スイスの高級時計ブランド「タグ・ホイヤー（TAG HEUER）」はこのほど、障がい者の就労支援を手掛けるサンクスラボが主催する「里海珊瑚プロジェクト」に参画した。同プロジェクトでは、サンクスラボの支援で雇用した障がいを持つ社員の2人が、サンクスラボビル内水槽でサンゴを生育する作業をメイン業務とし、海洋環境の保全につなげる。
サンクスラボは、「IT×福祉」をコンセプトに2015年に沖縄で設立。沖縄と九州を中心に全国21拠点で事業を展開し、IT領域を中心に障がい者の就労支援を行う。また、事業主に障がい者を紹介し、雇用義務の解決と継続雇用をサポートする。
雇用の幅を広げると同時に、地元沖縄への社会貢献につなげたいとの思いから、22年にアクセンチュアとの協業で「里海珊瑚プロジェクト」を始動した。デジタル技術を活用し、障がい者が同社ビル内水槽でサンゴを養殖・観察・飼育し、成長したサンゴを海に植え付けて保全する取り組みだ。特徴は、サンゴの養殖管理を通じて障がい者が実践的なスキルを身につけ、就労支援を経て企業の障がい者雇用枠で採用され、継続して養殖業務に携われる点にある。現在14社が参画し、34人の障がい者雇用につながっている。
LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパンのニコラ・セナー（Nicolas Scenner）「タグ・ホイヤー」ジェネラルマネージャーは、「障がい者の雇用率を高めたいと思っても、実際に販売業務に携わってもらうには課題が多い。そんな中、新しい角度での職務を探していた。このプロジェクトは非常に興味深く、障がい者採用を多角的に推進している当社の姿勢とも深く共鳴すると感じた。当社には“アクアレーサー”など海をテーマにした時計コレクションもあり、親和性も高い。本取り組みを通じて、障がい者の雇用もさらに拡大していきたい」とコメント。今後はエキシビションの開催などを通じ、プロジェクトの意義を広く発信していく予定だ。
サンクスラボの村上タクオ社長は、「『タグ・ホイヤー』のようなブランドに参画いただくことで、海のない地域に暮らす人でも、ブランドのファンであれば、その取り組みに関心を持つきっかけになる。環境課題に触れ、環境保全への意識や行動が変わる可能性がある。そうした仲間が広がっていくことに大きな喜びを感じている」と話す。
企業に一定割合以上の障がい者雇用を義務付ける法定雇用率は、26年に2.7％へ引き上げられる。サンクスラボの調査によると、同社を創業した16年には障がい者手帳を持つ人は936万人だったが、約10年で100万人単位で増加している。急増しているのは、精神疾患を持つ人々だ。
村上社長は、「これまではオフィスのバリアフリー整備で身体障がい者が働きやすい環境を整えることが雇用の主流だった。しかし今はそれだけでは不十分だ。精神疾患を持つ人の雇用に企業がどう対応するかが問われている」と指摘する。
サンクスラボは、今後陸上サンゴ養殖を通じて、環境保全とダイバーシティー＆インクルージョン（D&I）の両立に挑戦していく。たとえば、聴覚障がい者の手話スキルを活かし、海中でのコミュニケーション支援やサンゴの育成状況の調査を行なうなど、障がいの特性を強みに変える新たな活躍の場を創出する。また、同養殖システムを病院や在宅環境に導入することで、療養中の人々がリモートでサンゴの管理に関わり、アニマルセラピーやアクアリウムセラピーの効果を得ながら、環境保全に貢献しつつ報酬を得る就労モデルの構築にも着手する予定だ。
