ビューティ

「ロムアンド」創業者ミン・セロムが次のステージへ “好き”を原動力に切り開いた キャリア

PROFILE: ミン・セロム/ビューブル ブランド統括ディレクター、YouTubeクリエイター

ミン・セロム/ビューブル ブランド統括ディレクター、YouTubeクリエイター
PROFILE: 韓国出身。2016年にコスメブランド「ロムアンド(ROM&ND)」を創業。25年からグローバルビューティプラットフォーム、ビューブル(BEAUBBLE)のブランドディレクターとして、カラーメイクブランド「グリップ(GLYF)」のブランド戦略やクリエイティブ、製品開発全般を歌手のチョン・ソミと共に手掛ける。登録者数92万人を誇るYouTubeチャンネル「ゲコのオープンスタジオ」を運営し、ブランドのマーケティングやクリエイティブに関するインサイトを共有する傍ら、視聴者と直接コミュニケーションを取りながら、独自のメイクアップ方法やビューティノウハウをコンテンツ化するビューティクリエイターとして活動している PHOTO : NAOKI TAKAMURA

韓国コスメ「ロムアンド(ROM&ND)」を創業し、現在はYouTuberとしても活躍するビューティクリエイターのミン・セロム(Min Saerom)氏が来日した。「ロムアンド」は、美大生メイクブロガーとして有名になった同氏が大学卒業後の2016年に立ち上げたコスメブランド。日本には19年11月に上陸し、ティントリップ“ジューシーラスティングティント”の発色や艶感、パーソナルカラーに基づく色展開がSNSで話題になり、存在感を急速に拡大した。昨年末に「ロムアンド」を離れ、1月からコスメブランド「グリップ(GLYF)」を手掛けているセロム氏に、「ロムアンド」を成功に導いた秘訣や、「グリップ」での新たな挑戦、夢を仕事に変えるヒントについて聞いた。

美術作品をきっかけにコスメの世界へ

WWD:ブログを始めたきっかけは?

ミン・セロム(以下、セロム):大学では美術を専攻していた。それまで、人に作品を知ってもらう手段は展示会が主流だったが、オンラインで発信できたらと思いブログを開設した。人々の注目を集めるために、当時から好きだったメイクの方法も発信し始めたところ、美術作品よりも反響が大きかった。卒業後に一緒に仕事をしないかというオファーもたくさん届き、美術のために始めたブログだったが、結果としてコスメの道へ進むことに決めた。

WWD:「ロムアンド」はどのようにして誕生したのか?

セロム:出版社がブログに興味を持ってくれたことから、卒業後に本を出版することになった。これまでのブログの内容と、新たに作ったコンテンツをまとめたものだ。常に、一方的な発信ではなく、ブログの読者の声を聞き、双方向のコミュニケーションを取ることでコンテンツを磨いてきた。そんな過程でブランドを立ち上げ、「私と共に」という意味を込めて自分の名前の“セロム”と“アンド”を組み合わせた名前をつけた。

WWD:「ロムアンド」が成功した要因は?

セロム:ブランド創業当時はなかなかうまくいかず伸び悩んでいたが、ブログを書いていたころには常に読者とコミュニケーションを取りヒントにしていたことを思い出した。ブランドの改善点についてアンケートを実施したところ、約1600人が回答してくれた。届いた声を全てチェックして、反映させた。もともと成功には執着していなかったが、自分が好きなものをいちずな気持ちで楽しく突き詰めているうちに、想像を超えるほど大きくなって驚いている。

WWD:例えば、どのような声があったのか?

セロム:それまではリップスティックを中心に作っていたが、ティントを求める声が多かった。そこから“ジューシーラスティングティント”(全20色、各1320円)を開発し、ブランドを代表する製品にまで成長した。

またコスメオタクの人たちをオフィスに招き、一緒に製品を開発することにも挑戦した。彼女たちが広報も担当してくれることになり、製品は広く普及した。ブログで発信していたころのアイデンティティーである、読者との意思疎通が生かされて成功につながった。

WWD:1600人もの回答を得られたり、製品開発にも参加してもらえたりしたのは、ファンとの信頼関係があったからこそといえる。ファンとの信頼関係を築く上で、意識していたことは?

