アシックスは、近年の躍進の原動力の1つになっており、“ラグジュアリーライフスタイルブランド”と位置付けて社内で独立カンパニー制を採る「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」事業の成長戦略を発表した。2030年までに「世界の主要都市に、1500平方メートルクラスの旗艦店を新規で4店舗以上出店する」(庄田良二オニツカタイガーカンパニー長)。企画開発面においては26年1月1日付で、アシックスの100%子会社である山陰アシックス工業を「オニツカタイガー」専用生産拠点のオニツカイノベーティブファクトリーに転換。機能とデザインを融合したモノ作りを強化する。
改めて、25年12月期のオニツカタイガーカンパニーの業績予想として、売上高1200億円(コロナ禍前の19年12月期との比較で約2.6倍)、利益450億円(同約5.4倍)を見込んでいると発表。国内主要店舗では訪日客を中心に常に行列ができている状況で、24年度は国内店舗売り上げの7割が訪日客によるものだったが、「(訪日客を含まない)国内売り上げも24年度は前期に対し1.7倍だった」と庄田カンパニー長はコメント。「(他国の客が日本に来て購入するため現地での売り上げが落ちるといったことはなく)グローバルで売り上げが伸びているため問題ない」(廣田康人アシックス会長CEO)という。
庄田カンパニー長が参画した11年以降、それまでの卸販売から直営展開にビジネスの舵を切ってきた。売り上げに占める直営比率は11年度が5%だったのに対し、24年度は99%(内訳は、店舗58%、EC27%、フランチャイズ14%)。「卸販売はトレンド動向に売り上げが左右され、常に新製品が求められる。値引きのコントロールもできない。直営で定番品を充実させ、値引きせず売っていくことがブランド価値の毀損を防ぎ、ブランドとして持続可能な成長につながる」(庄田カンパニー長)と強調する。
出店においては、この7月に世界有数のショッピングストリートであるパリ・シャンゼリゼ通りにグローバル旗艦店を出店した。同通りへの出店は、「日本企業のブランドとして初」(発表リリースから)という。これで、フランチャイズを含まない直営店舗数は日本48、グレーターチャイナ83、韓国32、東南アジア19、欧州7、豪州3となった。現状の最大店舗は上海・張園(ちょうえん)の約1000平方メートルだが、この規模でもフルラインアップ展開はできていないといい、今後、1500平方メートル規模での旗艦店の出店をグローバルで目指す。
「かつて積極出店したことでアシックスとして不採算店舗を抱えた反省から、出店は厳しく精査しながら行っていく」と廣田会長CEO。23年末には北米市場から撤退した経緯もあるが、「実店舗がいいのか、EC がいいのかなどを見極めつつ、27年中には北米で新たな販売の仕組みを立ち上げたい」(庄田カンパニー長)。
3箇所の開発拠点の連動強化
「オニツカタイガー」専用のオニツカイノベーティブファクトリーに転換する山陰アシックス工業は、創業者、鬼束喜八郎の出身地の鳥取にある。これまで数量ベースで「オニツカタイガー」の約4%のシューズを生産しており、転換によってこの数値を大きく変えることはないというが、人気の“ニッポンメイド”シリーズなど高付加価値製品の生産拡大、生産効率向上、職人を育成しての海外拠点の支援などにつなげる。
また、オニツカイノベーティブファクトリーには従来通りの生産機能だけでなく、企画機能も持たせ、オニツカイノベーティブファクトリー、アシックスが誇る神戸のスポーツ工学研究所、「オニツカタイガー」がミラノに持つデザイン拠点のミラノデザインセンターの3箇所が連動することで、これまで以上に企画・開発力に磨きをかける。「アシックスの強みである機能に、ファッションやデザインの力を融合するというのが『オニツカタイガー』ならではの魅力。そうしたビジネスをわれわれと同等の売り上げ規模や利益率で行えている企業は世界でもそうそうない」と、庄田カンパニー長は手応えを語る。