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柳井康治取締役に聞く「ユニクロがスポーツに力を入れる理由」 スウェーデン選手団との契約をパリ五輪まで延長

 ユニクロがスポーツを切り口にしたマーケティングや社会貢献に力を入れている。先日は、同社のグローバルブランドアンバサダーを務め、東京2020パラリンピックで金メダルを獲得した車いすテニスの国枝慎吾選手に、ファーストリテイリングと柳井正会長兼社長から報奨金1億円を贈ったことが話題となった。また、東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京大会)期間中に、ユニクロロゴのユニフォーム姿で活躍していたスウェーデン代表選手団の姿を記憶している人も多いだろう。それ以外にも、元サッカー日本代表内田篤人選手を起用した子ども向けサッカー教室などにも協賛している。スポーツ関連の取り組みを増やすことは、ブランド・企業のあり方や商品にどうつながっていくのか。柳井康治ファーストリテイリング取締役に聞いた。

WWD:東京大会ではグローバルブランドアンバサダーの国枝選手やスケートボードの平野歩夢選手の活躍が印象的だった。改めて大会を振り返ると。

柳井康治ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員(以下、柳井):ユニクロは長らく車いすテニスのツアーをサポートしており、国際テニス連盟とパートナーシップを結んでいる。それによってテニス競技だけは会場で観戦する機会があったが、観戦して感じたのは、選手の素晴らしいパフォーマンスは言葉や国境を超えて、人を興奮させたり、感情を揺さぶったりする力があるということ。ボランティアスタッフの方が大会運営を献身的に支えていたことも感動的だった。人が会場に出入りする度に丁寧に挨拶を繰り返していて、日本人として誇らしい気持ちになった。

WWD:スウェーデン選手団には公式ウエアを提供し、イベントなども一緒に行ってきた。大会前には「このプロジェクトを通して社会貢献のあり方を模索する」と柳井取締役は発言していたが、その意図は。

柳井:スウェーデンでは子どもたちにスポーツの楽しさを伝える“ドリームプロジェクト”というイベントを実施し、そこにアスリートにも来てもらっている。スポーツは言葉が通じなくても、障がいがあっても、それを乗り越えてエモーショナルになる瞬間を作り出すことができる。自分ではできなくても、プロのアスリートのすごいプレーを見れば感動や憧れが生まれる。子どもたちのそんな瞬間にユニクロの服が寄り添えるということは、われわれも国境や人種、性別といった差異を越えていけるということ。そこには非常に大きな可能性がある。

WWD:今はファッション小売業であっても、ただ服を売っていればいいという時代ではないということか。

柳井:ファッションの企業かどうかというよりも、何かしらの経済活動をする企業や団体である以上、自分たちの本業だけをやっていればいいということではない。環境問題や紛争などで、今は地球自体が存続できるかどうかというような状況にある。事業活動をする中で環境などには負荷をかけている。だからといって、生きていく以上それをやめるわけにはいかない。事業活動をしていくからこそ、その分地球や社会に貢献もしていく。一見矛盾しているようだが、その両方を成し遂げるために努力することが大切だ。

スウェーデン選手団のウエアはサステナビリティを追求

WWD:スウェーデン代表選手団との取り組みは、19年にパートナーシップ締結が発表された時点では22年の北京冬季大会までの予定だった。それがこの度、24年のパリ大会までの延長されることに決まった。

柳井:スウェーデン代表選手団や関係者とは、東京大会に向けて頻繁にやり取りを重ねてきた。コロナ禍前の19年には現地に行って採寸し、どんな機能が必要かを各競技団体に尋ねて回った。選手からニーズを聞き取るヒアリングセッションも何度も行った。実際に大会が開幕してからも、酷暑を受けて「半袖ではなくノースリーブにしたい」「他の競技の選手がかぶっていた帽子に変えてほしい」といった要望が出て、日々それに対応していた。そうしたやり取りに満足してもらえたことが、延長につながったと思う。

