メンズファッション最大の見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」。その主催元であるピッティ・イマージネは今年4月、新CEOにイヴァノ・カウリ(Ivano Cauli)氏を迎えた。
31年という長期政権を築いたラファエロ・ナポレオーネ(Raffaello Napoleone)前体制の下で存在感を高めてきたピッティだが、コロナ禍を経てデジタルベースのバイイングが浸透する今、見本市そのものの存在意義が問われるフェーズにある。今年6月に開催された第110回展(27年春夏)は、出展数740社と依然スケールを保ったものの、来場バイヤーは約1万1000人と前年同期比で約3.5%減となった。
しかし、カウリ氏は「現在の数字には満足している」と前向きなトーンを崩さない。スタートアップやコンサルティング会社で培ったテック領域の知見を生かし、メンズ最大の見本市という「リアルの価値」にデジタルやAIを掛け合わせることで、その価値をさらに高められると確信しているからだ。
出展ブランドとバイヤーの精緻なマッチングや、他の見本市・ファッションウイークとの連携など、新たなビジネスモデルを描くイヴァノ氏にピッティのこれからを聞いた。
「ここに来る強い理由」を再定義する
WWD:現在の出展者数・来場者数を率直にどう評価しているか。
イヴァノ・カウリ ピッティ・イマージネCEO(以下、カウリ):まず前提として、見本市会場であるフォルテッツァ・ダ・バッソが現在改修工事中で、物理的に使えるスペースが減っている。つまり「パンデミックの影響で減った」というだけでなく、限られたスペースをどうマネジメントするかという構造的な問題がある。
その上で言えば、現在の出展者数は良い数字だと考えているし、満足している。出展740ブランドのうち45%が海外ブランドであり、これはわれわれにとって非常にポジティブな指標だ。2027年末には工事が完了する予定なので、全スペースが稼働した暁には出展者1000社を目指したい。純粋なファッションだけでなく、フレグランスや食といったカテゴリーもさらに充実させられると考えている。
WWD:その上で、新CEOとしてミッションは何か。
カウリ:まず、ピッティという組織それ自体のアップデート。経営と運営のマインドセットを、より分析的で、数字とデータを重視する方向へとシフトさせる。感覚的に「うまくいっている」と安住するのではなく、データに基づいて展示会ビジネスを分析的に読み解き、進歩させていく。
組織構造もマトリクス型に変革する。現在の組織は、私から見ると完全にサイロ化(部門ごとの孤立)に陥っている。コミュニケーション、コマーシャル、クリエイティビティーと各部門はあるが、非常に垂直的だ。私が目指すのは、AからBへ、BからCへというバトンリレー式ではなく、プロジェクトの最初から最後までを共に動かす「多分野横断型のチーム」を作ることだ。これもデジタルによって、組織に横串を通すことが必要だと考えている。
そして、「ピッティ」の見本市としてのポジションをさらに盤石なものにすること。もちろん、それが簡単なことではないとも理解している。われわれは見本市市場をリードする存在ではあるものの、ブランドは独自のショールームでイベントを行ったり、世界中の自社店舗でプロモーションを展開したりと、バイヤーや消費者へアクセスする手段は多様化している。その中で本当に重要なのは、ピッティ・ウオモが「ここに来る強い理由」と「真の価値」を明確に伝えることだ。
「バイヤーの本音」を引き出す泥臭いアプローチ
WWD:そのために何が必要か?
カウリ:バイヤーと出展者の間にある「本当のニーズ」を理解し、見つけ出すこと。われわれの出展者の選定基準は、クオリティー、プロダクト、コレクション、そして最後に「価格」がある。バイヤーは常に、市場にとっての適正価格を求めている。適正価格とはシンプルに言えば、彼らバイヤーのマージン(利益)がしっかりと確保されることだ。
現在の市場は少し混乱しており、プロモーションやディスカウントが溢れている。どれが正しい在庫量で、正しい価格なのかを判断するのは熟練のバイヤーにとっても容易ではない。そんな中でも、「これがわれわれの価値だ。値引きはしない」と言い切り、かつしっかりとした売上を積み上げるブランドが存在する。われわれはバイヤーが求めるそうした本質的なブランドをもっと誘致しなければならない。
だからこそ必要なのはリサーチだ。まず、バイヤーに「何が欲しいか」を丁寧に聞くこと。2年前から会期の3週間前に「フィレンツェに来るために、どんな準備をしているか教えてほしい」とバイヤーへヒアリングするようにした。最初は、社内からの強い反発があった。「バイヤーはとても忙しいのだから邪魔をするべきではない」と、そっぽを向かれることを恐れていた。だが私は、「とにかくやってみよう」と押し通した。
結果は、驚くべきものだった。彼らは膨大なニーズ、ウオンツを提供してくれ、スーツケースの中身を写真で撮影してくれる人までいた。われわれの意識は変わり、バイヤーとのインタラクティブなコミュニケーションがいかに重要かを確信した。
AIが実現する精緻なマッチングと「公開データ」の活用
カウリ:バイヤーにさらなるメリットを提供するため、彼らの公開データを収集するAIスタートアップとも提携した。バイヤーのウェブサイト、ECサイト、SNSでの発信などから、多くのインサイトが読み取れる。取り扱いブランド、販売カテゴリー、プライスポイントから、SNSで誰に向けてどう発信し、どんな反応を得ているかまで、非常に豊かで動的な全体像が得られる。これらを集約し、一種の「グローバルなファッションマップ(ストアロケーター)」を構築した。
これは出展ブランドにさまざまな利益をもたらす。まず一つ目に、「このバイヤーは、あなたのブランドを求めている」という情報提供ができる。ブランドとバイヤーの、より精度の高いマッチングを生み出すことができるだろう。二つ目に、競合ブランドの市場動向のリサーチ。自ブランドの戦略やマーケティングに大いに役立てられることだろう。デジタルでつながり、こうしたメリットを常に提供し続けることで、「年2回」という見本市の会期だけでなく、「通年」でブランドとバイヤーを支えられる存在を目指す。
業界の他のネットワークと深く接続することも必要だ。ミラノやパリのファッションウイークと連携すれば、さらなる価値を発揮できると考えている。例えば、「このバイヤーは信頼できる目利きである」とわれわれがお墨付きを与える、バイヤー認証システムを構想している。この認証を共有することで、ピッティからミラノ、パリへとバイヤーを橋渡しし、彼らが認める優良バイヤーを招待できるようにもなれば、見本市としてのクオリティーはさらに高まっていくだろう。
WWD:現在、ピッティでは日本のブランドがゲストで招かれる機会も増えている。
カウリ:見本市というシステムの核にあるのは「国際性」であり、協業を深めるべき国として最も注目しているのが日本である。日本は品質、デザイン、コミュニケーションなど、ファッションへの向き合い方がわれわれイタリアと非常に似ている。文化は全く異なるにもかかわらず、ファッションに対するアプローチは深く共鳴している。日本のブランドは、「ピッティ」において非常に重要な存在になっているし、これからもそうあり続ける。そして日本だけでなく、他の国々ともネットワークを広げていきたいと考えている。