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ユニクロが“映画のチカラ”で難民の声を世界へ。支援した「難民映画基金」支援5作品が国際映画祭で世界初上映

オランダ・ロッテルダムで開かれた第55回ロッテルダム国際映画祭において、難民の映画作家による短編映画5作品が、「難民映画基金(Displacement Film Fund、以下DFF)」の支援のもとワールドプレミア上映された。映画という表現手段を通じて、避難や亡命という経験を当事者の視点から描いた作品群は、国際映画祭の場で大きな注目を集めている。

「DFF」は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)親善大使を務めるケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)と、ロッテルダム国際映画祭内のヒューバート・バルス(Hubert Bals)基金が共同で創設した基金。避難を余儀なくされた映画制作者、または避難民としての経験を描いてきた実績のある映画制作者の活動を支援・助成することを目的に設立された。創設パートナーには、オランダの文化支援財団ドローム・エン・ダード(Droom en Daad)や難民支援NGOのアマホロ連合(Amahoro Coalition)の他に、20年以上にわたって難民支援に取り組んできたユニクロ(UNIQLO)も参画。創設パートナーは10万ユーロ(約1850万円)を寄付し、同基金は難民の背景を持つ5人の映画制作者に対し、短編映画制作費として1人当たり10万ユーロを助成した。

短編映画助成制度のパイロットプログラムとして、昨年1月のロッテルダム国際映画祭で構想が発表された「DFF」は、わずか1年で支援作品のワールドプレミア上映に至った。5人の映画作家とともに記者会見に登壇したブランシェットは、「これほど早いスピードで実現したことは、私にとって驚きであると同時に、大きな希望でもある。避難を強いられている状況では、絶望している暇はない。上映までの実現の早さは、緊急性に強く共鳴し、『DFF』を支援してくれた人々の愛情と献身の結晶」だと述べ、創設パートナーや関係者への感謝を強調。加えて、「DFF」の支援の意義と展望については、「母国から離れるよう強いられた人々の経験は、驚きに満ち、生命力があり、希望にあふれ、勇気に満ちた物語がある。UNHCRと10年以上にわたり活動するなかで、私が出会ってきた難民や避難民の人たちは、計り知れない希望を与えてくれた。そんな彼らの声を増幅させ、観客に届ける方法を見つけることを誓い『DFF』を立ち上げた。物語を語るという行為そのものが、人と人、そして自分自身の外にある経験をつなぐものだから。次に必要なのは勇気ある配給者」とした上で、本年度も支援プログラムの第2弾を実施することを発表した。創設パートナーのユニクロも、10万ユーロの寄付を継続することを表明している。

難民支援といえば、これまでは人道支援や生活支援、雇用創出などが中心とされてきたが、映画という芸術表現の領域で、当事者による語りを国際的な文化プラットフォームへと届ける取り組みは極めて異例であり、先駆的な試みといえる。加えて「DFF」の支援プログラムでは、テーマや表現方法に制約を設けておらず、物語の構築はすべて映画作家に委ねられている。その結果、上映された5作品はいずれも“難民”という一つの枠組みや固定化されたイメージに押し込められることなく、多層的で新たな視点を観客にもたらしていた。

多層的で新たな視点をもたらす
5つの“難民”映画とは?