WWD:プロのアスリートに競技用ウエアやユニフォームを提供するという点で、技術的に苦労した部分もあったのでは。

柳井:02年のソルトレイクシティー冬季大会、04年のアテネ大会では日本選手団の公式ユニフォームを手掛けた経験があったし、われわれは普段からユニクログローバルアンバサダーであるアスリート6人と取り組んでいる。各ジャンルの一流選手である6人はウエアに対するこだわりも強く、高いレベルの要求が届く。彼らとやり取りを重ねてきたので、スウェーデン代表選手団から「こんなことまで気にするのか!」といったような要求が届いたということはなかった。例えば、トレーニングによって数ヶ月後に筋肉がどれくらい大きくなるかといったことは、選手よりわれわれの方がよく知っていたりもする。

 そういった中で今回最もチャレンジだと感じたのは、サステナビリティの面だ。スウェーデンオリンピック・パラリンピック委員会は、クオリティ、イノベーションと共にサステナビリティをキーワードとして掲げており、われわれもそれをどう実現するかを考え抜いた。単に再生素材を使えばいいというものではなく、縫製せずにボンディングにすれば布の端切れを減らすことができる。染色や裁断なども含め、総合的にサステナビリティをいかに達成するか。技術的には既に存在しているものだが、それらの組み合わせに腐心した。

WWD:そのようにアスリートの声を反映して生まれたデザインや技術は、ユニクロの日常着にはどう還元されるのか。

柳井:高温多湿の東京大会で快適に過ごすことができ、プレーもできるウエアを追求したことは日常でも役に立つだろう。また、「エアリズム」やスエットなどの既存商品も、トレーニングの際などにスウェーデン選手団に着てもらった。それにより、われわれの通常商品が選手のパフォーマンスを妨げないクオリティだということの証明にもなった。

 東京大会での取り組みに限らず、アンバサダーの声を生かした商品開発も行っている。代表的なのが、プロゴルフのアダム・スコット(Adam Scott)選手と開発した「感動パンツ」だ。薄くて軽くて伸縮性があり、シワにもなりにくいパンツがあれば、オフィスでも出張でもカジュアルシーンでも当然便利だとお客さまに思ってもらえる。「感動パンツ」は、スコット選手が求めたゴルフをしているときにビシっときまって見えて、スイングもしやすく、転戦するときにも畳んで持ち運びがしやすいパンツ、という発想が原点になっている。同様に、平野歩夢選手とは「ハイブリッドダウン」を一緒に作っている。スノーボードで1ミリでも高く飛べて、動きを邪魔せず、暖かいジャケットを追求したら、都会の生活の中でも役に立つアウターになった。

お客さまのことを考えれば、スポーツに対応するのは必然

WWD:スポーツ切り口のマーケティングは、今後も強化していくのか。

柳井:スポーツマーケティングを強化しているというイメージを持っていただくことはありがたいが、われわれはスポーツだけに特化しているわけではない。ユニクロには究極の普段着を意味する“LifeWear”というフィロソフィーがあって、お客さまの24時間365日に寄り添うことを目指している。今の時代は生活の中にスポーツが自然と組み込まれている。だから、お客さまの生活を支えようと考えれば考えるほど、スポーツにも対応することは必然となる。それを分かりやすく伝えるために、テニスならロジャー・フェデラー(Roger Federer)選手や国枝選手、サッカーなら子ども向けサッカー教室を一緒に行っている内田篤人選手と組む、という形になっている。

WWD:スウェーデン代表選手団との契約はパリ大会まで延びたが、日本を含む他国の選手団とも契約する可能性はあるか。

柳井:スウェーデン代表選手団とは、向かっていく先が一緒だったからよいパートナーシップになった。ユニクロだけが取り組みたいと思っても、またその逆でもうまくはいかない。われわれと組みたいと思っていただける内容と、われわれの気持ちが合致すれば、日本に限らずお受けしたい。実際、東京大会でもスウェーデンだけでなく、南スーダンの選手団に公式ウエアとしてユニクロを着ていただいた。南スーダン選手団は群馬・前橋で合宿をしていて、市役所の方からウエアの提供に関してお話をいただき、選手に店頭で商品を選んでもらった。パートナーシップは思いや志が一致することが大事で、それが重なるなら取り組みにつながると思う。

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