンスと技術を持つ職人)の手作業でMOPに施した。

 結果、2つの時計の文字盤は斬新なグラフィックパターンによる特別な煌めきを備え、これまで数多くの一流時計メゾンが製造してきたMOP文字盤のモデルとは異次元の「強烈なインパクト」を与えるものになった。特に“プチ スカル”は自動巻きのローターにもMOPによる装飾を加え、そのインパクトはシースルーのケースバックにまで及ぶ。

 さらに2つの時計を「ひと目観たら忘れられない、鮮烈なインパクトのあるファインアート」にしているのが、一流ムーブメントメーカーがこの時計のために開発・製造した機械式ムーブメントと、その魅力を見事に可視化した文字盤やケースのデザインだ。スイスでも、特にアートウオッチのデザインにおいては、「ムーブメントは黒子」として扱われることが多い。しかし「ファインアートとしての時計作り」に取り組むフィオナは、機械式ムーブメントもファインアートの大切な要素と考えて、著名なムーブメントメーカーとゼロから開発。しかもその魅力を積極的に「見せる=魅せる」デザインを追求した。

 「機械式時計のメカニズムは、アルチザン・アーティストの手で作られる文字盤やケースなどと同じくらいに美しいもの。デザインにあたってはどちらの魅力もアピールしたいと考えた」。“プチ スカル”も“カオス”も、文字盤の一部はくり抜かれ、機械式時計の内側のメカニズムは可視化された。たとえば“プチ スカル”の左側の目は時計の動力源である主ゼンマイで、リュウズを使ってゼンマイを巻くたびに動く。さらに右側は時を刻むテンプで、こちらは常に規則正しく動いている。そのためスカルの目は、まるで瞬きをしているよう。“カオス”も、ムーブメントの「動く部分」が可視化されている。

 「ファインアートとしての時計作り」という考えに基づいた独自のアプローチは、ケースのデザインにも貫かれている。「私が作る時計のケースは、ケースであってもケースとしてデザインしていない。絵画におけるフレームのように重要な要素」とフィオナ。彼女のこの言葉を象徴するのが、“プチ スカル”のケースベゼル(外周部)だ。ベゼルはケースの印象を決定付ける要素のひとつ。スポーツウオッチではデザインの力強さに大きく関わる部分であり、あえて幅を広くしたり、特別な素材や加工を採用したりでインパクトを与える。ところがこのモデルのベゼルは、見えないほど薄い。

 「ケースメーカーからは『ベゼルはもっと厚い方が良いのでは?』と言われたが『軽く目立たないデザインに仕上げるには、この薄さでなければ』と、妥協しなかった」。「常に素材とデザインの必然性を自問自答している」と語る彼女は、どこよりも自由なクリエーションを認め、時計作りに積極的な「タサキ」との今後のコラボレーションで、さらに新たな世界を見せてくれるに違いない。

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