例えば、アフガニスタン出身のシャフルバヌ・サダト(Shahrbanoo Sadat)による「Super Afghan Gym」は、アフガニスタン・カブール中心部にあるジムを舞台に、世代の異なる女性たちが雑談を交わしながらエクササイズに励む様子を映し出す。一見すると穏やかで平和な日常風景を切り取った作品だが、その背後には、女性は外出を制限され、自由に身体を動かせる時間や場所さえも極めて限られている現実が浮かび上がる。一日のうち女性がジムを利用できるたった一時間に、夫への不満や体型の悩み、日々の暮らしについて語り合う彼女たちの姿は、抑圧された状況下においても続いていく連帯やユーモアを映し出す。同じく女性を主人公としたウクライナ出身マリナ・エル・ゴルバチ(Maryna Er Gorbach)による「Rotation」では、市民生活から兵役へと日常が一変した若いウクライナ女性が、トラウマや新たな現実と向き合うために体験する催眠療法の儀式が描かれる。戦争という非常事態のなかで揺らぐ個人の内面に焦点を当て、身体と記憶、精神の関係性を掘り下げていく作品だ。一方、感情そのものを主題として掘り下げていく点では、イラン出身モハマド・ラスロフ(Mohammad Rasoulof)の作品「Sense of Water」が際立つ。イランからドイツへ亡命した現実のなかで母国語から切り離された作家が、異国の言語を通して愛や怒り、悲しみといった感情を再発見していく過程を描き、言葉と感情、記憶の結びつきを内省的に描いている。これらとは対照的に、感情を顔に出さない寡黙な男性を主人公に据えたソマリア出身モ・ハラウェ(Mo Harawe)の「Whispers of a Burning Scent」は、観る者の視点によって解釈や結論が大きく揺れ動く作品だろう。35歳の男性が75歳の女性と恋に落ちるという設定を軸に、裁きや忠誠心、内に抱えた罪悪感が交錯するなかで、彼の心の内は明確には語られない。5作品の中で唯一のドキュメンタリー作品となったのが、シリア出身ハサン・カッタン(Hassan Kattan)による「Allies in Exile」。14年にわたり戦争と制作の時間を共にしてきた友人とともにイギリスの亡命希望者施設での生活を記録する本作は、目を覆いたくなるようなシリアでの爆撃の映像と、亡命先で延々と続く待機や書類手続きに追われる日常とを対比させる。5作品を通して浮かび上がるのは、難民という立場や国籍を越えて共有される、表現することと生きることの切実な関係性だ。記者会見に登壇した5人の映画作家はいずれも、映画制作そのものがトラウマや喪失と向き合うための癒やしのプロセスであり、自らの存在と生きる尊厳を取り戻す行為であると語った。

第55回ロッテルダム国際映画祭の会期中、1月30日(現地時間)に行われたワールドプレミア上映には、「DFF」に携わるファーストリテイリングの柳井康治取締役も出席した。柳井取締役は、23年のカンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を受賞した、ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)監督作「パーフェクト・デイズ(PERFECT DAYS)」のプロデューサーを務めた人物でもある。「DFF」を通じて難民の映画作家たちと交流を深めてきた柳井取締役は、印象的なエピソードを語ってくれた。「ハラウェ氏は、作品を観た友人から『全然面白くない』と言われたこともあるそう。ラブストーリーとして受け取る人もいれば、コメディとして観る人もいる。彼の身近な人でさえ、解釈が大きく分かれるという話がとても興味深かった。また、サダト氏の作品では、どの国にもありそうな主婦たちの井戸端会議が繰り広げられ、僕らと何も変わらない日常の風景に見える。一方で、難民という立場ゆえに非常に制限された生活を送っている現実という、その両方を感じられる作品だった。どの作品も映画作家それぞれのパーソナリティが色濃く反映されていて、同じ難民という背景を持ちながらも、作品のトーンも視点もまったく違う。それこそが、今回の5作品の面白さであり、映画という表現の力だと思う」。

柳井取締役は、映画は
「計り知れない、感じるメディア」

難民支援に注力するユニクロだが、「DFF」に投資する今回の取り組みには、従来の支援の枠組みを拡張し、文化や表現を通じて社会と向き合おうとする明確な意志がある。柳井取締役は個別取材に対し、「支援を受けた5人の映画作家が、作品を発表することだけが目的ではない。彼らの物語を起点に、国や文化を越えて広がり、観る者一人ひとりの想像力や感情に働きかけていく。その循環こそが『DFF』が目指す支援の本質であり、ユニクロの思想にも深く共鳴する」と語った。さらに「映画は感情や感覚に働きかけ、難民という問題に“感じる”形で触れる機会をつくるメディア。教育支援や職業訓練といった直接的な難民支援と異なるのは、数値化や即時的な成果では測れない、エモーショナルな側面での連鎖的な影響こそが可能性である点。作品を通じて、一人でも多くの人が何かを感じ取ることができれば、その広がりは計り知れない。そうした考えのもと、他の難民支援の取り組みと同様に『DFF』への支援も継続していきたい」と語った。映画という表現を通じたこの試みは、難民支援の新たな可能性を示すと同時に、企業が社会問題とどう向き合うかという問いを投げかけている。ロッテルダムで始まったこれらの物語が、今後どのように世界へと広がっていくのか?その行方を引き続き注視したい。

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