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デジコレでドタバタ対談 「ディオール」の荘厳さに心打たれ、実在のスパイが着想源の注目ブランド「テベ・マググ」に感嘆

 2021年春夏のコレクションサーキットもいよいよ最終章、パリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)に突入。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしていきますが、オンラインでも対談レビューという形で、引き続き“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は、パリコレ2日目(9月29日、現地時間)をリポート! 長年コレクションを取材してきた「WWDジャパン」の向千鶴編集長と、コレクション対談初参戦の皆合友紀子がリポートします。

まるでSF映画!な「マリーン セル」の映像でスタート

皆合:2日目のトップバッター「マリーン セル(MARINE SERRE)」はデジタルでの発表でしたが、キーキーと耳障りな不協和音とともに映像がスタート。真っ白な空間に全裸でオペ台の上に横たわる性別不明の人造(?)人間、その周りにゾロゾロと人々が集まり手術のような行為を始めるシーンは、SF映画のオープニングのようでした。

向:13分間目が離せなかった。環境問題か、コロナと生物多様性と人間か、メッセージが何であるかは映像を見るだけじゃわからないけれど、「マリーン セル」が作るものだからそういったことなのだろうと素直に受け止めつつ(笑)、それ以上に無条件で引き込まれる世界観です。リアルのショーでは作れない、映像だから表現できる内容ですね。で、どんなストーリーだったんだろう。

皆合:オープニングでオペ台の上に乗せられていた人物が、オン・オフのスイッチ代わり(?)のネックレスをつけられて命を吹き込まれ、実験室、自然界、水の世界とシーンを移動し、さまざまな出会いをしながら旅をするストーリーでした。最後はネックレスを外され、またオペ台の上に乗せられて終了。タイトルの「AMOR FATI」は、ラテン語で“運命を愛する“という意味だそうです。「人生におけるあらゆる喜びと逆境を取捨選択することなく、積極的に受け入れることへの“招待状”」とセルが言うように、現在のコロナ禍の状況や環境問題など、良いことも悪いことも全てを受け入れ、自分たちの運命を愛そうということなのかなと私も受け止めました。

向:ルックは、体を守るプロテクターの要素を組み込んだスポーティーなアイテムもいいけど、個人的には最初に登場した「改造する側の人間」が着ていた「マリーン セル」柄のレトロなセットアップが気になりました。「マリーン セル」の服は体を鍛えている人の方が似合うと思う。このセットアップも鍛えた体で着たらとてもカッコいいと思う。

皆合:確かに! 筋肉美の映えそうなフィット感のある細身のデザインが多かったですね。あと、忍者ルックも気になりました。どうやって着こなせばいいんだろう……?など思いながら見ていました(笑)。

原点回帰の「アンリアレイジ」 テーマは服と家をつなぐ“ホーム”

皆合:「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は、“ホーム“というテーマのコレクションをデジタルで発表しました。◯△□のコレクションの延長線ということでしたが、今回はデザインの構成やパターンも3Dでシミュレーションを行いながらリモートで制作したとか。開放感のある富士山の麓の緑の中にカラフルな色使いのコレクションが映えていて、見ていて明るい気持ちになりました。

向:小さな家がそのまま服になるとは! 時代と共鳴したコレクションでしたね。「家が一番安心できる」や「一人っきりになれる家がほしい」は世界中の人が今抱いている心理だと思うから。「アンリアレイジ」のショーはコンセプチュアルなんだけど、ユーモアもあるから重いメッセージでも受け止めやすくて好き。「あ、家を2枚レイヤードしている」とか「あ、モデルが中で寝ちゃった」とか、映像に向かって突っ込みどころを残してくれるところがいいね。

皆合:三角錐のインビテーションもかわいかったです!ハリ感のある素材については、森永さんが「殺菌効果のある銅繊維をベースに、メディカル分野で用いられている抗ウイルス繊維と抗ウイルス加工を用いて、結界のような新しいテキスタイルを作った」と言っていて、こんなスタイリッシュな殺菌・抗ウイルス服とか喜んで着ちゃいます(笑)。

向:これらが実際に店で販売されるリアルクローズとしてどう落とし込まれるのかがカギですね。ヘッドピースならぬ“ヘッドアーキテクト”は建築家の隈研吾さんによるデザインで、インテリアのランプシェードにもなるとか。ニュースが盛りだくさんです。

皆合:映像の中でモデルが身につけていたアクリル樹脂の中にドライフラワーを閉じ込めたクリアなハンドルのバッグやネックレスなどのアクセサリーは、今シーズンデビューの新ブランド「アンエバー(AN EVER)」と発表がありましたね。「アンリアレイジ」しかりですが、今回も“A NEVER(一瞬)”と“AN EVER(永遠)”のワードの掛け合わせたとか、言葉選びのセンスが素敵すぎます。

生歌が響く中、“視覚的”な詩で魅せた「ディオール」

皆合:向さんは、パリに赴いている欧州通信員の藪野さんと中継でつないで、ライブ配信番組「着点」に出演しながら見ていましたね。現地の映像を見ていると、会場の内外共にやはり従来のガヤガヤにぎやかな感じはなく、とても静かでした。現地に赴かないパリコレは10年ぶりとのことですが、遠隔で見ていてどうでしたか?

