
旅の質が重視される今、ホテルが提供するのが空間やサービスだけではない。その土地の文化やコミュニティーに深く触れる体験=エクスペリエンスを届けるインターコンチネンタルのようなホテルも増えている。コンシェルジュを中心に培った人脈や信頼により実現した「ブランド体験」を国内4つのホテルでこの秋から新たに展開している。その土地の文化や伝統を次世代に伝えるプロフェッショナルな人々が案内したり、地元との交流を通したりして、普段開くことのない扉を開く体験だ。
ラグジュアリーホテルだからこそ実現できる絆を築く
インターコンチネンタルが新たに展開する体験プログラムが凄かった!地域の文化やコミュニティーと密接に手を取り合い、その地域の本質に触れることができ、それぞれのホテルが培ってきた地域とのネットワークやインサイダーならではの知見を活かした唯一無二のコンテンツだ。一般には開かれていない特別な扉を開け、知的好奇心を満たす魅惑的な世界へと導く。
いずれもただ見学するような受け身な体験ではなく、参加型なのが特徴だ。中にはなかなか出会うことができない各分野のスペシャリストとともに行動し、交流できるプランも用意している。世界初のラグジュアリーホテルのパイオニアとして、80年にわたる実績があるインターコンチネンタルならではの体験だ。ブランドの核となる「Insider Expertise(心遣いが光るインサイダー)」、「Intentional Flexibility(心を満たす柔軟性)」、「Incredible Occasions(心に刻み込まれるひととき)」の3つのうち、「Insider Expertise」を基盤に開発された、新しい扉を開くこの「ブランド体験」は東京、大阪、札幌、別府の4ホテルで9月から展開されている。
例えばANAインターコンチネンタルホテル東京では、現役歌舞伎役者と過ごす 「歌舞伎と美食のプライベートダイニング」を実現。口上や演じ分けの実演、梨園の奥深いストーリーをひも解く解説により、歌舞伎文化に触れるプログラムだ。歌舞伎役者は登壇するだけで終わらず、会食中も交流できる。
ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパで掲げるのは創業222年の酒蔵「井上酒造」との酒造りのプログラムだ。季節に応じて田植えや稲刈り、麹造り、仕込みなどの工程を体験。普段非公開のエリアに入り、実際に携わることで、大分の自然や歴史が育んだ酒文化への理解を深め、土地の味覚を活かした会席と日本酒とのペアリングも堪能する。インターコンチネンタルホテル大阪が企画する「プライベートリバークルーズ&ダイニング」では水都・大阪をナイトクルージングする。
案内人はジビエ猟師であり、ソムリエの平優里さん
今回、私はインターコンチネンタル札幌の「ジビエハンターと巡る空と大地のガストロノミー」を体験。ジビエハンターであり、北海道産ジビエのレストラン「れざん」のオーナーソムリエでもある平優里さんとともにヘリコプターで上空へ。狩猟文化や自然との共生への理解を深めた後は、本プログラム限定のジビエ料理のランチコースと平さんがセレクトしたワインをペアリングで味わうというもの。
まずは空からハンティングポイントを眺めるべく、ヘリポートへ。ここから約30分の遊覧飛行を楽しむ。ハンターのスタイルでさっそうと現れた平さんがとにかくかっこいい。上空から狩猟のフィールドを見渡し、北海道の自然環境や狩猟文化について解説する。私が参加した時にはヘリコプターの整備の事情により、新千歳空港から洞爺湖の近くのヘリポートへ直行しての搭乗だったのだが、通常は札幌市内のホテルから車で20分程度の丘珠空港から飛行する。天候などの諸事情により、ヘリポートが変わる場合もあるそう。上から見る洞爺湖の湖畔も美しかったが、札幌の街を見下ろすのも心ときめくだろうな。飛行中はそれぞれヘッドホンとマイクを通して会話。パイロットも操縦しながら、地形についてガイドしてくれ、なかなか濃密なフライトとなった。
今回のハンティングツアーでは札幌から1時間40分ほどの洞爺湖町周辺を巡った。ハンティングの時期は獲物が何かによって各地を転々とする。このあたりは鹿を狩る目的で行くことが多く、上空からは林道なども見下ろせる。ビーツの畑があるから動物が集まる、射程圏や獲物によってライフル銃か、散弾銃と使い分ける、などさまざまな裏話を聞きながら周遊する。空から見ると意外と住宅街にも近いことに驚いた。大自然の中でのハンティングだけに、崖から車ごと落ちそうになったり、遭難しそうになったり、鴨を拾おうとして冬の池に落ちたことも、などの苦労話に機内は湧く。マイナス30度まで冷え込む冬の狩りでは車内の暖房が全開なのにペットボトルが凍ってしまったり、かじかんだ手を獲れたての鹿肉で温めたりするのだとか。過酷!
