
ワールドとTSIホールディングスの来春の経営統合が発表された翌日15日、TSIホールディングスの27年2月期上期(3〜8月期)決算説明会が開かれた。決算発表後の質疑内容は、両社の統合の背景や今後に関する質問が集中し、TSIホールディングスの下地毅社長はじめ経営陣が回答した。本記事は、その要旨をまとめたもの。なお、両社による記者会見の予定は現時点で未定であり、ワールド側と協議しながら実施の検討を進めるという。
なぜ今、ワールドと統合するのか
ーー今のタイミングでワールド社と統合する決断に至った背景は。
内藤満TSIホールディングス取締役CFO:TSIホールディングスの今の状況というのは、この3年間で進めてきた構造改革の最終年度ということで、全社的なコスト対策も含めた改革を進めてきた。まだまだ足らない部分はありながら、中計を始める前に比べれば、さまざまな意味で収益体質、ないしブランドポートフォリオも補強されてきた認識でいる。
今期は最終年度の仕上げをしっかり行うと同時に、翌年度以降の次なる成長に向けて、いろんな形で組み立てを考えていかなければいけない時期にある。これまで3年間、構造改革をやってきたが、これからの新しい年度については、過去の延長ではなくもう1段、コスト構造改革も含めて成長の加速が必要という環境認識があった。
一方、ワールドは中期経営計画「VISION-W」を発表し、売上高を3年間で3300億円ぐらいまで拡大させ、その先は5000億円から、将来的には(売上高)1兆円を目指すと表明している。コスト構造に関しては、スケールメリットに非常に大きな効果がある。両社でコスト構造をしっかり見直すことで成長余力を生み出し、その成長余力を事業投資や人材投資に振り向けられる。そうした協議を6月ごろから始め、今回の合意に至った。
TSIとしての次のステップへのタイミングと、ワールドが新たに発表した中計の実現に向けたタイミングが、両社の中で非常にマッチした。それが、このタイミングで統合を決断した大きな背景の一つだと認識している。
下地毅TSIホールディングス社長:大事なのは人材の育成と、技術や業界、産業全体の継承だ。新しく変わりながら、技術のいい部分を継承し、ファッションを次の世代に向けて発信していく。そのための人材育成でもある。
ワールドとTSIホールディングスの両社に関わる人材は、1万人を超える。新たな投資と人材育成によって、世界に向けての発信力を持ったリソースの組み方ができるのではないかという、大きな期待感を持っている。
統合に至るまでの背景、今後の数値目標
ーーワールドとの経営統合はいつごろから検討し始めたのか。きっかけになったエピソードは。
内藤CFO:踏み込んだ内容の協議を進めたのは6月ごろからだ。期待されるような面白いエピソードが特にあるわけではない。もともと同業者なので、社長同士やCFO同士など、役員間の交流はあった。その中で、業界を取り巻く厳しい環境について意見交換をしたり、共通意識を持ったりしていた。われわれの次に向けてどうやっていくかという悩みと、ワールドが新しく打ち出した中計の実現に向けた取り組みの中で、6月ぐらいから具体的に経営統合というワードが出て、協議が本格化した。
6月に協議して10月に発表というのは、この規模の経営統合としては非常に短いと思う。実は来年3月(の統合)は、スケジュール的に非常に厳しいんじゃないかということもあった。ただ6月に話が出たときに、やる以上は最短でスピードアップしてやろうと。双方その大変さを覚悟しながら協議を進め、何とか10月、昨日の発表にこぎつけた。通常以上にスピードアップできたのは、常日頃からのコミュニケーションと、お互いの問題意識、タイミングが非常にマッチしたことが背景にあると思う。
ーー単純合算で今期の売上高は5000億円、営業利益は250億円の規模になる。統合で目指す中長期の売上高や利益の目標は。
