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なぜ韓国は「成分」、日本は「テクスチャー」にこだわるのか? スキンケア開発の裏側に迫る

韓国のスキンケアはシカやレチノールなど「成分」軸の製品が多く、近年の成分コスメブームをけん引している。一方で日本のスキンケアが、世界的に評価されているのは「テクスチャーの洗練度」だ。同じアジアでも開発の方向性に差が生じる背景とは?日韓の文化と法律事情について取材した。

韓国美容はクリニックが主導
結果重視から生まれた「成分コスメ」

韓国コスメの「バイユア(BYUR)」は、韓国と日本で共同開発を行うブランドだ。日韓双方の開発に詳しい亀山彩菜マーケティングPRマネージャーに、まずは韓国のスキンケア事情を聞いた。

「韓国のスキンケアはクリニックから発信されることが多く、“結果”が重視されます。論文データがあって施術にも使われる成分、たとえば“シカ”や“レチノール”などがフォーカスされるんですね。最も影響が大きいのは“化粧品に関する法律”の違いです。韓国ではエビデンスがあれば、広告でも成分の効果を表現できるのです」。

オリーブヤングなど韓国のコスメ売り場を見渡すと、店頭POPに成分の効果を明示した化粧品の多さに気づくだろう。中には外箱に使用前・使用後の肌の写真を載せたものまである。

「“この成分を使えば、こんな肌になる”という効果が、生活者に伝わりやすい。逆にいうと、効果以外のことが求められない傾向があります。そのせいか、韓国のOEM会社は、日本に比べてテクスチャーの選択肢が限られている印象です」。

日本でテクスチャーが進化した理由は
生活者の繊細な感覚と「薬機法」の壁

一方で日本では、化粧品の広告表現は薬機法(正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)の対象になる。誇張表現を防ぎ、国民の健康を守るための法律だが、諸外国に比べると表現が制限される面も否めない。

「成分や化粧品の効果がストレートに訴求できない日本で、差別化を図るとしたらテクスチャーや香りが軸になります。また、日本の生活者は非常に繊細な感覚を持つ点も見逃せません。香りや感触がよくないと、どんなに成分がよくても選んでいただけないのです」。

化粧水や美容液を使う時、日本人は「するんと入っていく」というような表現をする。浸透感を表す表現だが、欧米の開発者からすると「そんなことを言うのは日本人だけ」らしい。

「一般の方も浸透感の差が分かる点に驚きを覚えます。なぜなら、浸透感や感触を韓国の開発者に理解してもらうのが非常に難しいからです。日本語には「こっくり」や「モチモチ」など、テクスチャー表現がたくさん存在しますが、韓国語に該当する言葉が少ないんですね」。

日本は感触や質感を表す
オノマトペが発達した国

言われてみれば、「こっくり」「モチモチ」など、感触や質感を表すオノマトペを、私たちは日常的に使っている。そんな独自の言語文化に注目し、「髪の質感」を表すオノマトペを製品名に冠したのが「ウカ(UKA)」のスタイリング剤“ラブユア ヘア”シリーズだ。開発を担当した、保科真紀ヘアスタイリストに話を聞いた。

「“これは私のこと”と思っていただけるように、多くの人が抱える6つの髪悩みを、『ボサボサ』や『ギシギシ』などのオノマトペで表現しました。ネガティブなワードではありますが、デザインに工夫することで、ポップで愛すべきイメージを打ち出しています」。

開発会議で「髪悩み」について話し合った際、スタッフから出た回答が「ボサボサ」「モサモサ」「ぺちゃんこ」など、全てオノマトペだったという。

「その時改めて、お客さまとの会話にもオノマトペが頻繁に登場することに気づきました。『私って髪がボサボサで』とか『すぐべちゃんこになっちゃうの』とか。お子さんから70代のお客さままで、私達の日常に浸透していると感じます」。

実は日本と韓国は、世界でもオノマトペが多い国とされている。一説には、形容詞や動詞が少ないため、「物や感情の状態」を補足するために発展したとのこと。韓国にも「パンチャパンチャ(=キラキラ)」など、美にまつわるオノマトペは存在するが、こと化粧品のテクスチャーに関しては表現が少ない点が興味深い。前述のような、生活者の「感覚」と「ニーズ」が関係しているのかもしれない。

30~50の試作を経て決定する
日本のテクスチャー開発

“ラブユア ヘア”シリーズにおいて最もこだわった点は、やはりテクスチャーであるという。

「髪質を生かしながら美しく仕上がるように、テクスチャーは6製品全て異なります。たとえば『ボサボサ』は、毛先の自由な動きを生かしつつ、まとまりが出るミルクタイプ。『モサモサ』は膨らんだ髪を根元から落ちつけるために、粘度のあるバームを採用しました」。

髪になじませた時の感触や仕上がりはもちろん、「手につけた時の印象」にもこだわるというから驚きだ。

「なぜなら、最初に触れるのは手であり、そこで不快感を感じると、先に進んでもらえないからです。テクスチャーは1回の試作につき、だいたい3種類提案されます。そこから細部を調整していくので、最終的には1製品につき30~50のサンプルを検討しました」。

ヘアケアのテクスチャーにそれだけバリエーションがあるのも驚きだし、スキンケアの場合、もっと増えることもあるという。日本の処方技術の懐深さに、感動せずにはいられない。

日本のテクスチャー開発と
韓国の技術を融合したコスメ

冒頭で述べた通り、「バイユア」は日韓共同開発を行っており、製造は韓国、テクスチャーは日本の意見を積極的に取り入れている。10月23日発売の“セラム”シリーズは、毛穴の悩み別に3種類のテクスチャーを展開。これは成分主導の韓国コスメでは珍しいという。

「開発担当者に複数のテクスチャーを触ってもらい、1つ1つ説明しながら共通認識を増やしました。おかげで3本とも心地よい感触に仕上がったと思います。韓国はシートマスクやクッション系アイテムの開発に長けており、これらの感触はとても素晴らしい。今後も日韓の技術を融合した製品を開発したいと考えています」と、亀山PRマネージャーは話す。

すでにグローバルブランドでは、テクスチャー開発を日本主導で行うところが存在している。日本の技術を用いたテクスチャーが増えることは、スキンケア全体として見ると喜ばしいことだろう。

また日本のブランドが海外展開する際、各国の法律に準じて「効果を訴求」できるとしたら。効果と卓越したテクスチャーの両立は、大きな武器となるのではないだろうか。日本人特有の感覚と法律の制限の元で発展した技術が、ますます世界に浸透することを願いたい。

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