セロム:ブログでは、いつも正直に忖度なしのレビューを書いてきた。広告案件もたくさん声がかかったが、案件では短所が言えなくなってしまうので、全て自分で買って試して、本当に思ったことを伝えてきた。

WWD:「ロムアンド」を離れた経緯は?

セロム:「ロムアンド」では、化粧品という形で自分のメッセージを表現してきた。一方で、市場の競争は激しく、他社をけなすような傾向があったり、化粧品メーカーによっては流通の構造などに疑問を感じたりしたこともあった。そういった仕組みを見直し、より健全な産業を目指す活動をするのは、自分の名前がついたブランドでは難しいと思い移籍した。

新ブランドのコンセプトは
「完璧じゃなくて、どこかがとがっていてもいい」

WWD:新たにプロデュースしている「グリップ」はどのようなブランド?

セロム:「グリップ」は、グローバルビューティプラットフォームのビューブル(BEAUBBLE)が展開するカラーコスメブランド。昨年4月に誕生し、歌手のチョン・ソミ(Jeon Somi)さんと共にプロデュースしている。コンセプトは、「完璧じゃなくて、どこかがとがっていてもいい」だ。製品開発においては、「ロムアンド」を手掛ける上で培ったノウハウは生かしつつ、完全に違うものを作ることを意識している。いずれ日本でも展開予定だ。

WWD:特に人気の製品は?

セロム:4月に発売した“グルー グロス”(全8色、各1万6000ウォン=約1600円)は、初回発売から3日で人気カラーの3色“ソミハニ”“メーブルグレイズ”“チェリーグー”が完売した。グロスは唇の艶を演出するためにつけるもので、粘り気は避けられない。「どこかがとがっていてもいい」というコンセプトの下で粘り気は少々妥協し、美しい艶と光沢感を際立たせた処方設計にした。その名の通り、のり(英語でグルー)のような粘着性を持ったことでテクスチャーの面白さから支持を集めた。

K ビューティの魅力を世界に発信

WWD:YouTubeではどのような発信に注力しているのか?

セロム:以前はメイクアップの方法や新製品の紹介を中心としていたが、小さなKビューティブランドを応援したいという思いで、新シリーズ“リブランド”を昨年1月に始動した(コンテンツ発信は同年9月から)。“リブランド”では、質は高いのにマーケティングなどに苦戦しているKビューティブランドを発掘し、どのようにすれば成功するかといったノウハウを発信している。「ロムアンド」も紆余曲折を経て成長してきたので、その努力の過程やノウハウを共有することで、世界におけるKビューティの存在感をさらに高めたい。

WWD:視聴者層は?

セロム:20代のコスメオタクが最も多い。“リブランド”シリーズのコメント欄では視聴者も意見を出してくれ、ディスカッションが発展している。

“オタク力”で夢をかなえる

WWD:今後の計画は?

セロム:来年、新たなスキンケアブランドを立ち上げる予定だ。YouTubeで消費者とコミュニケーションを取りながら、人々が本当に必要としている製品を開発したいと考えている。

WWD:若い世代へ向けて、夢を仕事に変えるヒントとは?

セロム:誰しも好きなものがある。自分が一番好きなものに全力を注ぎ、諦めずに最後までやり遂げることが重要。自分にとってはそれが化粧品だった。“オタク力”という言葉があるように、好きなものであれば強いこだわりや集中力を発揮できるものだ。続けていくのは大変なこともあるが、忍耐強く“好き”を極めることで目標に到達できるだろう。

本文中の円換算レート:1ウォン=0.1円

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