内藤CFO:たしかに今期の計画を単純に合算すると、売上高5000億円、営業利益250億円程度になるが、これはあくまで出発点、発射台という認識だ。新会社としてこれをどこまで成長させるか、具体的な計画はこれから両社で協議して発表したい。現時点で売上高や利益の目標はまだ立てていない。計画が立ち次第、両社で説明の場を設けて説明したい。
メガリテーラーや低価格SPAには「個性」「高揚感」で対抗
ーー両社が本丸とする洋服の販売が弱体化している。統合で商品開発力や販売力をどう高めるのか。
下地社長:商品力には人が非常に重要だ。先ほども申し上げたように、人材をいかに育てていくか、世の中で起きているトレンドも含めていかに分析していくかが重要になる。より効果的に発信していけるよう、勉強会など、集合体として一緒に学んでいくスキームを組む。それは技術レベルも含めて大きな器になるので、それぞれのブランドの個性を出させながら、情報は共有し、一緒に発信力を高めていく。そうすることで、より個性を強くしていきたい。
販売力も同じだ。一定レベル以上の販売力を持つための研修や教育には非常にお金がかかるが、ここに投資していきたい。技術や組織体制を高めることで、それぞれのブランドの中で(販売力を)強めていく。また、エリアごとに共通の販売員という形でお互いにサポートし合い、店舗をきっちり守っていくための連携もしていく。縦横のベクトルで、人のコミュニケーションがしっかり取れる構造にしたい。基盤の整備が最も重要なポイントになる。
ーーTSIは商品の調達先を大手3社に絞っている。ワールドはエムシーファッションを買収した。新会社の商品ソーシングの考え方は。
前川正典TSIホールディングス取締役COO:商品調達の方針は、これからの協議が大前提だ。その上で一つの考え方として、当社は、エムシーファッションがワールドの傘下に入る前に仕入れ先としての実績があった。今後も前向きに捉えていきたい。エムシーファッションに限らず、TSIの今の調達ルートだけではなく、ワールドが持つプラットフォームを全面的に有効活用していくという大きな視点で、今後の方針を固めていきたい。
ーーメガリテーラーや低価格のSPAブランドと競っていくには、何が必要か。
下地社長:われわれが持っている能力は、楽しさをどう演出するかであるとか、ファッションの喜びや、新しく着飾っていくことの高揚感をどう打ち出していくかというところにある。ワールドとの取り組みの中で、それを後ろで支えてもらえるB2Bのシステムは非常に大きなポイントになる。そこでグループ全体の利益構造がまったく変わるように構築していきたい。そうすることで最終的に利益を還元できる。そしてわれわれが「何でも自分たちで考えてやっていく」主体性を持った企業としてやり続けることで、お客さまのニーズや要望に応えていきたい。
ーー業界の中での現在地をどう見ているか。
下地社長:業界全体として、中間層が細くなってきている。トップの部分にあるラグジュアリーの世界レベルの強化は、非常に強い勢いでビジネスとして活況している。ボリュームゾーンでも、低価格でベーシックなアイテムをメインとした販売網が強い支持を得ている。われわれの業界を真ん中のミドルゾーンとすると、そこが活性化されていないと危惧され、現時点の立ち位置は先細りの状況だというのは、皆さんも理解されているところだ。
ただ、そのまま行くわけにはいかない。お客さまの支持をいただき、自分たちも力強く発信できる環境を、いかに設計していくか。面白いことをどれだけやれるかにかかっている。より楽しく、新しいブランドも既存ブランドも、自分たちの個性を発信することを強くやっていくので、ぜひ期待してほしい。
「リストラは行わない」
ーーシステムや物流は、統合後にどちらの仕組みに合わせるのか。統合に伴う人材配置の見直しや人員削減の可能性は。
内藤CFO:統合後の仕組みや人材の考え方は、これから両社でチームアップして統合委員会的な組織を立ち上げ、個別に検討していく。現時点で両経営陣が一致しているのは、合理性を前提に是々非々で決めていくということだ。最初からどちらかに寄せると決めるのではなく、一つ一つ中身をよく見た上で、より最適な形を目指す方針を確認し合っている。具体的にはこれからの検討になる。
