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政治・社会問題を扱うファッションメディアが増加 読者からの期待に応えて

 社会が大きく変わった2020年、ファッションメディアもこれまでになく政治的及び社会的問題に対する立場を示すようになった。新世代の読者は自分たちが日常的に読む媒体に多くを期待し、その結果、媒体は社会不安や法律、人種差別、環境問題といったより幅広いトピックを取り上げるようになっている。

 例えばイギリス発のファッション&カルチャー誌「i-D」のウェブサイトを見てみると、一般的なファッションニュースに加えて、ウガンダの若者がどのように独裁政権に向き合っているかといった話題から、ウクライナのカムガール(オンライン配信を行うモデル)の生活や、生まれつき顔に跡のあるナイジェリア出身の活動家が自身の経験を語るコラムまでを扱っている。

 またベルリンを拠点にするストリートウェブメディア「ハイスノバイエティ(HIGHSNOBIETY)」は、20年末に発覚したデザイナーのアレキサンダー・ワン(Alexander Wang)の性的暴行疑惑について掘り下げ、ファッション業界が十分に取り上げていないことに疑問を投げかけた。コンテンツはほかにも、家庭内暴力を“女性の問題”とすることの間違いや、ポーランドで人工中絶を違憲とする判決が下されたことを受けて、アーティストのバーバラ・クルーガー(Barbara Kruger)によるプロチョイス(人工妊娠中絶の選択権を求め、合法化を支持する派)メッセージ「あなたの身体は戦いの場(Your Body is a Battleground)」を扱ったものなどがある。

 11年に創刊したロンドン発のファッション・カルチャー誌「ハンガー(Hunger)」の創設者であり写真家のランキン(Rankin)は、ファッションを超えたトピックを扱うことが同誌に期待されていることだと考えているという。そして、「これまでも軸となるコンテンツを幅広く探求してきたし、今後もそうしていくだろう。このアプローチはサイトのアクセスにも現れていて、多くのユニークユーザーがセレブリティーのインタビューからフォトエッセイ、解説記事までさまざまなコンテンツをクリックしている」とコメント。「未来は今この瞬間に存在していて、私たちがどこに導かれているかを知るためにそこに目を向けようと思わなければいけないだけだ。未来を変えるためには、今への向き合い方を変えるよう努力しなければいけない。新型コロナウイルスのパンデミックは世界を席巻し、これまで体験したことのない集団ヒステリーを生み出している。自分を振り返る時間も多く与えられ、おそらく私たちの物事への取り組み方や私たちが消費するものを変えている。これまで以上に多くのコンテンツへのアクセスが可能になり、媒体は紙でもデジタルでも提供する編集コンテンツの幅を広げている」と語った。

 ファッション学生を読者に多く抱える「1 グラナリー(1 GRANARY)」は、ファッションコンテンツを教育やサステナビリティ、政治意識といったより大きい文脈で語ったときに読者のエンゲージメントが高くなる傾向にあるという。同媒体でオンライン記事を手掛けるナターサ・スタモウリ(Natassa Stamouli)は、「20年は、このアプローチに対する強い需要があった。世界中のファッションスクールで何が起こっているかを掘り下げ、業界全体に疑問を投げかけることがわれわれの責任だと感じている。クリエイティブな学びがどのようにパンデミックの影響を受けるか、また新興デザイナーや中小企業、人々がどのように立ち向かっているかを報道し続ける」と述べた。

 同じく、ファッションを大きな文脈を取り上げた際に特に反響を得ているのは、ロンドンのファッション・カルチャー誌の「ザ・フェイス(The Face)」だ。同誌は19年の復刊以来、ファッションや音楽、エンターテインメントといったカルチャーを、政治、環境、人種、格差といった幅広い議題と結びつけてきた。21年現在ウェブサイトには男性のプラスサイズの需要やパンデミックが人々の精神的健康に与える影響といったコンテンツが並ぶ。また誌面では、コロナ禍で最前線に立ち続ける配達員やスーパーで働く人々を取り上げ、表紙に起用した。

 ジェイソン・ゴンザルベス(Jason Gonsalves)「ザ・フェイス」ブランドディレクターによると、業界の中にはこういった考え方への理解に苦しむ人も一定数存在するという。しかし同誌ウェブサイトのユニークユーザーは400万に達し、約600万のページビューを生み出している。競合他社と比較してサイトの滞在時間は7〜8倍だと明かし、今後も姿勢を変えることはないという。

 このようなファッションメディアの変化が、“表面的な時代”の終わりを表していると分析するのは、ドイツのファッション雑誌「アハトゥン・モード(Achtung Mode)」を創設したマルクス・エブナー(Markus Ebner)だ。「私たちは世界全体で深刻な問題を抱えていて、読者は信頼でき、意見を持つメディアを求めている。それは、規範となるようなジャーナリズムやファッションストーリー。私たちの仕事は訓練が必要な職業であるにもかかわらず、インフルエンサーの台頭でそれが変わった。しかし、パンデミックによって中身のない惰性が露呈することになった」と語る。

 一方、中国では報道や出版に関する規制が多く、メディア報道の傾向に違いが見られる。過去42年間で経済的に急成長を遂げた中国では、政治的およびデリケートな問題を公に語ることが法律に違反する可能性を持つ。中国のファッション&アート誌「ルージュ・ファッション・ブック(Rouge Fashion Book)」のリリー・チャウ(Lily Chou)編集長によると、多くの人がポジティブなものや、癒されるコンテンツを求める傾向にあるという。「中国の生活状況が向上しているので、人々はより質を高める方法を模索している。食べ物や旅行、音楽、ペット、もしくは甘い言葉など、笑顔になるものや、心が温まるコンテンツが人気だ」と述べた。

 “グリンプス(Glimpse)”と題した最新号では、20年の状況を基に将来の予測を試みている。表紙にはファン・ビンビン(范冰冰)、ジョウ・ジェンナン(周震南)、小松菜奈を起用し、それぞれがノスタルジアやタイムトラベル、回想を表現している。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

経営者の皆さん、“脱炭素”を語れますか? 電力と水とファッションビジネス

6月21日号の「WWDJAPAN」は、サステナビリティを切り口に電力と水とファッションビジネスの関係を特集します。ファッションとビューティの仕事に携わる人の大部分はこれまで、水や電気はその存在を気にも留めてこなかったかもしれません。目には見えないからそれも当然。でもどちらも環境問題と密接だから、脱炭素経営を目指す企業にとってこれからは必須の知識です。本特集ではファッション&ビューティビジネスが電力…

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