
PROFILE: オーレリアン・アルベ/「エチュード スタジオ」共同創業者クリエイティブ・ディレクター
仏・パリを拠点とする「エチュード スタジオ(ETUDES STUDIO)」は、ファッションを軸に、アートや出版、音楽といった多様なカルチャーを横断する“スタジオ”として、独自の存在感を築いてきた。クラシックなフレンチテーラリングをベースに、1990〜2000年代のサブカルチャーやストリートの感性を融合したコレクションは、パリ・ファッション・ウイークの中でもひときわユニークな立ち位置を確立している。
共同創設者であり、クリエイティブ・ディレクターのオーレリアン・アルベ(Aurelien Arbe)が、1月20日(現地時間)にパリで発表予定の2026-27年秋冬コレクションの導入となる、最新カプセルコレクションを携えて来日した。12年の設立以来、13年以上にわたるブランドの変遷と、これから描くビジョンについて話を聞いた。
出版やアートを融合した
”クリエイティブ集団”としての成長
──日本を訪れるのは今回で何回目?
オーレリアン・アルベ=「エチュード スタジオ」共同創設者兼クリエイティブ・ディレクター(以下、アルべ):年に1回以上は訪れているので、数え切れない(笑)。日本市場とは良好な関係を築いているし、日本に来るたびに「モノづくりの背景にあるストーリーやディテールを伝えることは大切だ」という思いが強まる。僕たちは、一つ一つの判断に時間をかけ、ストーリーを持って服を作っているが、日本ではそうした姿勢をきちんと受け止めてもらえるし、丁寧さや技術、その背景まで理解しようとしてくれる。それは作り手にとって、本当に心強いことだ。
──ブランド設立以来、大切にしていることは?
アルべ:ファッションだけでなく、出版やアートも含めたクリエイティブ集団というあり方は、創業期の12年当時は少し早すぎたのかもしれない。「出版社なの?それともクリエイティブスタジオ?それともファッションブランド?」と聞かれることも多かった。徐々に理解されるようになってきた一方で、変わらないのは好奇心だ。自分たちがやってきたことをより深めながら、同時に若い世代や新しいメディアにも目を向け続ける。そのバランスが、今の「エチュード」を形作っている。
──美意識やスタイルで大切にしていることは?
アルべ:クラシックなフレンチテーラリングと、若い世代のエネルギーの融合だ。僕たちは90年代から2000年代にかけて10代を過ごし、音楽やグラフィティ、スポーツなどから強く影響を受けてきた。今でもユースカルチャーのエネルギーには惹かれるものがあるが、それをブランドの拠点であるフランスの伝統やエレガンスと重ね合わせたいと考えている。
──パリでは「エチュード」のロゴアイテムを身につけた人をよく見かける。これは戦略的なもの?
アルべ:自然に広がっていったものだ。ブランドは13年続いているし、15年からパリに店舗を構えてからは、継続的にイベントも行ってきた。グラン・パレで開催されている写真専門のアートフェア「パリ・フォト(Paris Photo)」の一環で限定アイテムを作ったり、書籍をリリースしたり、そうした地道な活動の積み重ねが、結果として広がりにつながったと思う。
“雑誌を編集するように”発信する
コラボレーションの哲学
──話題性のあるコラボレーションが印象的だが、コラボ先のこだわりは?
アルべ:僕たちは、顧客を少し違う角度から驚かせるのが好きなんだ。「『エチュード』がこんなことをするとは思わなかった」とか、「どうしてウィキペディアとコラボレーションしたの?」とか、意外性を感じてもらえたらうれしい。こちらから声をかけることもあれば、オファーを受けることもある。戦略的に取り組みつつ、同時に自分たちの直感も大切にしている。雑誌を編集するように、ある時はライフスタイル、ある時はアウトドア、またある時はラグジュアリーといった具合に、ほぼ毎月何かしらストーリーを発信している。そうやって、常に新しい驚きを届け続けたい。
2000年代音楽カルチャーを起点にした
カプセルコレクションを発表
──今回発表したカプセルコレクション“BACKGROUND NOISE”はどこから生まれた?