人材面は、今回の統合に伴うリストラは行わないということで、両社の方針は一致している。もちろん人材の活用という観点で、成長分野への再投資が当然出てくるので、それに伴う人員配置の見直しは起こり得る。ただ、いわゆるリストラのような形での人員削減は行わない。これは明確に両社で確認し合っている。
下地社長:リストラは行わない。われわれは人をメインに、技術力も含めて持った人材を育てていくところにフォーカスしている。接客体験を最も重要視した、店頭での販売力も向上させていきたい。
そのために、これから大きな一つの会社となって得る利益を、人材への投資に使っていきたい。もちろんインフラもそうだが、かかる費用の部分は、両社の統合によって大きなメリットが出る。その投資をすることで、よりクオリティーの高いホスピタリティーと商品力を開発していきたい。
ブランドの統廃合は「基本的にはない」
ーー両社ともブランド数が多い。統合後のブランド戦略や統廃合の考え方は。
内藤CFO:統合の中で確認し合っているのは、いろんな業態やブランドが活性化される会社にしたいという思いだ。単にブランドの数が多いから減らすという考え方はない。共通の、効率的なプラットフォームをつくってブランドごとの採算性を上げ、より多くのブランドが収益を上げて存続できる基盤をつくりたい。その意味で、統合に伴ってブランドが統廃合されることは基本的にはない。
もちろん現在も、統合会社になってからも、個々のブランドには成長段階や衰退段階がある。マーケットに支持されなくなったブランドは、統合に関わらずしっかり取捨選択し、見極めていく。ただ、ブランドが多いから一定数減らすという、総体の数で議論するのではなく、あくまで個々のブランドを見極める。統合会社としては、いろんなブランドが生き生きと活躍できるプラットフォームの体制をつくりたい。その思いの中で、今回の統合の話が進んだ。
両社のECサイトはどう共存する?「お客さまが便利に買える環境を」
ーー両社のECサイト今後は。統合するのか。
内藤CFO:(TSIグループの横断型ECである)mix.tokyoは昨年立ち上げたばかりで、目下力を入れているところ。組織図の説明にあった通り、統合持株会社の下には、TSIという中間持株会社と、ワールド・ソリューションズ、ワールド・ブランズという中間持株会社の三つができる。各社そのものをいきなりガラガラポン(でうまい具合に統合する)というのは、現実的には難しい。mix.tokyoもそうだし、われわれでいうとデイトナパークというサイトも非常に大きなウエイトを占めている。まずは個々の力をしっかり伸ばした上で、将来的にそれをどう統合するかを協議するというのが、現時点の考えだ。
下地社長:そういった大きな事業の統合は、ステップ・バイ・ステップで進めていく。お客さまが便利に楽しく買っていただける環境をなるべく早く作っていきたい。ある程度の規模感がある中での楽しい器として構成できるよう、今からスケジュールも含めて組み立てていく。
他社のさらなる合流「考える余地は大いにある」
ーー(グローバルSPAやメガリテーラー・メガサプライヤーとは異なる、多様なブランドやサービスが集うプラットフォームとして)インフィニティ・ユナイテッドは「第3極」という旗を立てているが、新会社への他社の参画も想定しているか。
下地社長:お互いに志が共有でき、大きなシナジーとして、日本国内を含めて業界自体がお互いにしっかり活性化できそうだという議論がなされれば、考える余地は大いにあると思う。
また、脱炭素に関する課題が社会現象として大きなポイントになっている。そうしたところも含めたベースの意識や、共有できる価値観を持てるかどうかが、合理性だけではなく非常に大切なポイントになると思う。そうしたところも含めて議論しながら連携していきたい。