ヘリ上空から見下ろしながら、ジビエ文化の奥深さを知る
このようなヘリコプターのセミプライベートツアーは初めて。観光用にあらかじめ決められたルートを回ることはあっても、自家用機のように空の旅をするのは新鮮だった。そしてヘリだと移動が速い!要望によっては例えば洞爺湖で乗り、札幌へ向かうなど、ヘリを移動手段にすることもできるのだそう。
印象的だったのは駆除するためのハンティングと、食材を得るためのジビエハンティングの違いだ。おいしくいただくためにダメージを最小限にし、頭部を撃ち抜いてしとめる。つまりより射撃に精度が求められるということだ。資料として見せてもらった写真には熊や鹿、鴨などの獲物もあり、みな眠るように静かに倒れている。けれど頭を貫かれた姿を見ると、命をいただく重みを感じる。
ジビエハンティングでは森の中で血ぬき、解体などの下処理を行う。そのため猟場に行くときには獲物を吊るすためのスタンドを車に積み、瞬時にさばくのだそう。その素早い処理や臭みを消し、的確な熟成が旨味を引き出す。なるほど。そう考えると、狩猟、下処理や熟成、レストランでの提供が1つの線でつながるのは理にかなっている。実際、平さんも撃つ瞬間、予約してくれたお客さんの顔がよぎるのだとか。そして鷹匠としての顔も持つ平さん。獲ってきたお肉に喜ぶ鷹たちも頭に浮かぶのだそう。
北海道のワインをペアリングで、洗練されたジビエ料理を味わう
このプログラムでは、ヘリでのガイドツアーの後、ジビエ料理をインターコンチネンタル札幌内のレストラン「オーブラン(AuBlanc)」でいただく。今回のブランド体験に基づいた華やかなテーブルセッティングだ。ジビエハンター平さんは、ハンサムなソムリエ姿に変身。このプログラムのためのランチコースに合う北海道ワインをサーブしながら、なぜハンティングの世界に足を踏み入れたか、実際にどうすればなれるのか、どんな免許が必要かなどのレクチャーがあった。銃の種類ごとに許可が必要、同じように見えても狩りが許される鴨と禁止の鴨がいるなど、ふむふむとうなづくネタばかり。使用済みの薬莢(やっきょう)を触ってみて、その質感や意外な重さに驚く。
ロングテーブルにはジビエをイメージするフラワーアレンジメントが用意されている。まずは枝豆テリーヌとさつまいものアランチーニのアミューズで開始。ペアリングするのはドメーヌ モン 余市のMont-Cドライ2025だ。続く前菜や温菜、スープ、魚介料理や鴨コンフィ、かぼちゃのリゾット、人参のポタージュ、ホタテなど北海道産の食材が続く。爽やかな山崎ワイナリー・三笠の樽発酵シャルドネ2024との相性もよい。肉料理・北海道産蝦夷鹿の低温ローストには、札幌市内にあるという藤野ワイナリーのピノ・ノワール2022を合わせた。ソムリエ・平さんは地元、北海道のワイナリーからセレクト。ワインの特性はもちろん、土壌やどんなエリアかなどを教えてくれ、ジビエの世界が広がる。
ラグジュアリーと北海道らしい雄大さが融合したデザイン空間
滞在したインターコンチネンタル札幌は、2025年10月に開業。IHGホテルズ&リゾーツのラグジュアリーブランドとしては日本国内で11軒目、北海道では初となる。「季節を感じられる邸宅」がデザインコンセプトだけに、館内には北海道の四季や開拓の歴史を感じさせる意匠がある。邸宅の主人が選び抜いたパーソナルなインテリアを想定し、あえて整いすぎず、人の手のぬくもりや揺らぎを感じられる空間に仕上げている。9階のロビーはアイヌ文化の「カムイ(万物に宿る精神)」の思想を背景に、水・火・森をモチーフにしたそれぞれのラウンジが。白樺の木のオブジェや暖炉など、あたたかみがある。10~14階の客室や最上階のクラブラウンジにもさまざまなアート作品がある。目の前に中島公園があり、緑豊かな環境。屋内の温水プールからも公園や山々を一望でき、テラスやバーも自然とリンクする。その一方で、中心地すすきのへも徒歩圏内、札幌駅からタクシーで10分ほどというアクセスの良さがうれしい。
