「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」は現地時間9月11日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の彫刻庭園で2027年春夏コレクションを発表した。同時多発テロから、ちょうど25年の朝である。
なぜ、この日を選んだのか。前日のプレビューで記者に囲まれたデザイナーのマイケル・コース(Michael Kors)は、少し声を落としてこう切り出した。「秘密だけれど、11は私にとって良い数字なんだ」。自身の名前もパートナーの名も11文字で、オフィスの住所は11 West 42nd Street。人生の節目には、いつも11がついて回るのだという。
「前に進み続ける。それがニューヨーク」
25年前の朝、ダウンタウンに住んでいたコースは、最初の飛行機がタワーに突っ込むのをその目で見た。翌12日に予定していたショーは、中止になった。「9月のあの日は、悪夢だった」。それでも、と彼は続ける。「もう誰もダウンタウンには住まない、トライベッカは消滅すると誰もが言った。だが今や、ニューヨークでいちばん地価の高い街だ。私たちは前に進み続ける。それがニューヨークなんだ」。
そう語るコースが全65ルックで見せたのは、重苦しい追悼ではない。黒を基調にしたニューヨークらしいリアルクローズに、さりげなく楽観を忍ばせること。そして随所に、軽快なユーモアを仕込むこと。痛みすら推進力へと変えることを試みた。
黒を基調、リーンでシャープに
開幕から続いたのは、黒を基調とした提案だ。素肌の上に直接羽織らせた細身のジャケットやロングコートは、7分袖に4つボタン、インナーは一切見せない。意識したのは、「リーンで、シャープ」なシルエットだった。黒のバルーンドレスには緑の葉と白い小花を立体的に刺しゅうし、絵筆で描いたような花柄は、手作業で裂いたシルク、オーガンザ、シフォンを一面に刺しゅうしてフリンジのように毛羽立たせた。コースはこれを「刺しゅうで絵を描く」と表現する。白と黒のストライプは直線で終わらせず、縦・斜め・横を一着の中で衝突させたり、シャーリングで有機的に波打たせたりして黒地に躍動感を与えている。
抑制の効いた色遊び
そして黒の中に光る抑制の効いた色遊びこそ、コースの言う「リアリティーのある楽観主義」の核だ。黒のワンショルダードレスは、斜めに走る一本のカーブラインを境に、鮮烈なコーラルへと切り替わり、長い裾が後ろ姿に余韻を残す。グラスグリーンのスーツやサンフラワーイエローのコート、コーラルのドレスも出てはくるが、多くは黒のジャケットの足元にイエローのミュール、次の一体にはブルーのミュールという具合に、さりげなく色を差す。「大都市では、人は黒を着る。だから、都会のワードローブにどう色を入れるか。それを探しているんだ」。
アクセサリーに散りばめたユーモア
アクセサリーにはコースらしいユーモアが散りばめられ、プレビューでその種明かしをしていた。その一つが、手のひらに収まる極小のミノディエール(クラッチバッグ)だ。「なぜスマートフォンも入らないバッグを作るのか?なぜなら、彼女に必要なのはブラックのアメックスカードだけ。電話なんて誰かに持たせておけばいいからね」。透明のトートについては「中に入れる持ち物まで美しく整えなきゃいけないね」と笑わせた。「現在のアメリカでは、バッグが透明でないとコンサート会場にすら入れないからさ」。
時の試練に耐えるモダニズムと「創設45年」を重ねる
ショーの舞台となったMoMAの彫刻庭園は、1953年に建築家フィリップ・ジョンソンが「屋根のない部屋」として設計した名建築だ。コースはプレビューで、ブロイヤー・ビル、エーロ・サーリネンのTWAターミナル、シーグラム・ビルの名を挙げ、「これらはすべて、時の試練に耐え抜いてきた。よく考え抜かれた、質のあるモダニズムは、本当に時の試練に耐えるんだ」と語った。自身のブランドも、今年で創設から45年。「私は楽観主義者だ。知性と、少しのユーモア、そして楽観を持って世界に向き合い続けていく」。
もっとも、コースが参加し続けてきたニューヨーク・ファッション・ウイークが放つ求心力は全盛期と比べれば見劣りし、ブランドを取り巻く経営環境も決して平坦ではない。親会社カプリ・ホールディングスが発表した直近の4~6月期において、「マイケル・コース」の売上高は前年同期比7.1%減の5億9000万ドルにとどまり、通期業績予想の下方修正を余儀なくされている。それでも、逆境の中で人々を鼓舞して前を向かせるコースのバイタリティーは、ニューヨークという街のDNAを背負ってきたデザイナーしか持ち得ないもの。先の見えない混沌が深まる今の時代に求められているのは、まさにそれを乗り越える楽観とユーモアにほかならない。