アルべ:“サウンドメーカー”という存在に焦点を当てた。音楽に限らず、音そのものを扱う人たちだ。インスピレーション源は、エレクトロニックやテクノが広く浸透した2000年前後に、写真家ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)が撮影した、ミュージシャンのエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)のポートレートだ。カプセルコレクションは視覚的にインパクトがあるデザインが多いが、1月のショーでは、より成熟した控えめな表現へと広がっていく予定だ。
──エイフェックス・ツインのロゴで知られる、ポール・ニコルソン(Paul Nicholson)とのコラボレーションも発表した。
アルべ:ポールは、その時代を代表するグラフィックデザイナーの一人だ。彼に「僕たちの'E'ロゴとÉtudes Studioのフォントを再解釈してほしい」と依頼したところ、複数のアイデアを提案してくれた。その中からジェレミーと僕で選んだのが、今回のデザインだ。とても満足している。
──今後もこのロゴを使い続ける?
アルべ:このロゴは、カプセルコレクション限定だ。日本の顧客からいい反応も多く、「続けてもいいかも」と思ったが(笑)、あえてエクスクルーシブにすることで特別感を保ちたかった。
音楽との深い結びつき
パリコレで試されるクリエイション

──音楽とカルチャーから、どのような影響を受けてきた?
アルべ:音楽はずっと身近な存在だった。グラフィティを始めたころはラップをよく聴いていて、そこから少しずつ興味の幅が広がっていった。また、長年レコードを集めていて、音楽そのものだけでなく、ジャケットのビジュアルやグラフィックデザインにも強く引かれてきた。友人のピエール・ルソー(Pierre Rousseau)と、「自分たちがいいと思う音楽を共有したい」という考えから、ネットラジオNTSで番組「Wave Form」を始めた。小さなレーベルからリリースされている作品や、Spotifyでは聴けないような実験的な音楽を紹介していて、気がつけば約5年にわたり、2カ月に1回のペースで続けている。
──ラグジュアリーからデザイナーズまで、多くのブランドが集まるパリ・メンズ・ファッション・ウイークの中で「エチュード」は独自の立ち位置を築いているように感じる。参加し続ける理由とは?
アルべ:ファッション・ウイークでは、少なくとも1時間、自分たちのプロジェクト(コレクション)にスポットライトが当たる。反応や驚き、時には失望まで、その全てが一気に返ってくる。だからこそ、僕たちのようなブランドが、ファッション・ウイークの中に身を置くこと自体に意味がある。ロケーションからモデル、音楽、会場の構成に至るまで、全てを自分たちで決め、その成果を直接評価してもらえる。そのリアルなフィードバックこそが、次に進むための原動力になっている。
日本出店からレコードレーベルまで
「エチュード」が描く次なるビジョン
──昨年の米「WWD」のインタビューで、「2030年に向けて5倍成長を目指す」と答えていた。現在、どのような取り組みを進めている?
アルべ:まず注力しているのが、デジタルの強化だ。eコマースやソーシャルメディアを通じてブランド体験を広げ、インフルエンサーとの協働やコンテンツ制作を継続的に行っている。同時に、販路拡大も重視していること。現在、アジアはヨーロッパに次ぐ第二の市場であり、日本は僕たちにとって最優先市場の一つだ。日本での存在感を高めることが、アジア全体の成長につながる。今回の来日もその一環だ。ブランドのビジュアル・アイデンティティも刷新し、次のフェーズに向けた準備が整ってきた。この時代に改めて前向きに動けていることに、確かな手応えを感じている。
──次なる目標や、今後やってみたいことは?
アルべ:ブランドとして体験型の施策をさらに強化していきたい。日本でも、ポップアップをはじめ、将来的には店舗展開も視野に入れている。また、“ライフスタイルブランド”という概念に引かれているので、ファッションにとどまらず、書籍やアート、ギャラリー、レコードレーベル、映画といった分野にも、表現の領域を広げていきたい。その自然な延長として、インテリアやデザイン、ホームウエアにも取り組んでいくかもしれない。ひとつずつ丁寧に、「エチュード」ならではの世界観を育てていきたい。