「バルマン(BALMAIN)」は3月4日、アントナン・トロン(Antonin Tron)新クリエイティブ・ディレクターが初めて手掛けた2026-27年秋冬コレクションを発表した。14年間メゾンを率いてきた前任オリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)を象徴する、特に過剰なほどの豪華絢爛なスタイルは影を潜め、力強さやシャープさを感じさせながらも抑制された“ミニマルなオピュレンス(「華やかさ」や「豊かさ」の意)“へとシフト。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ジバンシィ(GIVENCHY)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」で経験を積んだ後、16年に設立した自身のブランド「アトライン」(現在は「バルマン」に専念するため休止)で、体を美しく見せる服作りに取り組み続けてきたトロンの実力を証明した。
会場は、パリの街の外れにある元工場。長い空間の片側のみに客席が設けられ、反対側にはレースカーテンのような布が天井から垂れ、無造作なドレープを描きながら床の半分を覆う。その奥にあるシャッターがゆっくりと上がり、スモーク漂う薄暗い空間に光が差し込む中、ショーはスタートした。
着想源は、創業者ピエール・バルマン(Pierre Balmain)が1946年に手掛けた深いネックラインのドレスや、フィルム・ノワールの作品に登場するファム・ファタール(男を惑わせる魅惑的な女性)。そしてファーストルックは、エールフランス(AIR FRANCE)でバルマンが手掛けた制服を着用した初の女性パイロットにオマージュを捧げるものだった。それは、ハイネックとペプラム、そして幅広の肩が特徴的なレザーのフライトジャケットに、細いテーパードパンツ、ポインテッドトーのパンプスを合わせたオールブラックスタイル。その後も黒を始め、暗く落ち着いたカラーパレットが中心となった。
角張ったパワーショルダー、ミリタリーやバイカー的な要素、ボディコンシャスなシルエットなど、これまでの「バルマン」スタイルを象徴する要素を程よく取り入れながらも、マスキュリンなアウターやセンシュアルなドレス、シャープなパンツなどをミックスしたスタイルは、洗練されたエレガンスに着地。特にドレスやトップスなどに見られたドレープを生かしたデザインはトロンが得意とするところでもあり、高い完成度を見せた。そこに華やかさをもたらしたのは、刺しゅうとベルベットやジャカード、人工ファーなどの素材の豊かなテクスチャー。モチーフに創業者が愛したゼブラやレオパードといったアニマル柄を用いるなどして、メゾンの歴史も引用した。
正直、トロンのクリエイションや演出は、ポップカルチャーを巻き込んだエンターテインメント性あふれるショーやクチュール的な高い装飾性でインパクトを残してきたルスタンの時代と比べると控えめだ。その分、実際に日常の中で着る女性の姿をイメージしやすくなったことは評価に値する。今回のコレクションは、既存の顧客を納得させるであろう要素を備えつつも、メゾンが向かう新しい方向性を示すもの。業界関係者から上顧客までを含む観客の大きな拍手は、その方向が間違っていないことを感じさせた。