客室も邸宅のようなインテリア。浴槽が一番コンパクトなタイプでもゆったりとしたサイズであったり、家具のようなキャビネットにホームバーが納められたり、とにかく落ち着くのだ。
施設内、近隣で北海道グルメ・ウェルネス・観光が完結する快適さ
美食がテーマな旅だけに、夜もフルで堪能したかったが、ランチのコースがかなりしっかりしたボリュームだったので、アラカルトでスープなど軽めに。ディナー後は「ノーヴァ(Norva)」でカクテルを味わうことにした。訪れたときにはちょうどニッカウヰスキーとコラボした「ニッカハイボールパラダイス」というイベントが開催されて、自分好みのオリジナルのハイボールをオーダーできた。まずは12銘柄のジャパニーズウイスキーと3種のノンアルコール ウイスキー、ソーダやトニックウォーターなどの割り材を選ぶ。次にレモンやライム、しょうがシロップや檜などのフレーバーを選択。さらには山椒やミント、ハスカップなどのガーニッシュまでチョイスできるというもの。これは楽しい!
そして同じくわくわくするのがシグネチャーカクテル。「ライト&ダークネス(Light & Darkness)」、その名も光と闇というコレクションで、メニューとともにブラックライトが渡され、かざすと裏メニューが浮かび上がる。例えばアーモンドリキュールやホワイトココア、ミルクのカクテルに金箔をふった勝利(Victory)というカクテルの裏は、「敗北(Defeat)」。コニャック、コーヒー、クリームに炭のパウダーがかかり、表が5%なのに、裏だと18%とアルコール度数も高い。希望と絶望、出会いと別れなど気になるネーミングばかりで、いろいろ試してみたくなる。
10月末以降こそジビエに最適なシーズン。大人の修学旅行を!
猟期である10月から3月にはほぼ毎日ハンティングするという平さん。鷹匠としての顔も持ち、鷲のしろちゃんと鷹のチビちゃんも、獲物を楽しみにしているそう。1月まではクマの猟も解禁され、珍しいクマ肉も食べられる。10月末以降はどんぐりをたくさんたべてクマがふくよかになり、おいしい時期なのだそう。
ジビエの季節には紅葉で空からみる猟場はさらに美しい。葉の落ちた冬には視界も広がり、動物たちの姿が見えるかも?このヘリコプター遊覧付きプランは2人1組で66万円(税込)とかなりのセレブリティー価格だが、体験のレベルもセレブリティー級。ヘリコプターツアーをつけない、ジビエセミナーとジビエランチとワインペアリングのみのプランもある。その土地の魅力を体感する「ブランド体験」は今後も各ホテルで継続・展開していく。例えば季節により、回数を重ねるごとにコンテンツの内容が深まる可能性も。大切な人へのギフトとして体験を贈るのもよさそうだ。
今回、インターコンチネンタル ホテル&リゾーツを紹介したが、IHGグループ全体をハコ推ししたい。ラグジュアリーやデザイン性の高いキンプトンやホテルインディゴや機能性の高いホリデイ・インなど、21以上のブランドをワールドワイドに展開している。無料会員プログラム「IHG One Rewards」も秀逸で、ポイントを貯めて、うまく活用すれば旅の達人に。メンバーになると会員限定料金や、10泊ごとにステイタスが上がり、レイトチェックアウトやラウンジ利用、アップグレードなどの特典が受けられる。利用除外日なく7000以上の施設全てが無料宿泊特典の対象となるのも驚きだ。
今回の旅では空と陸でジビエを学び、スイミングやプールサイドで開催される早朝のエクササイズなども楽しんだ。中島公園のウォーキング中には公園内を歩く鴨を見て、今がチャンス?なんてハンター目線で狙いを定めてしまったり。次はすすきのの「れざん」を訪れ、ジビエ文化の理解をさらに深めたい。ジビエ、そして美容と健康――そんなテーマを掲げたラグジュアリーな修学旅行のよう滞在。新しい扉が開き、次はどこへ行こう、何を学ぼうと夢が膨らむ・・・!
◾️インターコンチネンタル札幌
住所:北海道札幌市中央区南10条西1-1-48
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