向:薮野さんが「ショー会場では何を見るべきか」を分かっているので、彼のスマホを通じて見るライブ映像は視点が的確で満足度が高かったです。また、ユーチューブの視聴者がライブでコメントをくれるので一緒に見ている感があり楽しい!コレクションは黙って一人で見るより皆でワイワイ話しながら見る方が情報量も多くて盛り上がることが、デジタルコレクション取材を始めてよくわかりました。確かに現地での盛り上がりはいつもの数分の1だけど、デジタルの先でこうやって盛り上がっている人がこれまで以上にいるならそれは新しい一歩だと心底思うな。

皆合:真っ白な外観からは想像できない、ステンドグラスの大聖堂をほうふつとさせるショー会場が荘厳で素敵でした。一見厳かな雰囲気だけれど、近くで見ると実はKISS風メイクの女性がいたり、雑誌から構成されたステンドグラスであったりと、遊び心があるころもさすが粋だなぁと。イタリアのアバンギャルドな実験芸術を象徴するアーティスト、ルチア・マルクッチ(Lociana Marcucci)の作品に着想を得たとのことでしたが、なぜ大聖堂だったのでしょう?

向:一言で言えば、“愛”なんだと思う。ベタだけどこれ以上適切な言葉が見つからない(笑)。コロナにより分断されたカルチャーや人とのつながりを集めてつないだステンドグラスに私には見えました。ロマンチックすぎるかな?コレクションは、ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)やスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)といった書くことを仕事とする女性たちがインスピレーションとのことで、彼女たちの写真を見てからルックを見ると“なるほど”と思います。メンズシャツのアレンジなどどこかキリリとしたスタイルが印象的です。

皆合:ルックにはオリエンタルな印象を受けました。色使いもナチュラルカラーや優しい色味のものが多かったですね。柔らかい素材で、体にフィットしないゆったりとリラックスしたデザインも目立ちました。

向:日本のためにデザインされた1957年秋冬コレクションのシルエットを再解釈したそうで、羽織のようにゆったりしたシルエットが多かったですね。

「コシェ」はショー後の発信力の弱さが残念

向:「コシェ(KOCHE)」はリアルのショーを開いたことを薮野通信員に聞いたけれど、パリコレ公式サイトには動画が上がっておらず、ブランドオフィシャルのホームページやインスタグラムにも動画はなし。インスタのストーリーにはスマホ撮影と思われる動画が数本上がっていたけど……せっかく人気ブランドが公式スケジュールでショーを開いたのに世界に伝えないのではもったいないなあ。ショーは公園を会場に、バグパイプの演奏がリードする形でモデルが歩いたみたい。いつものようにレース×スポーティー、そして得意の羽飾りも随所に。風に揺れる羽根がきれいだったんだろうな。デザイナーが囲み取材を受ける動画もストーリーに上がっていて、彼女がつけているレースのマスクがかわいかった。

自国の歴史を掘り下げた「テベ・マググ」 スパイの指紋が水玉柄に

皆合:「テベ・マググ(THEBE MAGUGU)」の短編フィルムはコンセプトが斬新でしたね! 何が始まったんだろう?と見入ってしまいました。今シーズンは、テベの出身国である南アフリカのスパイコミュニティーに触発されていて、南アフリカの旧アパルトヘイト政府に協力していたと自白した女性スパイに対して彼自身が行ったインタビューからヒントを得ているとか。

向:今シーズンは自分のルーツをたどって掘り下げるデザイナーが多いけれど、南アフリカ出身のテベが自国の歴史を掘り下げるとはこういうことなのだとハッとしました。実は最近、南アフリカの故ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)元大統領の伝記を読んだばかりで。伝記にモデルの姿がオーバーラップしてモノクロ写真に急に色がついた感覚に陥りました。

皆合:映像内のナレーションはジャーナリスティックな内容だけれど、モデルがまとっている服はタイトなテーラードピースやフェミニンなドレスまでさまざま。でもそれが不思議とマッチしていましたね。こういうコレクションの見せ方もあるのか!と固くなった頭をなぐられた気分でした。

向:そうですよね。ベースのテーラードやドレスのラインがきれいだから、インスピレーションが効いている。ドレスの水玉柄は実在する自白したスパイの指紋をスキャンしたものなのでしょう?しかも本人がコレクションのためだけに指紋を提供してくれたとか。

皆合:すごい。最新コレクションだけでなく、自分のルーツである南アフリカについても知ってほしいという思いが込められているようにも感じました。個人的には、女性がプリントされたネクタイ付きシャツワンピ&ニーハイブーツのルックと、ドットのアシンメトリーなスカートが気になりました。

向:告白をする女性スパイを撮影した本物の映像を使ったプリントですよね。南アフリカ司法部がテベに提供したそう。リリースには女性スパイの言葉で「スパイは私たちの周りにいて、彼らは私たちの先生や家族や友人でもあるのです」とあります。何とも重い。激しい人権運動の中では何が正義で何が罪か、部外者にはわかりようもない複雑な人間関係も多いのでしょう。まさかパリコレをきっかけにこんなことを考えるなんて思いもしませんでした。

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